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差し出すもの

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はぁはぁ、と自分の荒い息づかいと、僕の上に倒れ込んだバイウーの吐息が耳に響く。


頭が空っぽだ。

たぶん、ちんちんも。


一杯射精して、媚薬の効果がなくなると、現在の異様な状況に気がつく。

恥ずかしい!!
今、急に羞恥心に襲われている。

僕のお腹もTシャツも、パンツも精液でベチャベヤだ。
きっとバイウーのシャツも…。

そして…何よりも今、気になるのは…凄く重いということだ。
戦う世界に身を置く、鋼の肉体の男、とても重い。

「…あっ…あの…」

もぞっと僕が身じろぐと、バイウーがビクッと反応した。

「動くな!」
「っ!?」
張り詰めた雰囲気に変わったバイウーが、手早く着衣を整えて起き上がった。

僕の上に、バイウーの脱いだジャケットが振ってきた。
たすき掛けにしたホルスターから拳銃を取り出して構えるバイウーを見て、僕は慌てた。

どっ…えっ…なに?
ジャケットを着ようにも、手錠あるし…とりあえず必死にパンツ上げて下半身を隠した。

「ボス!」

部屋には、厳つい顔の部下が飛び込んできた。
「坂巻アスカの捕獲に失敗しました!」
「…それで」
危機ではないと判断したのか、バイウーの拳銃は仕舞われた。
よかった!
兄さんは何とか逃げられたんだ。
願わくば、このまま一人で逃亡して欲しい。

「武装して一人で此処に潜入しました」
「そんな!」
思わず声が出てしまって、二人の視線が僕に向けられた。
「どうやら、お前は相当大切な存在らしいな…」
バイウーは、何か思いついたように眉を上げて微笑むと、部下の人に耳打ちをして彼を部屋から出した。

「なぁ、坂巻ヒナタ……兄を助けたいか」
「もちろんです!」
やはり兄さんには、こんな危険な攻略キャラ達ではなく、優しくて良い男と幸せになって欲しい。
僕は、ガクガクするほど頷いた。


バイウーは、僕の目の前にしゃがみこんで僕の頬に触れた。
「じゃあ……代わりにお前を差し出せ」
「えっ……」

それって…兄さんは見逃してやるから、お前の命を差し出せって事?

ゾクゾクと鳥肌がたった。

そうか……そうだよね。
僕ってどのルートでも大体死んでました。

ゲームと違って、本当のヒナタじゃないから、どうにか未来は変わるかと思ったけど…やっぱり……デッドエンドなんだ。

「……どうした、嫌なのか」

カチャカチャと僕の手錠が外され、床に落とされた。
目の前には、ホルスターに収まっているバイウーの拳銃がある。

「……いや…じゃ……ない、です…」

ただ、ビビっているだけです。
やっと手錠から開放された手はガクガクと震えている。
アスカ兄さんを助けたい気持ちは、100%本物だ。
僕なんかの為に、一人で此処に来てしまうなんて無謀だ。
でも……その気持ちは…凄く嬉しい。
兄さんにとって、僕はちゃんと家族になれていたんだ。

僕は嬉しくて、バイウーにニッコリと微笑んだ。

「そうか…嫌じゃないのか……ふっ…」

バイウーが何故か笑って顔を反らした。

よし!頑張れ、僕!!
一瞬だ。
きっと頭をちゃんと打抜けば、痛いのなんて感じない…大丈夫…きっと大丈夫!!

僕は、バイウーの拳銃にそっと手を伸ばした。

「……っ!」

思ったより重いソレをギュッっと握り締めた。

「何をする!!」
「下がってください」

返り血とか、かかると悪いし…。
ゆっくりと銃口を、こめかみに当てた。

「おい……やめろ……ソレを返せ…」

妙に焦った表情のバイウー。
えっ…駄目なの?拳銃使ったら駄目なの?
それは…無理!僕…怖くてナイフとか無理!
絶対に返さないと、泣きながら首を振った。

「やめろ!無駄に動くなっ…」
「だって…」

バイウーが拳銃返せとか言うからだよ…。
大丈夫、ちゃんと押し当ててやるから、的が外れて流れ弾がバイウーに当たったり……しない…はず。

「ヒナタ!!」
「っ!」
「……兄さん?」

緊迫した空気の中、ダクトみたいな場所からアスカ兄さんが現れた。
いつも着ている真っ黒なパーカーとズボンが、汚れたり、破れて血が出たりしている。

「坂巻…アスカ……」

僕に拳銃を奪われているバイウーは、隠し持っていたであろう小型の銃を兄さんに向けた。
しかし、兄さんはバイウーには目もくれず、武器を構えることも無かった。
ただ、苦しそうな顔で僕を見ている。

「ヒナタ……遅れてすまない……良い子だから……ソレを床に置け」
「兄さん……ごめん…また、足手纏いになってしまいました…」

まさにゲーム通りだ。
僕を含め、ユーザーの思った通り…居ないほうが良い弟。
このまま存在しても、きっと筋書き通り、もっとアスカ兄さんを危険な目に合わせるはずだ。
その中には、兄さんが命を失ってしまうような未来もあるかもしれない。

だから……。

「何を言っている……俺のせいでお前は酷い目に遭っているんだ……すまない……」

ゆっくりと足を進め、兄がこちらにやって来る。

「来ないで、兄さん!」

拳銃を握る手に力を込めると、兄の動きが止まった。

「やめろ……ヒナタ、とにかくソレを一度置いてくれ!」
「……」

早く…しないと。
決意が鈍る。
助かりたいって思い始めてる。二人とも無事に此処から出られて、ハッピーエンドになれる方法があるかも…なんて。
でも駄目だ。
結局、ここから脱出するのも、逃げ続けるのも…誰が戦うのか。だれが、その危険を負うのか。
僕ではない。
僕は、武器を持っていても、戦う男達を倒せない。

生きて遠くの地に辿り着いても、また兄さんに無理させて、自分だけ呑気に暮らすつもりか……そんなの最低だ!

「バイウー……約束を守ってくださいね」

僕は、兄さんから視線を外して、バイウーを見た。
バイウーはチャンスをくれた。
邪魔な僕が消えて、兄さんの役に立てるのだ。例え、バイウーの提案が嘘で、兄さんを襲ったとしても、僕が消えていれば兄さんの生存率は格段に上がる。

ただ…できれば、約束を守って欲しい。
僕が、すがるようにバイウーを見ると、彼は驚愕した顔をしていた。

「約束って……まさか、お前……ちょっと待て!違う!アレは……」

僕は覚悟を決めて、大きく息を吸った。

「ヒナタ!!やめろ!やめてくれー!!」





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