僕、逃亡中。

いんげん

文字の大きさ
上 下
25 / 45

恋人のキス

しおりを挟む

「理斗」
 風呂から上がって来た夕太郎が、僕の部屋に入ってきた。これから僕らはキスをする。しかもディープな恋人のキスだ。そう思うと恥ずかしくて、夕太郎の顔が見られない。つい正座で待っていてしまって、今更どう動いて良いか分からない。
「……」
 電気は煌々と点いている。消した方が良いかと悩み、いや、キス以上の事をするわけでもないし、と思いとどまる。

 夕太郎が僕の目の前に胡座を掻いて座った。床に手をついて、僕の顔を覗き込んでくる。
 つい、唇に目が行ってしまう。
 キスしたいなぁ。そう思ってしまい、自分の唇をしまって舌先で舐めた。

「ああー、理斗が可愛すぎてツラい」
 夕太郎は、上体を伏せて畳をベシベシと叩いた。体、柔らかいなぁと、関係ないことに感動してしまった。
「はあ? 別に僕、女の子みたいな顔してないよ」
「そう、そうなんだよ! 理斗って、元の作りはキリッとしてて凜々しいんだけど、そのマシュマロほっぺかなぁ? なんか、柔らかさもあって、格好いい赤ちゃんなんだよ! 格好いいのに、可愛いんだよ! 最強だよ。分かる?」
 自分の容姿について熱弁されて、僕は恥ずかしさで夕太郎を叩きたくなった。でも、顔を上げた夕太郎が僕の手を掴むから出来ない。
「分かんないよ」
「もー、センス無いなぁ。とにかく理斗は最高に愛おしいってこと。何度も襲いたくなってるけど、なんか背徳感凄いんだよ。初々しくて可愛い高校生カップルの彼氏の方にイケない事するような、こう……ピュアな何かを汚染するような……全世界から批判されそうな気がする」
「よくわかんないけど。僕が子供っぽいから、恋人のキスしたくないってこと?」
「違う違う! します。したいです。ぜひ、理斗と恋人のキスを」
 夕太郎が僕の目をジッと見つめて、何故だか吹いて笑い出した。

「ねぇ! やっぱり馬鹿にしてる⁉」
「あはは、ごめん、ちがう……最高に気分上がって、降りられない、あははは」
 お腹を抱えて、笑いながら夕太郎は目尻の涙を拭った。僕は、両手で夕太郎の顔を捉えて睨んだ。
「笑わない!」
「はい!」
 まだニヤニヤしている。

「真剣な顔して!」
「はい!」
 返事をした後で、夕太郎の喉の奥が、クッてなった。僕が更に顔を近づけて目を細めると、夕太郎が、蕩けるように微笑んだ。少し潤んだ目は、弧を描いて細められ、眉は情けなく下がっている。 
 なんて、幸せそうに微笑むんだろう。
 もし、これが演技ならば、僕は誰も信用することが出来なくなる。

「ねぇ、夕太郎……僕のこと、好き?」
 うん。そう答えるように、夕太郎の目が伏せられ、頷いた。
「理斗、キスしていい?」
 夕太郎が僕の手をすり抜けて顔を近づけて来た。僕は緊張して、目をギュッと閉じて、夕太郎の首の後ろに腕を回した。
「恋人のキスに正解なんて無いよ。俺は、理斗の顔を見ればキスしたくなるけど、深く口付けるよりも、見つめ合って笑っちゃうようなキスが好きだな」
「……」
 夕太郎がそう言うから、目を開けたら、直ぐ側に夕太郎の顔があって、恥ずかしくて、つい笑ってしまった。夕太郎の頬も膨らんで、おでこをくっつけて、微笑み合った。それから、ちゅっと啄むように夕太郎の唇が、僕の唇に触れた。

「……ほんと、笑っちゃうね」
「でしょ」
 僕らは、小さく笑いながら、お互いの顔に一杯キスをした。いつの間にか、寝転んで抱きしめあった。夕太郎の首元に顔を埋めて、逞しい腕に包まれ、泣きたくなった。

 もういい。騙されていても良い。
 だから、お願い。最後まで幸せに浸らせて欲しい。そう、思った。

 しかし――

「ねぇ、理斗。やっぱり、すんごいディープなキスしていい? そんで、なし崩し的に、抜き合ったりとか……」
「……雰囲気返せ」
 僕は、夕太郎の膨らんでいる股間部分を平手で叩いた。

「のぉぉ! 駄目だよ理斗! そこだけは鍛えられないから! 他は何しても良いけど、ジュニアは大事にしてあげてぇ」
 夕太郎が、ゴロゴロと転がりながら股間を押さえ、内股になっている。あれ? ちょっと可哀想な事をしたかな。

「ちんちん、なでなでして」
 動きを止めた夕太郎が、かわい子ぶって上目遣いで僕を見つめた。

「……怪我には圧迫が良いって聞いたことある」
 僕が両手をギュッと握りしめて笑うと、夕太郎は転がりながら襖を開けた。
「大丈夫! 自分で何とかするから。この襖の向こうで、理斗を思いながら、一人でなでなでするから」
 夕太郎が向こうの部屋に入り、顔の隙間だけ残して襖を閉めた。小顔過ぎて、めちゃくちゃ狭い。何だか余計にイラッとした。

「宣言しないで! 禁止、今日は禁止!」
「射精管理……わかった。俺、包帯巻いておくね!」
「……ねぇ! 夕太郎は変態なの⁉ 馬鹿なの⁉ 折るよ! あっち行って」

 僕は、夕太郎のおでこを押して、襖を閉めた。向こう側から「夢で会おうね」という呟きが聞こえてきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

数十年ぶりに再会した神様に執着されて神隠しに遭う話

辻河
BL
・子供の頃に遊んでくれた謎の青年と大人になってから再会したら、二度と離れられないように神隠しされる話。 ・子供の頃に会ったきりの人間を何十年も待ち続けていた攻め(樹巳/たつみ)×何も知らず戻って来た受け(鶉橋周/うずはしあまね) ・R-18部分には☆表記をしています。 ※以下の表現が含まれています。 ・♡喘ぎ ・濁点喘ぎ ・結腸責め

【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集

夜井
BL
完結済みの短編エロのみを公開していきます。 現在公開中の作品(随時更新) 『異世界転生したら、激太触手に犯されて即堕ちしちゃった話♥』 異種姦・産卵・大量中出し・即堕ち・二輪挿し・フェラ/イラマ・ごっくん・乳首責め・結腸責め・尿道責め・トコロテン・小スカ

BLエロ短編集

ねおもの
BL
ただただエロBLを書きます。R18です。 快楽責めや甘々系などがメインでグロ系はありません。 登場人物はみんな学生~20代の予定です。 もし良ければお気に入り登録お願いします。 基本的に1話~2話完結型の短編集です。 リクエストや感想もお待ちしています!

俺に7人の伴侶が出来るまで

太郎月
BL
男爵家男孫として、北国で育った貴族らしさが感じられないジン・ウォーリア。 周りに言われるままに全寮制の貴族学園へ実力を隠して入学、遊び人で面食いな主人公が気に入った人たちと共に大人になっていく話です。 (学園編が終わると大人編に入ります) BL×冒険×バトル 何でもありの異世界ハイファンタジー 総攻め主人公で最終的に野郎だらけのハーレムになります。 超長編でゆっくり進行してます。 R-18は×表記

オナホで童貞卒業します

碧碧
BL
受けがオナホで童貞を卒業(?)する話。 しかし彼氏に散々開発された体では満たされず、初めてのアナニーを決行する。乱れている中、突然背後から聞き覚えのある声が聞こえ・・・。 受けがオナホで腰振り自慰、アナニー、彼氏とのセックス、オナホに入れながらのセックス、があります。閲覧ご注意ください。

【第一部完結】その美人、執着系攻めにつき。

月城雪華
BL
【第一部】朔真(さくま)はブラック企業に勤めており、今日も嫌々ながら会社へ行くはずだった。 しかし準備をしている途中に気絶し、次に目を開けた時には環境だけでなく姿も変わっていた。 どうやら、アルト・ムーンバレイという公爵位の肩書きを持つ貴族に転生したらしく、ここリネスト国での有力貴族らしい。 それだけでなく、王太子であるエルと自分は婚約しているようで── 目覚めたら異世界で、王太子から逃げ出したい公爵VS絶対結婚したい王太子の幕が開ける── 【第二部】アルト・ムーンバレイこと、朔真はリネスト国王太子であるエルと結婚した。 穏やかで時に甘い日々を過ごしていたが、そんな中一筋の暗雲が立ち込める。 二人の式をよく思っていない第二王妃・レティシアを始め、お偉方による「王妃を娶れ」と催促されたのだ。 これにはエルも立腹し、何度も「アルト以外を娶る気はない」と言うが、人知れずレティシアは他国から王女を送り込んだ。 王女は亡き第三王妃であり、育ての母であるベアトリスに似ていて── ✿.•¨•.¸¸.•¨•.¸¸❀✿❀.•¨•.¸¸.•¨•.✿ R-18シーンは★で区別しています 攻めの口調が変わります 第二部から王女が登場しますが、攻めや受けと直接的な絡み(★シーン)はありません 攻めが一部の時よりも暴走気味です

BLの世界で結婚させられ厄介払いされた異世界転生王子、旦那になった辺境伯に溺愛される〜過酷な冬の地で俺は生き抜いてみせる!〜

楠ノ木雫
BL
 よくあるトラックにはねられ転生した俺は、男しかいないBLの世界にいた。その世界では二種類の男がいて、俺は子供を産める《アメロ》という人種であった。  俺には兄弟が19人いて、15番目の王子。しかも王族の証である容姿で生まれてきてしまったため王位継承戦争なるものに巻き込まれるところではあったが、離宮に追いやられて平凡で平和な生活を過ごしていた。  だが、いきなり国王陛下に呼ばれ、結婚してこいと厄介払いされる。まぁ別にいいかと余裕ぶっていたが……その相手の領地は極寒の地であった。  俺、ここで生活するのかと覚悟を決めていた時に相手から離婚届を突き付けられる。さっさと帰れ、という事だったのだが厄介払いされてしまったためもう帰る場所などどこにもない。あいにく、寒さや雪には慣れているため何とかここで生活できそうだ。  まぁ、もちろん旦那となった辺境伯様は完全無視されたがそれでも別にいい。そう思っていたのに、あれ? なんか雪だるま作るの手伝ってくれたんだけど……?  R-18部分にはタイトルに*マークを付けています。苦手な方は飛ばしても大丈夫です。

僧侶に転生しましたが、魔王に淫紋を付けられた上、スケベな彼氏も勇者に転生したので、恥ずかしながら毎日エロ調教されながら旅しています

ピンクくらげ
BL
両性具有の僧侶に転生した俺ユウヤは、魔王に捕まり、淫紋を刻まれてしまった。 その魔王は、なんと転生前に、俺の事を監禁調教したレイプ魔だった。こいつも一緒に転生してしまったなんて! しかし、恋人だったマサトが勇者に転生して助けに現れた。(残念ながら、こいつもスケベ) それからというもの、エロ勇者と2人きりのパーティで、毎日勇者から性的悪戯を受けながら冒険している。 ある時は、淫術のかけられた防具を着させられたり、ある時は催淫作用のあるスライムを身体中に貼り付けられたり。 元恋人のエロエロ勇者と、押しに弱い両性具有の僧侶、元強姦魔の魔王が織りなす三角関係調教ラブ❤︎ 世界を救うよりもユウヤとセックスしたい勇者、世界を滅ぼすよりもユウヤを調教したい魔王。 魔王に捕まったり、勇者に助けられたりして、エロストーリー進行します。 勇者パートはアホエロ、ラブイチャ風味。魔王パートは、調教、背徳官能風味でお送りします。

処理中です...