神様のひとさじ

いんげん

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運命の出会い

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「あれ? 私……どうして、泣いてるの?」

 ラブは、濡れた頬に触れて、とても寂しくなった。
 手には、小さな袋が握られている。
 小さくて丸い、硬い物が入っている。
 とても、大切な物だった気がする。

「ここは、どこだっけ?」
 辺りを見回すと、光り輝く虫たちが、飛び交っている。立ち上がると、膝が痛くて、血がつーっと流れた。

「どうしよう」
 ラブが呟いた時、木の陰から獣たちが顔を出した。皆、同じ方を向いて、唸っている。

「やめて、あっちに行って」
 胸がざわめいて、獣たちに向かって声を掛けたら、彼らは尻尾を巻いて、すごすごと姿を消した。

「ラブ!」
 獣が睨んでいた方から、男の声が聞こえた。ラブが、振り向き目を凝らした。
 男だ。背の高い、うねった髪の男が立っていた。ポンチョ型のコートを着ている。

「ラブ……」
 男は、駆け寄ってラブを抱きしめた。
心が、喜んでいる。逢いたかった。

「貴方が、私の男さん?」
 ラブの質問に、男は体を離し、彼女をじっと見つめた。

「どういうことだ?」
「私、気がついたら此処に転んでたの。貴方が私を迎えに来てくれるはずの、運命の男さん?」
 男は、ラブの質問に、眉を顰めた。

「……俺の名前は?」
「貴方の名前は?」

 首を傾げるラブに、男は溜め息をついた。それから、頷いた。
 男は、しばらく、難しい顔をして押し黙った。
 そして、自嘲するように笑った。

「もう何が起きても、不思議じゃ無い。外は、俺の予想出来ない事ばかりだ」
 呟いた男が、ラブに向き合った。

「俺は、ヘビ。お前の事を迎えに来た」
「やっぱり! 私、貴方のことをずっと待ってた気がするの。貴方に会えて、とっても嬉しいの!」
 ラブは喜んで、ヘビの胸に抱きついた。飛び上がって、痛い膝も気にならないくらい幸せだった。

「お前の名前は、ハブだ」
 ヘビの顔は、ニヤついていた。

「ハブ? 本当に? ハブなの?」
「嫌か?」
「いや……じゃないけど、それじゃない感じがして、モヤモヤする」
「じゃあ、ラブならどうだ?」
 ヘビの手が、ラブの頭を撫でた。

「ラブ? すごくしっくりくる。私、その名前好き」
「そうか、良かった。だが実は、俺達には時間が無い」
「え?」
「俺達は、ある男に追われている。だから、すぐに此処を離れたい。一緒に来てくれるか?」
「うん、もちろんだよ」
「食べる物も満足にないし、家もないんだ」
 ヘビは、自分に呆れたように笑った。

「良いよ。私、実は良い物もってるの! 見て、これ多分食べ物だよ。大事な、大事なものだったはずなんだけど、ヘビになら半分あげる」
 ラブは、飴の袋をヘビに差し出した。

「とっても大切な人に貰った気がするの……大好きだったの」
「……」
「どうしたの? 泣いてるの? 大丈夫だよ。きっと何とかなるよ。ラブね、貴方と最後まで行くの。覚悟があるんだよ。だから泣かないで」
 ラブは、目頭を押さえるヘビの顔を引き寄せ、慈しむように、頬にキスをした。

「必ず、お前を、幸せにする」
「ラブは、ヘビと一緒に居れば、幸せだよ。あっ、そういえば……近くに船がある気がするの……何で覚えてるんだっけ?」
「船か……マニュアルは頭に入ってる。よし、行こう」
 ヘビが、ラブの手を取って歩こうとしたが、ラブは手を引いて止まった。

「どうした?」
「足が痛くて動けないの」
 ヘビは、笑った。
 そして、彼女の前に跪いた。

「これは予想だが、お前は……俺を大蛇だと言う」
 ラブは、ヘビの背中に乗り、目線が高くなり――大蛇だと思った。

「貴方、予言者なの?」
「いいや、違う。ただ……お前のその腕輪は、悪魔が宿っているから気をつけろ」
「えっ!」
 大声をだしそうになり、慌てて口を噤んだ。

「船なら……海の方角だな。急ぐぞ。走るから舌を噛むなよ」
「うん」

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