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楽園へ
しおりを挟む「本当に行くの? 足手纏いは嫌だよ」
朝が訪れ、コロニーの出入り口には、今日出て行く面々が集まった。
土竜と、キボコ、稲子、着いていくときかないバンビの四名が、先発組として移住する事になった。
怪我が治り次第、あと六人が加わる。
「まぁまぁ、アダム。そんな事も有ろうかと、ジャーン」
フクロウが、外に置かれている大きな布を引くと、バギーが二台現れた。
「何よ、コレ」
キボコが、足で蹴った。
「ちょ! 大事に扱って! 人類の遺産を、何とか復活させたんだよ。その後ろのソーラーパネルは特に脆いから、お触り禁止!」
フクロウは、腕を組んで自慢げに説明した。そして、この日のためにアゲハに作って貰ったという、黒いグローブを得意げにはめた。
「一台に三人まで乗れる。俺とフクロウで送っていく」
「僕とラブは、馬で行くよ」
アダムが、指笛を吹くと、山から白馬とロバも現れた。
「呼んでないよ、ロバ」
「ちょっと、アダム。デリカシーないわよ」
キボコが、溜め息を吐いた。
「え? 何で?」
「アダム、キボコの息子さん、驢馬だよ」
ラブは、キボコの肩を抱いた。ごめん、ごめんと反省の色もないアダムは、ロバの首を引いて山に戻した。
「アタシは、そっちに乗るわ」
「アタシも! ヘビと乗る!」
稲子が、ヘビの腕に抱きついた。ラブは、目を逸らし白馬に顔を寄せた。
結局、稲子とキボコが、ヘビのバギーに。土竜とバンビがフクロウのバギーに乗った。
「ちょっと離れて着いてきてね、馬が怖がるから」
ラブとアダムを乗せた白馬が、駆け出し、バギーがその後を追った。
一行は、荒野を抜け、林を慎重に進み、勾配のキツい山を走った。
道になれた馬の足は軽やかだが、バギーは苦戦した。
「おー、ちょっとエネルギーの低下で馬力落ちて来たなぁ」
フクロウは、バギーを停車させた。先ほどまで乗り越えられたような悪路も、何度もタイヤが押し戻され始めたからだ。森の中は、木々の隙間から日が差すが、陰る場所も多く太陽光の充電は減る一方だ。
「アダム、目的地まであとどれくらいだ?」
「うーん、もう近いよ。歩いて三十分もしないかな?」
「そいじゃあ、歩いて行くか」
フクロウがバギーから降りて言った。
「そうだな」
ヘビも、エンジンを止めた。
「えー」
稲子は文句を言っているが、キボコに窘められ、渋々荷物を背負った。持ち出すのは最低限の荷物にと言われたのに、彼女のリュックはパンパンで、入りきらなかった物を手提げに詰めて、ぶら下げている。
「じゃあ、僕たち先に行って、色々準備しているよ。じゃあね」
ラブは、自分の代わりにバンビか、怪我人の土竜が馬に乗ったらどうだろうかと考えたけれど、その発言の暇もなく、馬が駆け出した。
「さて、頑張って歩きますか」
フクロウは、手袋を取って、バギーのハンドルにつけると、いくぞぉ、と努めて明るく拳を上げた。
その横では、バンビが冷ややかな視線を向けている。
「荷物を持つぞ」
ヘビがバンビに、手を差し出したが、叩き落とされた。
「ヘビ、私の荷物を持ってぇ、重いの」
稲子が甘えた声を出した。
「馬鹿言ってんじゃないわよ、さっさと歩きなさい」
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土竜が辺りを見回した。
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「車に驚いてるんじゃないの」
「何となく不気味だよね」
フクロウがニヤニヤ笑った。
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何かに――見られている気がする。
「恐ろしい魔物の、掌の上だったりして……」
「おっさん! 不吉な発言しないでよ!」
稲子が、荷物でフクロウの背を叩いた。フクロウは笑いながら謝り、稲子の手提げを持ってあげた。
「行くぞ」
ヘビを先頭に、一行が歩き出した。
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