47 / 73
白馬の王子様が現実に
しおりを挟む「ラブ、どう? まだ寒い?」
ラブは、温かいシャワーを浴びたあと、アダムに髪を乾かされ、ベットで布団に埋められた。
いつの間にか、アダムの布団も運び込まれて、山のようになっている。
「もう、大丈夫」
起き上がったラブを、アダムが心配そうに覗き込んだ。
「具合悪い? 顔色が悪いよ」
ラブは、その真摯な瞳を見つめ返して、心が痛くなった。
「あのね、アダム……私……」
自分はヘビが好きだ。ラブは、そう自覚して、どうしていいか分からず、頭を悩ませた。
「何? 僕は、ラブの為なら何でもするよ。君を傷つけた驢馬をやっつける?」
アダムが拳を握って笑った。
「そうじゃないの……そうじゃなくて、私、アダムと一緒にいられない」
「どうして? もしも、驢馬に何かされたとしても、それは」
ラブは、言葉の途中で首を振って、アダムの腕を掴んで言葉を止めた。
「私、ヘビが好きなの」
「……」
「だから……」
「それでも構わないよ」
アダムが、ラブの手を掴んだ。
「僕は、それでも構わないよ。イブは、最初に出会った男に恋をするんだよ。だから、それは、僕のミスだし、恋は人生のほんの一瞬、少しの間だけだよ」
「一瞬?」
「そうだよ、その気持ちは一生は続かない。僕は、君を愛しているよ。愛は時に形も変わるけど、続いていくんだよ。ラブは僕と居れば、君が望む通りの生活が出来る。美味しい実を食べて、痛みも苦しみもない、満たされた生活ができる。君が、今僕に恋して無くても良いよ。僕らは長い時間を共にして、お互いを唯一無二の大切な存在にするんだ。それから、最後は本当に一つになる」
「でも……」
「僕は、ラブに恋もしているよ。だって、ずっと、ずーっと夢見て待ち焦がれていた、たった一人の人だもん。だから、僕がラブに愛して貰えるように努力するよ」
アダムの顔は明るく、自信に満ちている。
ラブは、口が塞がれたように、言葉を失った。
「おいで、見せてあげる。僕らの楽園を。君の気持ちは、きっと変わる」
ラブは、アダムに手をひかれ、出口の扉の前までやって来た。
「あー、ちょっと待ってて、用意してくる」
アダムは、支給されたポンチョ型のコートを、ラブに着せた。
ヘビと違う匂いがする。
アダムの背中を見送って、何時もより薄暗い床を眺めた。外の汚れを中に持ち込まないためのマットが置かれている。鳩とそれを洗った日を思い出した。雨のせいだろうか、土汚れがついている。
「はぁ……」
溢れそうなモヤモヤを、溜め息として吐き出した。肩は軽くなったけれど、気分は晴れない。じーっと意味も無く、床を睨んだ。
「まだかな……アダム、遅いなぁ」
暗いところで一人で居たら、段々心細くなって、ラブはアダムのコートを握りしめた。
暫く動かないでいたら、電灯が消えて、慌てて動き出そうとしたら、扉が開いた。
「ごめんね、ラブ。お待たせ」
アダムが入ってくると、電気が点いた。
さぁ、行こう。
差し出されたアダムの手を取り、外に一歩足を踏み出すと、鼻につく匂いがした。
ラブは、クイッと上げて何だろうと、疑問に思い周囲を見回した。しかし、月明かりも遠く、コロニードアも閉まり、よく見えない。促されるまま歩くと、今度は足下が何時もより泥濘んでいて、驚いた。
「……アダム」
「ああ、昼間は雨だったせいかな? ここまで濡れているよね、抱っこする?」
コロニーの出入り口から続くトンネルは排水のために、やや傾斜がついているが、コンクリートで固められているわけでも、石が敷き詰められているわけでもない。人類が再び誕生し、完全に埋められていた状態から掘り進めて道を作った。そのままだ。
なので、雨が降った日に、人の出入りが多ければ、人々はそこで水滴を払うために、土は水を含む。
「いい、歩くよ。それより、この匂いなぁに」
ラブは、アダムの大きな手をギュッと握り、身を寄せて歩いた。
「そこそこ長いトンネルだからね、雨降ったりするとジメジメして、妙な匂いする事あるよね。やっぱり、暮らすのは日の光が当たる家が良いよね。実は、もう大分出来てるんだ」
「そうなの⁉」
「うん。だって僕の方が四年早く生まれたからね」
「そうなんだ」
「そうなんだよ。二年くらい経ってから、ずっとソワソワしてた。まだかなぁ、僕のイブは、まだかなぁって。何が好きかな? どんな顔で笑って、どんな声で話をするんだろう。怒らせたり、喧嘩をしたら、どうすれば良いんだろうって、動物たちのコミュニケーションを観察してたけど、彼ら喋らないし、参考にならないから、偽物でもいいから人間を観察しようって思って、ここに来たんだ」
「偽物?」
「うわぁ、見てラブ。今日は満月だよ」
トンネルを抜けると、夜空には輝く星と、抜け出てきそうな程、大きな月が輝いていた。
わぁ、と圧倒されて眺めていると、隣でアダムが指笛を吹いた。すると、一頭の馬が駆け寄ってきた。
闇の中でも認識できるくらい、輝かしい白馬だった。
ラブの口が、ポカーンと開いた。ヘビの白馬の王子妄想の話が頭に浮かぶ。
「……白馬、本当に来た……」
「どうしたの?」
「へ、ヘビが、白馬の王子が迎えに来るって妄想、若い女の子の病気だって」
「そんな病気があるの?」
「ん、んー、わかんない」
アダムに問われ、ラブは首を振った。アダムは、クスッと笑って、馬の手綱を引き寄せた。胴も厚く、足も太い白馬は勇ましく、聡明な顔をしていた。ラブに顔を寄せてきたので、そっと頬に触れると、スリスリと擦りつけてきた。
「かわいい」
呟いたラブに、「ありがとう」とアダムが照れたように言った。
「アダムじゃないよ、馬だよ」
「えー、まぁ、僕は素敵とか、格好いいの方が良いから、まぁいっか」
「……」
ラブがパチパチと瞬きを繰り返した。
「さぁ、行こうか」
「うん」
アダムは、ラブの脇に手を差し入れ、子供のように抱き上げた。
「うわぁ……高い」
「よいしょ、そうだね、気分爽快だよね」
「馬、私も一人で乗れるようになる?」
「うん、あっという間だよ。この子の番が楽園で待ってるよ」
アダムが、ラブの後ろに乗り、ラブを抱き込むように手綱を手にした。
二人の体が密着し、ラブは胸に広がる安心感に唇を噛んだ。
「よし、出発だよ」
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
【完結】人形と呼ばれる私が隣国の貴方に溺愛される訳がない
紺
恋愛
「お姉様に次期王妃の責務は重いでしょう?」
実の妹に婚約者と立場を奪われた侯爵令嬢ソフィアは、事実上の厄介払いとも取れる隣国の公爵への嫁入りを勝手に決められた。
相手は冷酷で無愛想と名高いが、むしろ仮面夫婦大歓迎のソフィアは嬉々として相手の元に向かう。が、どうやら聞いていた話と全然違うんですけど……
仮面夫婦の筈がまさかの溺愛?!
※誤字脱字はご了承下さい。
※ファンタジー作品です。非現実な表現がある場合もございます。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
OL 万千湖さんのささやかなる野望
菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。
ところが、見合い当日。
息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。
「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」
万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。
部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。
悪役令嬢の私は死にました
つくも茄子
ファンタジー
公爵家の娘である私は死にました。
何故か休学中で婚約者が浮気をし、「真実の愛」と宣い、浮気相手の男爵令嬢を私が虐めたと馬鹿げた事の言い放ち、学園祭の真っ最中に婚約破棄を発表したそうです。残念ながら私はその時、ちょうど息を引き取ったのですけれど……。その後の展開?さぁ、亡くなった私は知りません。
世間では悲劇の令嬢として死んだ公爵令嬢は「大聖女フラン」として数百年を生きる。
長生きの先輩、ゴールド枢機卿との出会い。
公爵令嬢だった頃の友人との再会。
いつの間にか家族は国を立ち上げ、公爵一家から国王一家へ。
可愛い姪っ子が私の二の舞になった挙句に同じように聖女の道を歩み始めるし、姪っ子は王女なのに聖女でいいの?と思っていたら次々と厄介事が……。
海千山千の枢機卿団に勇者召喚。
第二の人生も波瀾万丈に包まれていた。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。
なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。
追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。
優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。
誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、
リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。
全てを知り、死を考えた彼女であったが、
とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。
後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる