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赤い実を探しに
しおりを挟む朝が来て、ラブは部屋にあった服に着替えた。
アゲハのくれた可愛い服ではない。白の綿Tシャツと、ライトグレーの作業ズボンだ。
飾り気のない髪ゴムで長い髪をポニーテールにした。
突進するイノシシのように鼻息が荒い。
玄関に座り込み、配布されたブーツを力一杯締め上げて履いた。
「よし!」
廊下に出ると、朝食時間の為、誰にも出会わなかった。食堂とは真逆の、コロニーの出口へと向かってズンズン歩いた。
(絶対、自分で赤い実を見つけて、ヘビに ギャフンって言わせるんだから!)
ラブは、燃えていた。
バウ バウ
そんな彼女の隣に、サルーキが走り寄ってきた。ラブに感化されたのか何時もより勇ましい顔と鳴き声だ。
「遊びに行くんじゃないからね!」
ワオン
サルーキが頷いた。
二人の歩みは、鉄の扉に足止めされた。
扉は鏡のように輝くシルバーの素材だ。左右にスライド出来る、引き分け戸だ。電子ロックが解除されないと開かない。
「ちょっと、AI神。外に行くから開けて」
『外は獣が生息していて危険です。作業の場合か、獣と戦える能力が無ければ許可できません。許可がある人物なら、端末で電子ロックが解除されます』
「無いけど、出して。外で探さないといけないものがあるの」
ラブは、鉄の扉をドンドン叩いた。ラブに習って、サルーキもドアをカリカリ引っ掻いた。
『何をお探しですか? 三日前に外へ調査に行った部隊が、そろそろ帰還します。次回の調査対象に検討しますので、ヘビに詳しく提案してください』
「自分で探したいの!」
ラブは、扉に手を当てて、開けようと試みる。
「あー、けー、てー」
『許可できません。今から二年前、不用意に外に出て獣に襲われ、帰ってこなかった人間が居ます。以降、コロニーの外に出るには、条件が設けられました。許可が与えられている人間を連れてきて下さい』
「そこを何とか、あけて」
ワオーン
一人と一匹は、ドアの前をウロウロして、押したり、引いたり、叩いたりしてみたが、扉は開かない。
「AI神は、私を此処に閉じ込めて、餓死させる悪魔よ!」
途方に暮れたラブは、床にぺたんと座り込んで叫んだ。サルーキが慰めるようにラブの顔を舐めた。
「おい、何をしている!」
ヘビの叱責する声に、ラブがビクリと震えた。背後から声が掛かったけれど、振り向きたくなくて、頑なに扉を見つめ続けた。
「あら、サルーキも此処にいたの?」
クイナの声に、サルーキが顔を向けた。
「お前、こんな所で何をしているんだ」
ラブの視界の右側にヘビが、左側にクイナが入り込んできた。
「外に行くから、扉を開けて」
立ち上がり、扉を指さした。
「何をしに行きたいの?」
クイナが優しく聞いた。
「捜し物をしに行くの」
ヘビを無視するように、クイナの方を見て答えた。
「何をだ!」
ラブは、答えない。
「何を探しに行くの?」
「赤い実の生えてる木を探すの」
「この近くに、お前が求めているような、実のなる木は生えていない」
ヘビは、ラブの視界に入る為、クイナの方へ寄っていった。
「だって、お腹空いたの!」
ラブは、ヘビに噛みつくように言った。
「普通の食事が嫌なら、我慢して栄養調整食品を食べろ。後は……サクランボとトマトなら用意してやる」
「本当はもう用意しているの。ヘビ、朝から採取して食堂でラブさんの事待ってたのよ」
ニコニコと語るクイナを、ヘビが目を見開いて視線を送っている。
「いいの。全部、自分で何とかするの」
「何とかするって、どうするっていうんだ。外の獣は、サルーキよりデカくて、早い。アイツらの顎は、人の骨をかみ砕くぞ」
ヘビは、ラブを驚かさないように、ボソボソと語った。
「だって、だってお腹空いたし、此処じゃない気がするの、何かが足らないの!」
ラブの必死の訴えに、困った顔のクイナとヘビが顔を見合わせた。
「……わかった。もう調査団が帰って来る。処理が済んだら、俺が探しに行く。だから、お前は此処に残れ」
ヘビの大きな手が、躊躇いがちにラブの肩にのせられた。
「だって、ヘビ、ラブのこと嫌いでしょ?」
「個人の感情は関係無い。俺はお前を拾ってきた責任と、このコロニーの人間を守る義務がある」
「そんなの無くていい。ラブの為にしたいって思わない事は、してくれなくて良いよ」
二人が言い争っていると、扉の向こうから音がした。
扉のロックが解除された音が響き、三人の視線が扉に注がれた。
扉が開いていく。
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