15 / 73
お腹の虫
しおりを挟む「ねぇ、ヘビ。群れの生活って大変なんだね」
無言で先を歩くラブが、思い出したように呟いた。
ヘビが一瞬止まり、歩く速度が緩やかになった。
「何故だ」
「私、あっ……ラブはね、沢山人が居て、栄える事が良い事だと思ってたんだけど」
「ああ……」
「それだけじゃないんだなぁって、ヘビは大変だね。皆の事考えなきゃならないんだもんね」
ラブは、驢馬の意地悪や、キボコと稲子の怒りを思い出した。
今まであった人数は、そんなに多くない。それでも色んな人間が居た。
「俺は、AIの分析を元に、最適解を提示しているだけだ」
ヘビの声が、硬くなった。
ヘビは、生まれた時から、AIに将来の指導者だと言われて育った。誰よりも優秀で、誰よりも正しくあろうと思ってた。
「愛される指導者じゃなくても、ラブはヘビの事を愛するよ。恋もするし、繁殖するよ」
「……」
ヘビの顔が、歪んだ。ラブを振り返り、何かを言おうとして、言葉を噛みしめた。
「ヘビ?」
「お前に、お前なんかに……何がわかるんだ」
ヘビの暗い目が、ラブを冷たく見下ろした。
ピリピリと刺激のある空気が、ラブの心を縮めた。しかし、同時にヘビの心も震えているように見えて、足を踏み出した。
「何を分かって欲しいの? 教えてよ」
「……何も、何もない」
すっと、ヘビが体を引いて、再び歩き出した。
ラブは、目の前から消えたヘビの心が、まだ此処にあるようで、掌を包むように握った。
ヘビの背中を目で追って、駆け出した。
(ヘビ、怒ってる。何が駄目だったんだろう……)
ぐうう
無言で歩く二人の間で、ラブのお腹の音が響いた。ヘビが呆れた顔で、一瞬ラブを振り返った。
「……」
ラブは、お腹は空いたし、ヘビとの関係は上手くいかないし、心の中がモヤモヤとしていた。俯いて歩いていると、クイナの診察室に到着した。
向き合ったヘビが、ツナギのポケットから、何かを取り出した。
「……何?」
「……」
ヘビは答えず、彼の大きな手から溢れる、麻の巾着をラブの手を取って置いた。
「俺にとっては、不要品だ」
「ん?」
「いらいない物ということだ。お前にとって価値があるなら喰え。お前の腹の虫が五月蠅すぎる」
「食べ物? ありがとう」
ラブは、お腹を押さえてぺこりと頭を下げた。
頭を上げた頃には、ヘビは、もう遠くまで歩いていた。
ラブは、気分が浮上し、ニコニコ笑いながら、巾着を開いた。
覗き込むと、サクランボと、赤い丸い飴が入っていた。
「へへへ……」
(何でだろう、嬉しいのに、ちょっと泣きそう。なんでだろう……変なの)
ラブは、ここにコレを詰めてくれたヘビを想像して、目がジワジワと熱くなった。手の中にある巾着を、そっと抱きしめた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
花鈿の後宮妃 皇帝を守るため、お毒見係になりました
秦朱音@アルファポリス文庫より書籍発売中
キャラ文芸
旧題:花鈿の後宮妃 ~ヒロインに殺される皇帝を守るため、お毒見係になりました
青龍国に住む黄明凛(こう めいりん)は、寺の階段から落ちたことをきっかけに、自分が前世で読んだ中華風ファンタジー小説『玲玉記』の世界に転生していたことに気付く。
小説『玲玉記』の主人公である皇太后・夏玲玉(か れいぎょく)は、皇帝と皇后を暗殺して自らが皇位に着くという強烈キャラ。
玲玉に殺される運命である皇帝&皇后の身に起こる悲劇を阻止して、二人を添い遂げさせてあげたい!そう思った明凛は後宮妃として入内し、二人を陰から支えることに決める。
明凛には額に花鈿のようなアザがあり、その花鈿で毒を浄化できる不思議な力を持っていた。
この力を使って皇帝陛下のお毒見係を買って出れば、とりあえず毒殺は避けられそうだ。
しかしいつまでたっても皇后になるはずの鄭玉蘭(てい ぎょくらん)は現れず、皇帝はただのお毒見係である明凛を寵愛?!
そんな中、皇太后が皇帝の実母である楊淑妃を皇統から除名すると言い始め……?!
毒を浄化できる不思議な力を持つ明凛と、過去の出来事で心に傷を負った皇帝の中華後宮ラブストーリーです。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる