神様のひとさじ

いんげん

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恋とは。

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午後になり、端末が
『昼食の時間です』
 と、ラブに告げた。
 ラブは、部屋を片付ける手を止めて、天井を見上げた。

「ねぇ、神様」
『私は、AIのハジメです』

「ねぇ、AI神。赤い実は何処にあるんですか? ラブの男さんは、赤い実を持ってなかったよ」
『このコロニーで栽培されている、食用の赤い実は、サクランボ、トマト、ミニトマト、唐辛子です。ラブさんの実は、ヘビが提供することになっています』

「だよね、ラブの男さんは、ヘビだよね。そのトーガラシ食べたい!」
 ラブは、ベッドに腰掛けて、足をジタバタ動かした。

『唐辛子は、味付けに最適です。単体で食べる事はおすすめいたしません』
「いーの、だって、どれも味がしないもん」
『それは、味覚障害でしょうか。午後の検診でクイナに診察して貰って下さい』

「ねぇ、AI神」
『ハジメと、気軽にお呼び下さい』

「恋って何?」
『恋とは、様々な定義がありますが、特定の人物に対して、特別な感情を抱き、一緒に居たい、触れあいたい、などと精神的、肉体的な一体感を共感したい気持ちだと言われています』
 ラブは、口元に手を当てて考えた。

(もともと、私とヘビは、一つだったのに、一つに戻りたい気持ちが恋?)

『恋は、人類の再びの繁栄に重要な感情の一つだと思います。当、コロニーでは婚姻制度はありません。恋した全ての男性と繁殖が可能です』
「ん⁉」
 ラブは、目を見開いて手首の端末を睨んだ。

「貴方やっぱり、悪魔ね!」
『私は、生命体ではありません。生きていませんので、死すら訪れません。神でも悪魔でも、人でもありません』
「いやああ!」
 ラブは、恐れおののいて腕輪を取ろうとしたが、抜けなかった。

(私、生きても、死んでもいない何かと会話してた⁉ それって、やっぱり悪魔なの⁉)

「へ、ヘビー‼」
 腕輪を取って貰おうと、ドアに向かって走り出した。そして、ドアを開けると、ソコには、思い描いた男が立っていた。
「呼んだか? 俺は、アゲハに言われてだな……」
 面倒だが仕方ない、そんな体でヘビが立っていた。今日も黒いツナギ姿だ。

彼が、何と言って呼び出しボタンを押そうかと悩んでいると、室内から自分を呼ぶラブの声が響き、ドアが中から開いた。

「ヘビー、やっぱりコレとって、悪魔だよ」
「お前、まだそんな事を言ってたのか。昼食に来なかったのも。診察を受けないつもりだからか?」
 ヘビは、食堂でラブの姿を探したが見当たらなかった。現れたアゲハに聞くと、誘ったけど赤い実がないならいらない、そう言われたと。

「もしかしたら、午前中にキボコや稲子に絡まれて気分が滅入ってるのかもね、見てきてやんなさいよ」とアゲハに言われ、ヘビはひとまず無視をした。
 無視をして、いつもより早く食事を終え、歩き出した。

「お昼ご飯、トーガラシある?」
「唐辛子? 無い。お前、辛いものが好きなのか? だったら診療後の菓子は、クルミではなく、唐辛子せんべいにしろ」
「トーガラシせんべいってなに?」
「せんべいに赤唐辛子が振ってある。丸くて、赤いと言えるかもしれない」
 ラブには、せんべいもピンと来なかったが、ヘビの言葉に目を輝かせた。

「食べる。ねぇ、ヘビ。この悪魔、追い払う呪文とかない?」
 ラブは、ヘビの目線に自分の腕を翳す為に、背伸びをした。

「……ハジメ、この女の個別のアシスト機能を最低限に変更してくれ」
『この女では、個別認識できません』
 ラブの腕輪を通してハジメが話した。ラブは反対の手で、バシバシとヘビの胸を叩いて急かした。

「……」
 ヘビが押し黙った。

「ヘビ?」
「……ラブ、の個別アシストを無しに変更してくれ」
 ヘビは、ラブから顔を逸らして言った。
 ラブは、ヘビに名前を呼ばれ、喜びが広がった。

「ヘビが、名前で呼んだ! ラブって呼んだ!」
「五月蠅い。黙れ」
『ラブさんの中等度に必要だと思われるアシストは、誰かにメッセージとして送信しますか?』
「後で設定する……」
『承知しました』

「私……ラブのこと好きになった? 恋した?」
 ラブは、目を輝かせてヘビを見上げている。

「ならない。恋なんて感情は持ち合わせていない。俺には、お前を此処に連れてきた責任があるだけだ」
「ラブ、ラブだよ」
「時間だ。作業に行くついでに、クイナの診察室まで案内してやる」
 ヘビが、素早く方向転換をした。

「ラブ、おいで。一緒に行こうだよ」
「黙れ。それ以上騒ぐなら置いて行く」
 ヘビは長い脚で、先を歩き出したので、ラブが急いで追いかけた。
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