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第四十四話 意地悪な詠臣(性描写)

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「好きです、詠臣さんが大好き」
 照れて笑いながら、寧々が詠臣のTシャツの胸元を掴んだ。

 詠臣が、緩く首を振り、寧々の顔の側に肘をついて、唇を重ねた。苦しくて重いくらいのキスに、あがくように詠臣の髪に手を差し入れ、遠ざけようとしたけれど、左右に顔を倒して何度も口付けられた。まるで沈んでいくように深くなるキスに翻弄される。
「んっ……あっ……はぁ……あっ」
 重なり合う唇と体が、握りしめられた手が、吐息が……熱い。
「ん……え、いしん……さ……あっ……」
 食らいつかれた唇が開かれて、詠臣の舌に口腔内まで愛撫される。大きな手が寧々の耳に触れて弄んでいる。
 くすぐったくて、心地よくて、寧々は仕返しに詠臣のTシャツに手を入れ、胸を掴んだ。

「寧々……」
 楽しそうに大胸筋を揉み始めた寧々に、詠臣の口付けが止まる。
 どうしたものか、とばかりに思案した詠臣が、肘をついていない右手で寧々のワンピース型の部屋着から覗く太股を撫でた。節くれ立った硬い手が、優しく動くと、ゾクゾクする気持ちよさが走る。
「ひゃあ……」
 楽しんでいるところを邪魔された寧々が、少し怒った顔で詠臣の腕を払った。その様子が可愛くて詠臣が笑って、再び寧々の足を撫でる。
「だめっ……詠臣さん!」
 寧々がギュッと足を閉じ、詠臣の右手を左手で捕まえ、再び詠臣の胸に手を当てた。
発達した大胸筋を、むにむにと揉む。

(何でしょうか……コレ……すごく、楽しいです……)
 寧々は目を輝かせて笑顔で詠臣を見上げると、詠臣は声を殺して笑っていた。
そして、寧々に掴まれていた手を抜いて、体を起こした。
「あー」
 離れて行く胸に不満の声を上げると、詠臣が寧々を抱き上げた。
「わぁ……」
 軽々と横抱きにされて、三半規管がついていかなかった寧々は、ぎゅっと目を瞑って詠臣の首に腕を回して抱きついた。スタスタと詠臣の足が進み、恐る恐る目を開けた頃には、ベッドに優しく下ろされる所だった。

「あっ、詠臣さん! 私、お願いが……」
 寧々は、二人のベッドをくっつける作戦を思い出した。やろうと思ったけれど、海外のベッドは重すぎて、寧々の力では一ミリも動かなかった。
「何でも叶えますが、後にして下さい」
 詠臣は、寧々を膝で跨ぐと、自らのTシャツを脱ぎ捨てた。
(脱ぐだけで……格好いい……)
「はい」
 コクコクと頷くと、軽い口づけを落とされた。

 微笑む詠臣が、肘をついて隣に横たわった。開いている右手がワンピースの下から肌を撫でて入ってくる。太股、お腹、ウエストをさすられ、耳元で寒くないですか?と聞かれた。
「だっ…いじょうぶ…です……んっ」
 詠臣の手が、寧々の体中を撫でていく、労るような優しい動きの中に、少し意地悪な愛撫が混ざっている。
「やっ……あっ……」
「寧々……綺麗です……貴方が愛しい……」
 優しい視線を送られ、蕩けるような甘い言葉を聞かされながら、体中に火を付けられて炙られていく。
 撫で擦られた敏感な乳首、ショーツの上から陰部に触れてくる大きな手。

「時間が戻るなら、彼より先に、貴方に出会います……」
「え? あっ……やっ……だめ…」
 小さな声で囁いた詠臣の言葉は、寧々にはよく分からなかった。それよりも、ショーツをずらして入って来た、指が濡れ始めたソコに直接触れたことに体が震えた。
「あっ……あぁ……ふっ……」
 気持ち良いけれど、苦しい。寧々は何度、詠臣と体を重ねても、快感になれない。この気持ちよさに全部身を委ねてしまうことが怖くて、耐えようとする分、苦しい。
「寧々……」
 足を閉じて抵抗しようとするけれど、詠臣にとっては、何の邪魔にもならない。
 そんな寧々のいじらしい姿が、詠臣をより興奮させている。
 詠臣のソコも、もう形を変えているが、ひたすら寧々の体を開くことを楽しんでいる。

「詠臣さん……もう、やっ……あぁ…あっ……やだっ……」
 詠臣の指が、寧々の中で、くちゅくちゅと音を立てて蠢いている。寧々の気持ち良い所を撫で擦りながら、自らの場所を確保するように、ゆっくり、着実に解していく。
「んっ……ああ! やだ……もう……いっちゃう……あっ……あぁ…」
 寧々の指が、詠臣の太い腕に爪を立てた。

 詠臣は、寧々を抱くのに、早急に事に及ぶことはない。時間をかけて、焦れるほど、逃げ出したくなるほど、寧々を溶かしていく。
 だから、寧々は余計に快感が怖い。一人だけ馬鹿みたいに翻弄されて、熱くなって、前後不覚に陥るのが恥ずかしかった。
でも、そんな自分を満足そうに見つめる、寧々だけが知っている詠臣の顔が好きだった。普段は決して見せることのない、意地悪で少し怖い目をしていて、どこか……匠の目に似ている。全然違う二人なのに。
「詠臣さん……もう、や……気持ちいいの……怖い…あっ…やあぁ!」
「寧々、今、私の事を見てましたか?」
 何を聞かれているか分からなかったけど、早く何とかして欲しくて、必死に首を振った。

「……貴方を抱いても大丈夫ですか」
 やっと体を起こした詠臣が、寧々の胸に耳を当てた。心臓の鼓動を聞いている。
「もう……良いですから! ひゃあ」
 詠臣の指が抜けた。
 ショーツが抜き取られて、詠臣のズボンと下着が下ろされ、硬く勃起したものが宛がわれた。
「寧々……愛しています」
 それが、恐ろしくゆっくりと、入ってくる。毎回、この瞬間、耐えがたい羞恥心と興奮に叫びたくなる。
「詠臣さん!」
 押し寄せるもの全てから助けて欲しくて、詠臣に腕を伸ばすと、興奮した顔の詠臣が、寧々の頭を抱き込み、顔中にキスを振らせながら、腰を打ち付けた。

「あっ…あぁ! うっ……んん! やああ……あっ、ああ!」
 寧々は声にならない喘ぎを漏らしながら、詠臣の動きに翻弄された。
 ベッドの軋む音が五月蠅い。
 水を含んだような厭らしい音が耳の中で響いている気がする。
 きもちいい……頭の中が、きもちいいと、苦しいに支配されている。
 気持ち良くて、苦しい。
「やだっ…詠臣さん……ああー!いやっ……あっ…あぁ…助けて……やぁあ…」
「……寧々…寧々…」

 寧々がもう嫌だと泣き始めた頃、詠臣の熱がゴムの中に放たれた。

「寧々……お水を」
 体力が無く、ぐったりと横たわる寧々を、詠臣が甲斐甲斐しく世話している。
寧々の為にストローを差したペットボトルを用意し、水分補給を済ませると、布団を掛けた。

(愛し合うって、気持ち良いし、心も体も近くなる感じがして満たされるけど……大変……凄く疲れる……健康な夫婦は毎日してるんだよね? すごいなぁ)

「どうしました? 気分が悪いですか?」
 ベッドに腰掛けた詠臣が、寧々の髪を撫でて聞いた。
 寧々は頭を振って詠臣の手を捕まえて握った。
「健康なご夫婦は、毎日しているのかと思うと、皆さん凄いなぁと思って……」
「……さぁ、どうでしょうか……他人と、そういった話をしたことがありません」
「しなくて大丈夫です! 詠臣さんにそんな話をされたら、皆さん、詠臣さんの事を好きになってしまいます」
「なりません」
 詠臣が呆れたように笑った。
(その笑顔も素敵すぎます……)

「むしろ、寧々が気をつけて下さい。女性以外と恋愛の話なども危険です」
「え……あ、はい……」
 思い起こされる、昼間のキスが胸をつつく。
「寧々……」
「あー‼ え、詠臣さん! ここ、この住宅って……防音は?」
 寧々が体を少し起こして、詠臣の太股の上に手をついて顔を近づけた。

「どうでしょうか?」
「わた、私……大きな声をだしました! 自分でも聞きたくないくらい恥ずかしい声で……あ……ああぁ……ど、どうしよう……聞こえてたら、恥ずかしくて死んじゃう!」
 寧々は耳を塞いで、詠臣の胸に頭を押しつけた。

「この部屋の壁の向こうは、琳士くんですね。試しにノックしてみますか」
 詠臣の長い腕が伸ばされて、壁に当てられた。
「え、詠臣さんの意地悪! もう嫌いです!」
 寧々が詠臣から離れ、布団を被った。
「すみません。私は、貴方に嫌われても、ずっと変わらずに愛します」
「……」
 布団から頭を少しだけ出して詠臣を見上げた。
「おやすみなさい。明日は休んでいて下さい」
 詠臣の手が寧々の髪を優しく撫でた。
(なんだか……凄く、私の負けな気がします……)

「おやすみなさい。あ、今度……ベッドをくっつけて下さい」
「喜んで」
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