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ダリウスの所業 豹兒視点

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「……ポチ」

 俺の目の前で首を切って倒れたポチは重体だった。頸動脈は傷ついていなかったけれど、かなり深く切れていて……必死に止血したけれど、流れた血は多い。正直……ポチが意識を失った時、もう駄目だと思った。だから……俺も一緒に逝こうと思った。だから、ポチにキスして……ポチの心臓を撃って、俺も死のうとした。

 でも、そのとき……倉庫に蒼陽が駆け込んで来た。探していたという医者をつれて。

「ポチ!!ポチ!どうしてこんなことに……」
 蒼陽が俺を押しのけて、ポチに覆い被さった。俺は、もう絶望していて、ただ目の前の出来事を呆然と眺めていた。
「どけ!最後の世代なら……まだ助かる……」
 医者が、言った言葉に光がさした。体に力が蘇って、医者の処置を見守った。

「……くそっ……なんでだよ」
 いつの間にか現れたジフが、俺の横で俯いている。

 俺達は、為す術も無く……ただ、死んだように横たわるポチを見つめていた。
 ポチの小さな体は、細くて……血を失い真っ白で、見ているだけで痛々しかった。そして、何も出来ない自分が情けなく、無力感にさいなまれた。ゾンビを倒すしか能が無いのに……それすらも満足にできず、今……一番大切な存在を失いかけている。
 はじめて、他人に助けを求める人間の気持ちがわかった。誰でも良い……何でもする、だから、ポチを救って欲しい。

□□□□


 医者の指示で血を採られ検査をされて、レッドの血がポチに注がれた。何だか凄く嫌で、何故俺じゃ無いのかと言ったら、ジフが「そうか……お前、前の世界しらねぇもんな……あるんだよ、型とか」と言われ、読んだ本について思い出した。

「命は助かったが……最後の世代がゾンビにならないわけじゃない……ただ、余りに……体に変化がなさ過ぎる……」

 処置を終えた医者が、考え込んだ顔をしている。医者は50代くらいの細い男だった。
 ポチと関係があるらしく、その話は今度してやると言っていた。

「どういうことだ?」
 ジフが質問した。
「最後の世代でも、ゾンビに噛まれた場所は腐る。ゾンビに噛まれた人間は怪我は治るが、噛まれた場所からゆっくりと腐っていって最後の死を迎える。なのに、この子の腕は腐ってない」
「じゃあ、ポチはゾンビにならないって事ですか?」
 蒼陽が目を輝かせて医者に詰め寄った。
「いいや……それは……この子を噛んだゾンビの遺体をみせてくれ」
「……あー、あることは有るが、ソイツが……ぐちゃぐちゃにしたぞ」
 ジフが蒼陽を指さして言った。
「見たい場所さえ無事なら……まぁ、とにかく案内してくれ」

□□□□

 ポチの事があって、まだ殺したゾンビは、そのままだ。異臭の漂うなか、医者がゴム手袋をして、あの男のズボンを切って開いた。血を抜かれたレッドは部屋で横になっているので、俺とジフと蒼陽が、その様子を見守っている。

「……」

 医者は、納得したように頷いて立ち上がった。

「どうなんだ?」
 一歩近づいたジフが、医者に尋ねた。早く答えが聞きたい……ただ、悪い話は……聞きたくない。
「あの子は、ゾンビにならない」
 その一言に、俺達は湧き上がった。

「ポチ!!良かった!!」
 蒼陽は胸を掻きむしりながら叫んだ。
「……!」
 俺は言葉にならない喜びにグッと両手を握りしめた。
「……なんだよ……あいつ……マジかよ……殺すところだったじゃねーか!!くそっ!!」
 ジフが自分の頭を叩きながら涙を流している。

「……でも、何故なんですか?」
 涙を拭いながら、蒼陽が聞いた。
 それは聞きたい。今までゾンビに噛まれてゾンビにならなかった人間を見たことが無い。
「……あの男は……ゾンビを……犯した……腐っていた」
 医者が押し殺した声で言った。
 一瞬、理解できなかった。犯した?腐っていた?
「……糞野郎」
 ジフかと思ったら、蒼陽の言葉だった。
「アイツ……ゾンビとヤッたのか?そこまで……ぶっ飛んでいるやつだったのか……」
 ジフが目を剥いている。やる?ゾンビと、セックスを??
 あの男、そんな事をしていたのか……。

「偶に居る。変わった世界に絶望してそういうことをする奴と、もともとそういう異常なタイプと……とにかく、ゾンビを犯しても感染するが、感染力を持つには時間がかかる。大概、その前に死ぬ。だから、あの子は……ゾンビにはならない……ただ……」

 喜んだのもつかの間、また俺達は頭を悩ませることになった。



 


 
 
 

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