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芳親とポチ(仮)と俺

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 夢を見ているのを自覚している夢、みたいな感じだ。

 俺、今……夢見ているわ。

 目の前に広がる、なんとなく見たことある風景。植物が絡みついてなくて、ガラスも割れていないビル。綺麗に舗装されて走りやすそうな道路。夜なのに明るい町並み。普通の人間が沢山歩いている風景。
 あぁ……懐かしい、現代の日本だな、ここ。駅前の……。

『ああ!!あの……柴犬を追いかけていった所じゃん』

 しかも、目の前には、俺が倒れている。日本で暮らしていた、平凡な顔をした平凡な男が。
 今、立っている俺は、ポチの体のままだ。しかも血だらけ……あれ??なんだろう、このデジャヴは……。

『思い出した……そうだ、柴犬を追いかけて……俺、ポチに……芳親に会った』

 で、俺は芳親に成り代わったの?

「……」

 頭を悩ませていると、目の前の俺が起き上がった。俺の意識は芳親の中なのに!
俺の体は、キョロキョロと周りを見回して、不思議そうに立ち上がった。

『なぁ!芳親!君は、芳親なのか?』

 俺は、自分の体に触れようとしたけれど、手はすり抜けるし、声は聞こえていないようだった。

「あー、あー……喋れる」

 目の前の俺が楽しそうに笑った。蒼陽が、芳親は喋らなかったって言ってた。やっぱり、芳親なのだろうか。どうしよう。例えば、これから芳親が俺の体で生きていくとして、言葉も通じないし、相手から見えないのに……どうやって、芳親に俺の事を伝えたら良いのだろうか。
 俺は、ジフに拾って貰えたけど、現代日本で平凡顔の不審者なんて拾ってくれる人居ないだろう。

 不思議と体を返せとは思わなかった。だって、俺……芳親の体、ゾンビにしちゃって死んじゃったし。これはきっと、死後のボーナスステージでは?俺が芳親の面倒をみろってことでは?

どうしよう。どうやって住所や仕事を教えれば良いんだ!?

くそ……悲しみに浸る暇も無く頭が痛い。

「ワン!ワン!」

 その時だった。さっきの柴犬が俺に向かって吠えた。ま…まさか見えているの?えっ……動物って第六感あるの?

「ポチ!」

 芳親が入っている俺が、柴犬に抱きついた。えっ……ポチ?こいつポチなの?いやいや、そんな都合の良いことないでしょう。ただの、他犬のそら似でしょ。 いや、でもそれでいいや。

『おい、ポチ!俺に付いてきて』
「ワン!」
 賢くて第六感をお持ちのポチ(仮)に話しかけ、俺が歩き出すとポチが付いてきて、その後ろを芳親が付いてきた。よし、よし良い感じだ。
 夜の街をお化けとなって歩き、我が家についた。
『ポチ!ポケットを引っ掻いて鍵を発見させて』
 芳親の尻ポケットを指さしながら言ったら、ポチが芳親の尻をカリカリ引っ掻いた。
「どうしたの、ポチ……あれ?鍵だ……ここ?この人の家?」
 芳親は、どこまで今の状況について理解しているのだろう?さして動揺もせず、流れに身を任せているように見える。ニコニコして楽しそうだし。
「ワン!」
『しっ!ポチ!ここ古いから動物禁止じゃ無いけど、五月蠅いのは駄目!』
「くぅーーん」
 俺が怒ると、ポチがしょんぼりして、罪悪感にかられる。
 そんな俺達を尻目に、ポチが俺の部屋の鍵を開けた。
「うわぁあ、凄い良いお家だね」
 悪い気がしない。そうだね、あの世界からしたら、この部屋だって凄い良い部屋だよね。
 芳親、驚くなよ、レバーを上げるだけで水がでるし、コンロを回すだけで火が付くんだぞ。トイレも水洗だし、水を運んで湧かさなくても、ボタン一つで風呂に入れるんだ!
 どうぞ、思う存分使って欲しい。両親の保険金もあるし、仕事クビになっても暫くは暮らしていけると思う。

 一人と一匹と、幽霊一体が部屋に入り、ドアが閉まる。

「……あれ?これ……」
 部屋の中に足を進めた芳親が、テーブルに置かれた本を手に取った。
『……屍街世界……』
 突然、豹兒やジフ……みんなが恋しくなった。
「……蒼陽……」
 表紙を見て、芳親が呟いた。ポチが芳親の足にすり寄っている。
 ポチ……足跡……部屋の中凄いよ……まぁ良いけど。
 そんな現実的な事を考えていたら、芳親が小説をペラペラと捲った。
『うそ……ちょ……待って止めて!』
 俺が呼んだ小説と挿絵が違う。
 4巻はジフが倒れているシーンとか、ダリウスが蒼陽にちょっとかい出している挿絵だったのに……違う。

『まって……見せて……』
 無理だとわかっていたのに、芳親の肩をつかもうと手を伸ばしたら……さっき見た時よりも、俺の手が薄くなっている。もう時間がない感じなのだろうか?

『ねぇ!話は変わったの?皆は幸せになれるの?』
 いてもたってもいられず、芳親の持つ小説に手をだした。
 触れた手から、俺の体が消えていく。

『……あっ……あ……』
 これで、これで……本当に終わり?俺はこれで消えるのだろうか。

「ワン、ワン」
 消えていく俺に向かってポチが吠えている。
 ポチ、芳親のことはお前に任せた!
「ワン!」
 なぜか頼もしく見える柴犬は、一つ吠えてお座りをした。
「ポチ……俺、消える前に……蒼陽を笑顔にしてくれる人が、俺の体に入ると良いなって願ったんだけど……そうなったみたい」
 芳親が、ポチに向かって小説を開いた。

 そこには、笑顔の蒼陽と、豹兒、ジフ、レッドが居た。


 あっ……そう……なんだ、良かった。


 えっ……でも、蒼陽主人公でしょ、BLでしょ?
 蒼陽、誰かと結ばれるの?
 まさか……豹兒!?

 うそ……それは……嫉妬と好奇心がヤバい……。
 死んでも、死にきれない。

 豹兒、俺の事忘れて幸せになって……でも、せめて半年くらいは………喪に服してください……。

 

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