太陽と可哀想な男たち

いんげん

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キャンプに来たよ

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「ひゅーーーーーーう!生きてて良かった!母さん産んでくれて有難う!!」
「おおげさか」

夏休みに入り、亮平と二人でキャンプ場にやってきた。
もちろんメインは昆虫の観察。めちゃくちゃ楽しい。亮平と友達になってから毎年行っている大好きなイベントだ。

一番安いSUV借りて、キャンプ用品詰め込んで…昆虫好きに人気のスポットにやって来た。
亮平のこだわりでマニュアル車借りたから、運転ちょっと面倒だった。基本的に、我を通すタイプじゃ無いのにこだわりには五月蠅い。亮平と買い物に行くと長い。とにかく長い。
俺の服も選んでくれる時あるけど、アレもコレも着せられて、すげぇ疲れる。「俺、何でも似合うからこれでいいだろ」って言うと「何でも似合うから可能性が無限すぎるだろ!」とか良く分からないことで怒られる。まじで一緒に行きたくない。
うっかりスカウトとかに声掛けられたりしたときの、威嚇すげぇし…。亮平さんは、たまに狂犬だな。

「さすが山は涼しいな」
亮平が綺麗につめたキャンプ道具を、下ろしはじめた。都心は外出ただけで死にそうだけど、山は良い…暑いけど暑さが違う。
俺はテント張りそうな場所の石や何かをどかす。薄らと浮かぶ汗を、亮平に貰ったリストバンドで拭った。
「今年はどんな昆虫ちゃんに会えるかなぁ。今のクワガタロボが良い感じになったら、次は砂潜り系に行こうぜ。ウスバカゲロウの幼虫つくろうぜ」
「あんな小さいのに砂掘って蟻地獄つくらせて、チューチューする機能もいれるのか?挟む機能はクワガタの応用でいいけど」
亮平が隠れ筋肉で、重たい荷物をガシガシ運んでくる。

「うーん、一号はクワガタサイズでやるか。でもなぁ…体デカくすると掘る土の量も深さもなぁ…言っといてなんだけどさぁ、円錐形の砂彫り、プログラミング……どうすっか……建機メーカーのベンチャー探そうかな…でもなぁ…外から掘るんじゃねーし…潜りながらかぁ…ワクワクしてきた!」
「……レオン、もう幾つの会社からスカウトかかってんの?」
亮平が、下ろしたクーラーボックスから水を取ってくれた。
受け取って、ごくごく飲みながら数えてみるが…分からない。

「さぁ…そもそも、俺が就職に向いていると思ってます?」
「……全然」
「だろ。売れそうな技術売って生きていこうぜ、亮平が代表取締役社長な」
飲みさしのペットボトルを亮平に向かって投げた。
しっかりキャッチした亮平にボトルは飲み干された。

「…それ、絶対面倒な作業を俺に投げるやつだろ?」
「適材適所!俺、技術者兼、広報と営業でおねしゃっす、社長」
俺はテントを広げて、亮平に向かって手を出した。

「まぁ、その将来性を買ってあげない事も無い。良いだろう、ウチに来たまえ」
亮平から、ペグが手渡された。
「それでは、二人の初めての共同作業の杭打ちです!皆様、カメラの準備をどうぞ」
「アホ」

クスクス笑いながら、二人でテントの用意をし、荷物を片付けた。

ハイキングコースを歩き、木々を観察し、子供のようにはしゃいでカブト虫とクワガタとオオムラサキをゲットした。

「ぎゃーー!!スズメバチ怒らせた!」
うっかり網がスズメバチを叩いてしまい、奴が俺をロックオン。
完全に威嚇体制に入った!
「っばか…大声だすな」
小声で亮平が怒った。そして首からかけていたタオルを取り、ゆっくりと俺の頭を覆い、引き寄せた。

大きな羽音を鳴らして威嚇してくるスズメバチを刺激しないように、俺を抱込むように屈ませ、ゆっくりとその場を立ち去る。ドキドキと鼓動が煩い。

「……行ったか」
スズメバチが、俺達への威嚇をやめて飛び去ると、ホッとして地面に座り込んだ。

「あー超怖かった!」
「何であの状況で騒ぐんだよ…静かに退避だろ」
ぎゅっと掴まれていた肩と手が離された。
「だってさぁ、蜂刺され経験者としてはさトラウマが……ん?」
頭からかけられたタオルを見て思う。
「なぁ、俺金髪だし頭ヤバいのは亮平じゃねぇ?」
蜂には黒がやばいじゃん?
立ち上がり、亮平の青いタオルを頭から取った。
「確かに…」
今気がついたという表情の亮平。
オイオイ、どんだけだよ。
何だか、胸がこしょばゆいぞ。
「俺のこと好きすぎかよ」
冗談を言って笑いながら、タオルを亮平の首にかけた。
優しすぎるよなぁ…コイツ。まじで。

ホラー映画とかで人を庇って死ぬキャラだぞ。気をつけないと。
俺は……最初に大騒ぎして死ぬキャラだけど…。

□□□□

テントに戻って、夕食を食べた。キャンプと言えば昔はカレーとかのイメージだったけれど、今ではオシャレなご飯を作る人が多いらしい。キャンプ用品のお店にも並べきれないほどの商品が置かれている。
でも、俺達は片付けが面倒になるから、ご飯にはこだわらず、持ってきたパンに炙ったウィンナー挟んだホットドッグだ。

きっとヒコさんだったら、おしゃれで美味しいモノ作るんだろうなぁ。楠木さんは、おつまみ片手に強い酒飲んでそう。

俺達は、背もたれ付きの二人がけベンチに座って星空を眺めながら、缶チューハイだ。

「んーーー!まじで最高。これ以上の休日は無い。俺、幸せぇ」

酎ハイ片手に亮平の肩にすり寄った。カーキ色のTシャツ越しに脇の下から通した手で二頭筋を揉む。
うん、このモリっとした肩の筋肉最高。優しい笑顔の下に、こんなワイルドな肉体…女子「きゃー!」だろうな。

「セクハラ辞めろ」
アウトドア用のブーツで蹴られる、痛くない強さで。
「なんだよ、亮平に言われて俺はセックスどころかキスすら我慢してるんだからな!」
ドスドスと亮平の硬い足を叩く。
「……へぇ」
「偉いだろ」
缶チューハイを亮平の開いてる手に持たせ、身動きを取れなくして膝の上に転がった。
亮平の膝枕で夜空越しの親友の顔を見上げた。

顔のパーツはどれも整っているのに、目立たない。控えめに咲く野花な風情。
でも、見た目以上にタフで情熱を秘めた良い男だ。

「……いつまでもつかな」

亮平が酎ハイの缶を俺の口に乗せた。
喋れないから、んーっと声をだして文句を言う。
そんな俺から目を逸らし、缶を呷る亮平。その様子に色気が醸し出されている。

なんか一人だけ大人っぽくてズルイぞ。

「キスもセックスも……好きな相手としろよ」

そう言って微笑んだ亮平の顔は、月に雲がかかって良く見えなかった。

「……」

好きな相手か…。好きって何だ?
俺は今までのセックスの相手だって、亮平の事だって、ヒコさんだって好きだ。

好きって……恋ってなんだ?




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