太陽と可哀想な男たち

いんげん

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美形はモブ

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「ふぁあああ…ねみぃ」

あれから3日、課題に追われたけど何とか提出して、今日は俺だけバイトに出た。

良いなぁ、亮平。今頃、メチャクチャ部屋を掃除して満足して寝てるんだろうな。
俺も寝たい。俺の洗ってないシーツの方じゃ無くて、綺麗でパリッとした亮平のベッドで。

「お疲れさまでした~」
「おう、お疲れ!亮平に明日30分早めてって伝えてな」
「うぃーっす、了解です」

仕込みを始めた店長に見送られ、店を出た。
passを取り出して、バックヤードに足を踏み入れた。
下のデパートは、飲食店よりも早く閉まるからこの時間のエレベーターは空いている。

「ねぇ、君。ちょっと…いい?」

エレベーターの呼び出しボタンを押して、ホールに立っていると後ろから誰かに話しかけられた。
ん?なにか落としたかな?
声のする方に振り向いて、驚いた。

「…っ……」

えっ…なにこの男性。えっ…なんなの…えっ……。

見た目が……

凄すぎる。
語彙力の無い頭の中の俺が叫んでる「何この人!!格好いいけど!!スゲー格好いいけど!!美の化身かよ!!雄神かよ!男神かよ!」って。

格好よすぎる! もうソレしか無い。

169㎝の俺より断然高い、185㎝は超えていそうな長身。モデルでも中々見られない程の手足の長さ。足長!足長過ぎる!!ひょろひょろじゃない、程よく鍛えていそうな厚い身体。
色気溢れる、ハンサムとか美形と言われる整った目鼻立ち! 俺のような目がデカいのって、より幼く見えてコンプレックスなんだけど、いいなぁ、この人のシュッとした切れ長の目、理想だわ!
鼻も細くて高い。えっ…欠点が一つも見当たらないんですけど。
俺、自分の顔に自信あるけど…この人とはジャンル違いだけど……マジで敗北宣言だわ。
黒髪の無造作なショートヘアーが憎い。テンション上がって金髪にした俺の馬鹿っぽさが際立つ…。
俺がアホで変わり者の黄色レンジャーなら、この人は影を背負う美形黒レンジャーだ。主人公を差し置いて一番人気のやつ!


「?」
きっと何か落としたのだろうと思ったのに、相手の手には俺の物っぽい物が無い。
あれ違うんだ。俺、財布とか落とす常習犯だから、そうだと思ったのに。

「君、この前…ここで泣いてただろう?」

美形さんは、声まで低くて艶があって格好いいんだなぁっと聞き惚れそうになった。

「泣いて?……あっ…」

コンタクト痛い痛い事件の時か!

「店で虐められているのかと思って気になって…見てた。すまない……その後もロッカーで同じ店の男の子に無理矢理迫られているのを見て……心配してた…余計な事だとも思ったんだが……もし、困っているなら……」

ええええええ!!
何この人!!
メチャクチャ良い人じゃん!
この見た目で、中身も聖人なの??嘘だろ!見た目良い男は、性格悪いって相場が決まっているんだろう?? そう、俺、俺。

「……」

色々驚きすぎて言葉が出ない。
今まで見たこと無いほどの美の男神さまは、会員制のバーも併設している、高級レストランの制服を着ている。名札には、楠木と書いてある。



「すまない…突然こんな事を聞かれても答えにくいだろうが…」
「あっ!あの!違うんです。あの時は、コンタクトが痛かっただけで…」

緊張でテンパって、視線は泳ぐし手も空中を漂う。
楠木さんが、心配そう顔で俺を見下ろしている。

はっ!嘘だと思われてる!

「一緒に働いているのも仲のいい親友なんです。亮平って言って、凄く優しくて……えっと……ママみたいな奴なんです!」

思わず、相手の腕を掴んで熱弁してしまった。
楠木さんが、きょとんとした顔している。でもそんな顔もカッコいい!
俺の鼓動が、壊れて暴れるモーターみたいになっている。

「…そうか……それなら良いのだけれど……」

うわー、憂いを帯びた表情も似合う!
この人のいる空間だけ映画のワンシーンみたいだ。

「お兄さん、凄い優しい人なんですね!俺、感動しました」

掴んでいた手を握手に変えて、ブンブンと振った。
興奮してニヤニヤする顔が止まらない。あぁ……きっと凄く馬鹿っぽく映るだろうな。

「いや……そんな事は……ただ、気になって……すまない余計なお世話だった」
「そんな事無いです!俺めっちゃ嬉しかった!今、すげぇハッピーパラダイス!」
つい勢いで馬鹿な事叫んで、抱きついてしまった!しまった、亮平でも大学の友達でもないのに!!

「オイ!お前、離れろ!」
「うぁ?」

お兄さんの胸、花の香りがする、と思ってたら、突然横から来た人間に引き剥がされた。

おっとっと……何だ?

「彦山、乱暴だぞ……」
「店長!またストーカーですか」

おおおお……横から現れた男を見て驚いた。
何ていうの……まぁ、あれだ。あんまりはっきり言ったら失礼だから、オブラートに言うと……顔面が凶器。ゴルゴン31風なのかな。
ちょっと仲が悪くて距離をとっている両目が特徴的だ。でも、この男も相当デカい。目の前が双璧だ。

「違う、そんなんじゃ無い……俺が話し掛けたんだ」
「こんな馬鹿そうなガキに何の用が?」

おいおい、おっさん。失礼の即配かよ。
もう遠慮しないぞ、このカエル顔め!

「失礼な事を言うな……すまない…」

お兄さんが色気溢れる、袖が捲られて腕の筋肉見える手で、男を制した。

「いえ、大丈夫です」

馬鹿にされるの慣れているんで。
ほら、俺カッコいいじゃん? 年上のこのカエル男みたいなタイプには、よく嫌われて噛みつかれる。

「おい…お前…今、絶対俺の事をブサイクだと思っただろう」
「えー、思ってない。カマキリみたいで可愛いよ」
どちらかというとカエルっぽいけど、カマキリと思えば可愛いかも。うん、カマキリって動くもの全部餌かと思って攻撃するしね。
カマキリが鎌振り回していると思えば、おっさんも愛せる。
ニッコリ微笑むと、カマキリちゃんは、言葉が出ないようで口だけアワアワしている。

すると、俺達の様子を見ていた楠木さんが、顔を抑えて下を向き、声を殺して笑い出した。

「す…すまない……悪い……くっ……」
「店長!」

プンスカ怒るカマキリちゃんの後ろで、何とか笑いを抑えた楠木さんが、目尻を拭いながら背を立てた。うん、何をやってもセクシーだ。


「…いじめられているかと思ったけど…勘違いだった、すまない」
ふっと微笑んだ顔の攻撃力は絶大で、不覚にもキュンキュンと胸がトキメイた。
「はぁ?コイツがいじめられっこに見えたんですか?店長の目は節穴ですか」

カマキリちゃん……失礼の逆ルンバなの?

「そうだな…」

えええ!そこで合意しちゃうの!

「どう見ても、君は周囲から愛されるタイプだ」

おおおおおおおおい!!
やめろーー!!なにコノお兄さん!!
無自覚恋愛マシーンなの?
そんな、美形の顔をクシャってする笑顔……ヤバいでしょ!!
俺、セックスはするけど恋愛はしないのに!惑わされそうだよ!

「店長!またストーカー増やさないでくださいよ!おい、お前!良いか勘違いするなよ!店長は誰にでも優しいからな!」

カマキリちゃんが、俺の肩をバシバシ叩いた。
危ない、危ない。カマキリの攻撃で、ちょっと正気に戻った。

「彦山……もう行くぞ。ごめん、時間取らせて、それじゃあ」

カマキリちゃんを引っ張って、歩き出す美形。
足が…長い。
カマキリちゃんもデカイのに、腰の高さが全然違う。
顔も体も美しい……なのに性格まで……美しい…。

俺は、さよならも言えず、佇んで彼らを見送った。


□□□□

「おかえり、レオン」

何だかボンヤリ家に辿りついて、亮平の顔を見たら、凄くホッとした。

「亮平~」

靴を脱ぎ捨てて、亮平に抱きついた。
あぁ…安心する。

「……ん?何だよ……どうした?」

何かを察した親友は、いつもより優しいトーンの声だ。背中に回った手も温かい。

「……負けた」
「へ?」
「この俺が完全敗北だった。なんつーの、森の中の美しい湖と、意地悪なカマキリ?あぁぁ、何か超悔しい!」
抱きつく腕を解いて、亮平を見つめた。わけがわからず困惑した顔をしている。
「レオンが一番カッコいいよって言って」
「はぁあ?意味が分からない」
「言って」
亮平頬を両手で挟んだ。

「お前が一番……アホ可愛いよ」
「ちがーーーう!そうじゃねーの!!まったくもー!」

俺は亮平を離して、ラグの上に倒れ込んでバタバタした。

「カブト7号の羽の部材届いけど見る?」
「見る見る!先に言えよ!」

飛び起きて、亮平の部屋へ駆け込んだ。

うん、俺は恋心なんかにうつつを抜かしたりしないぞ!

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