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第4章 結婚して変わったこと

12、誘われた夕食

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俺の名前は大杉緑。
虚しい土曜日を過ごしていた。
普通は土曜の午前中は仕事だったのだが、たまたま旗日になっていて休みだった。

旗日というのは、国旗が掲げられて、日本国というのを思い知らされる。

本当のことを言うと、俺は恩恵に預かっている立場なのかもしれない。

昼間が過ぎて、3時も過ぎた頃、玄関をノックする音がした。
「おい、緑いるのか?」

親父だった。

「ああ、今開けるよ。」

親父はこざっぱりした格好で家の中に入ってきた。

「どうしたの?」
「ああ、今日の夕食、サチさんとお前とどうかと思って。」
「サチは女学校時代の友達と出かけたよ。」
「夕飯には帰ってくるんだろ?」
「わからない。」
「きちんと会話しろ。」


親父はズカズカ入ってきて、居間で座った。
「お前のうちは客が来ても茶も出ないのか?」
「出し方わからないし。」
「サチさんはきちんとしてるぞ」
「え。俺がいない時に来たことあるの?」
「ああ。舅の長話に付き合ってくれたよ。」
「そうなんだ。」
「聞いてないのか?」
「最近、忙しくて。」
「まあ、お前と話をしたいから、夕飯を食べに行こう。」

親父に急かされて、着替えをした。

「サチさんにもプレゼントを買いたいから、百貨店寄って、フレンチに行けばちょうどいい時間だろう。」
「サチに何あげるの?」
「お前、サチさんの誕生日が近いんだぞ。」

ああ、そう言うことも忘れていた。
百貨店で親父が買うのをついでに俺も買った。

そして、フレンチの店に行った。
「さて、お前に話がある。」
「父さんが?」
「ああ。お前、最近、変に忙しくしてるだろう。」
「そんなことないよ。」
「わかってるんだ。また活動を始めたんだろう。」
「どうして?」
「お前の書類が無防備に置かれていたからな。」
「見たの?」
「きちんとは見ていない。」
「なら。」
「お前だけの事務所じゃないんだ。危険なことはやめてほしい。」
「危険と言っても訴訟の手伝い程度で。」
「警察に目をつけられるぞ。」
「どうして?」
「お前は弁護士のバッジを気軽に外せる立場じゃないんだ。」
「でも、おれ、やってみたいんだ。」
「何を?」
「困った人たちを助けたいんだ。」
「じゃあ、サチさんをきちんと幸せにしてからにしろ。」

元も子もない。
言い返せなかった。親父の言葉は飲み込んだ。
そして、俺は味のしないフレンチを食べたのだった。
今日はこのあたりで、さらばである。
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