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第十六章 最終学年

129、曖昧な未来はさよなら

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秋も深まってきたところ、庭で櫻は散歩をしていた。

ナカは心配して一緒についてきた。
「櫻お嬢様、もう夜になってきてるからご一緒しますね。」

その優しさに櫻は感謝した。
「ねえ、ナカさん」
「はい。」
「私ね、このところずっと悩んでたの。」
「はい。」
「気が付いてた?」
「うーん、そうですね。」
「こんなこと言われても困っちゃいますよね。」
「それはそうですね。」
「はっきり言いますね。」
「私ね、ちょっと何か抜けた気がするんです。」
「わかってました。」
「え?」

その後、二人はしばらく無言で庭を歩いた。
落ち葉を踏むさくっとした音だけが響く。

「ナカさん。」
「はい。」
「私、未来が怖かったんです。」
「誰でもですよ。」
「でも、私今が幸せすぎて。」
「それはそうですね。」
「あら?本音ですか?」
「そうです。」
「ナカさん、本音言ってっくれて嬉しいです。」
「私は櫻お嬢様が羨ましくもあります。でも、今の自分の生き方も好きです。」
「私、ナカさんのこと尊敬してます。」
「もし、もう一回未来があったら、一緒に女中したいですね。」
「私もこの家で働いてみたかった。」
「でもお嬢様でいる方がいいでしょう?」
「それは。」
「でも、知ってます。前にも言った通り。お嬢様がご苦労されたこと。」
「はい。地獄でした。」
「ここの職場はとても整ってます。」
「整ってる?」
「佐藤様、ご主人様がしっかりなさってるっから。」
「私、条件のいい奉公先に行ったことありませんでした。」
「こんなに言い方なのに。」
「でも、私も無知だったんです。だから女学校に行きたくて。」
「ナカもこの家に来て、ちゃんと言うことを知りました。」
「ちゃんと言うこと?」
「たとえば、ご主人様が間違ってることを言っていたら、きちんと訂正したり。」
「あら?」
「それは最初は勇気が入りました。でも、長い目で見るとご主人様の恥にならないからいいことだって。」
「たとえば?」
「わかりやすく言うと、新聞を読んでいなくて昨日の知識のままだった時、進言します。」
「そんなことまで。」
「櫻お嬢様にだったら、海苔ついてますよとか。」
「あ、そんなことありましたね。」
「気が付いてるのに言わないのは簡単です。でも、本当の親切は勇気を持って伝えることです。」
「あの、ナカさん。」
「はい。」
「また、未来の話が具体的になったら相談してもいいですか?」
「それはもちろん。」

櫻は曖昧な未来を訣別した。
そして、二人はどんぐりを見つけ、大切にハンカチに包んで持ち帰ったのであった。
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