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第十六章 最終学年

127、間近で見る透明な

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櫻は放課後、車に乗って、銀座の文房具店を望月と来ていた。

「望月さんは文房具は?」
「ああ、こだわりはあるよ。」
「どうして?」
「小説家に聞く?」
「ああ、そっかあ。」
「僕の職業忘れちゃった?」
「そうでしたね。」
「返しも強くなったね。」
「そんなことはないです。」

「ハハハ」
「望月さんも私に冗談ばかりじゃなくなりましたね。」

そういうと、望月は万年筆コーナーに行ってしまい、櫻はノートのコーナーに残った。
(どれにしようかな)

勉強をしていると、すぐにノートがなくなる。
女学校に入る前は要らなくなった、チラシをとってもらってそこに筆で書いていた。


そっと手に取ったノートが同時に持ち上がった。
顔を見ると、辻だった。

「え?先生?」
「あれ、櫻くん。」
「辻先生、どうして?」
「ああ、研究室のノートが足らなくなってね。」
「同じノートをとるなんて。不思議。」
「それよりもここで会えるなんて不思議だね。」
「でも、こんな公共の場だとちょっとまずいですかね。」
「いや、偶然だから神様は許してくれるだろう。」
「神様?」
「そう。」
「先生、信じてないって言ってたのに。」
「そうだけどさ、こういうの見逃してくれるだろ。」
「望月さん読んできましょうか?」
「いや、逆に望月と僕が親しいところを見られた方が君に不利になるよ。」
「どうして?」
「櫻くんの運転手が僕の学友だったら勘繰られるだろ。」
「それはそうですね。」
「だったら、今の時間を味わおう。」
「キザな言い方ですね。」
「詩人だから。」
「そうでした。」
「久しぶりに見ると、とても間近で見ると透明感があるね。」
「透明?」
「すぐに消えてしまうような。」
「私は消えませんよ。」
「わかってるけどさ、やっぱり君は女学生で、受験生だ。」
「拘りますか?」
「うん、大切な期間だからね。」
「大切な期間?」
「何度も言うけどさ、学生である時の期間はかけがえのないものだよ。」
「私、勉強、頑張って、師範に入りたいです。」
「そう、君の意思が強い時はそのお通りになる。」
「え?」
「運なんて相場みたいな言い方だけど、人生は上がったり下がったり。でも、平均して幸せであったらそれでいいと思うよ。」
「難しい言い方ですね。」
「でも、君の隣が僕でいたいな。」
「先生、こんなところで。」
「ま、そう言う真面目な君もいいね。」
「先生!」
「ま、僕がプレイボーイだってことはこの界隈では知られてるから、深くは考えないで。」


そういうと、辻はノートを5冊持って会計へ向かった。
櫻はその後ろ姿をしばらく眺めていた。
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