399 / 419
第十六章 最終学年
120、モーターバイク
しおりを挟む
櫻は秋雨を眺めていた。
今年の秋は雨が多い。
秋の雨はいい思い出がない。
まだ、実家に行ったり奉公先に来たりしていた時期のことだ。
果実がよく実るそのシーズンはたくさんの人手が必要だ。
普段は呉服屋の奉公をしている櫻も実家に呼び戻された。
それがとても重荷だった。
実直に奉公していることの方が気が楽だった。
実家に戻るとなんでもさせられる。
家事から果実の収穫、客の対応。
それに対する賃金もない。
寝る間を惜しんでも、誰も褒めてくれない。
雨の日にずぶ濡れになりながら、収穫することも多かった。
それは、風邪を引くことも多かったが、許されなかった。
ある年、肺炎になった。
父はこう言った。
「この役立たずが。穀潰し。」
その時、櫻は心に決めたのだ。
女学校に絶対入って、この家を出るのだと。
奉公先のお嬢様に色々と話を聞いて、調べた。
そして、勉強もたくさんした。
そして、櫻は運と努力の末、銀上女学校へ編入した。
「櫻、いいかな?」
佐藤の父が休みの日なので、ノックしてきた。
「はい、お父さん、どうぞ。」
「ああ、やっぱり櫻の部屋はいいね。」
櫻は椅子を父に座るように、言った。
「ああ、ありがとう。」
「お父さん、どうしましたか?」
「勉強漬けで、どうかな、と思ってね。」
「ああ、勉強してたんですけど、ちょっと外を眺めてました。」
「ああ、秋雨だね。」
「お父さんも雨見てました?」
「ああ、以前いたロンドンでもよく雨が降っていた。」
「ロンドン、いいですね。」
「外国は行くと本当にいいよ。」
「何が一番良かったですか?」
「日本が一番いいなと気づくんだ。」
「え?」
「日本にもっとこうしたらよくなるな、とか日本のことばかり考えるんだ。」
「意外でした。」
「そう?櫻が?」
「はい。外国が魅力的に見えるのかと。」
「それもあるよ。でも、これが日本にあったら日本は最強になるんじゃないかってことばっかり考えてたよ。」
「だから、一番のバイヤーになったんですね。」
「褒められると嬉しいな。」
「お父さんは素晴らしいですから。」
「褒めても何も出ないよ。」
「お父さんがいてくれるだけで、私満足ですから。」
「じゃあ、秋雨が導いてくれたんだね。」
「え?」
「天気も僕たちを引き寄せたってね。親子になれて良かった。」
「秋雨、好きじゃなかったけど、お父さんとの思い出で素敵になりました。」
「ああ、嬉しいね。」
その後、二人は無言で外を見ていた。
それはとても幸せで、心地よい時間だった。
まるで、雨の音はモーターバイクの響きのようだった。
今年の秋は雨が多い。
秋の雨はいい思い出がない。
まだ、実家に行ったり奉公先に来たりしていた時期のことだ。
果実がよく実るそのシーズンはたくさんの人手が必要だ。
普段は呉服屋の奉公をしている櫻も実家に呼び戻された。
それがとても重荷だった。
実直に奉公していることの方が気が楽だった。
実家に戻るとなんでもさせられる。
家事から果実の収穫、客の対応。
それに対する賃金もない。
寝る間を惜しんでも、誰も褒めてくれない。
雨の日にずぶ濡れになりながら、収穫することも多かった。
それは、風邪を引くことも多かったが、許されなかった。
ある年、肺炎になった。
父はこう言った。
「この役立たずが。穀潰し。」
その時、櫻は心に決めたのだ。
女学校に絶対入って、この家を出るのだと。
奉公先のお嬢様に色々と話を聞いて、調べた。
そして、勉強もたくさんした。
そして、櫻は運と努力の末、銀上女学校へ編入した。
「櫻、いいかな?」
佐藤の父が休みの日なので、ノックしてきた。
「はい、お父さん、どうぞ。」
「ああ、やっぱり櫻の部屋はいいね。」
櫻は椅子を父に座るように、言った。
「ああ、ありがとう。」
「お父さん、どうしましたか?」
「勉強漬けで、どうかな、と思ってね。」
「ああ、勉強してたんですけど、ちょっと外を眺めてました。」
「ああ、秋雨だね。」
「お父さんも雨見てました?」
「ああ、以前いたロンドンでもよく雨が降っていた。」
「ロンドン、いいですね。」
「外国は行くと本当にいいよ。」
「何が一番良かったですか?」
「日本が一番いいなと気づくんだ。」
「え?」
「日本にもっとこうしたらよくなるな、とか日本のことばかり考えるんだ。」
「意外でした。」
「そう?櫻が?」
「はい。外国が魅力的に見えるのかと。」
「それもあるよ。でも、これが日本にあったら日本は最強になるんじゃないかってことばっかり考えてたよ。」
「だから、一番のバイヤーになったんですね。」
「褒められると嬉しいな。」
「お父さんは素晴らしいですから。」
「褒めても何も出ないよ。」
「お父さんがいてくれるだけで、私満足ですから。」
「じゃあ、秋雨が導いてくれたんだね。」
「え?」
「天気も僕たちを引き寄せたってね。親子になれて良かった。」
「秋雨、好きじゃなかったけど、お父さんとの思い出で素敵になりました。」
「ああ、嬉しいね。」
その後、二人は無言で外を見ていた。
それはとても幸せで、心地よい時間だった。
まるで、雨の音はモーターバイクの響きのようだった。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる