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第十六章 最終学年

104、砂丘

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櫻は夢を見ていた。

暑い、そして、砂の嵐に巻き込まれている。

足元は西洋の靴。
ズブズブと砂の中に足は埋まりつつ、抗って前に進む。
前を行く男の影がある。

洋装をしている。
少し大きなその背中を見た覚えがある。

「ちょっと、歩きずらいわ。」
夢の中で櫻は口に出した。

「歩きにくい道かどうかは君次第だよ。」
「どういうこと?」
「俺といるということはそういうことなんだよ。」
「わからないわ。」
「辻を捨てて、僕のところに来たのはどう思う?」
「え?」
「君が子供に会いにいってることも知ってるよ。」
「どうして?」
「君は僕との子供も辻との子供も同じだと思ってるからさ。」
「私、どうしてあなたといるのかしら?」
「早すぎたかな?」
「早い?」
「俺の登場に関してさ。」
「何が言いたいの。」
「俺が嫉妬深い男ってことさ。」
「え?」
「俺は君に対しては男の歴史が気になるのさ。」
「私。。。」

そういうと、ハッと起きた。
あれはなんだったんだろう。
しかし、辻はあんな言い方しない。
今日、辻と一緒に楽しく勉強したばかりなのに。
別の男の夢を見るなんて、私は馬鹿げてる。。。

ふと自分の体を触ると汗がびっしょりだった。
浴衣を着替えたいと考えた。
さすがに深夜にふろには入ることはできないので、手ぬぐいで体を拭いて新しい浴衣を着た。
そして、濡れた浴衣を洗濯置き場に持って行った。

どうやらまだ夜はまだ深いらしく誰もいなかった。

(ああ、今まで私はこういうことをして生きてきたんだわ。)

下働きはとても重要な仕事だ。
それは身をもって知っている。
だから、この家の女中3人にも丁寧でありたいと思った。
しかし、今日のことで洗濯を増やしたことを済まないと思った。

洗い場の窓から夜空を見た。
そうしたら流れ星が一つ輝いた。

(星の涙かもしれない。)
ふと櫻はそう思った。

星はこのまま大気圏で消滅するのだろうか。
私の人生なんてそんな儚いものだろうか。

櫻は部屋に戻ると辻の書いた作品をランプを灯して読んだ。
何度か読んでいる。
ああ、この人は曲がっていない。
信じられる。
問題は私だ。
彼の手を離さないように、悪魔と契約しないように、と思った。

櫻の心には数度会ったあのOとのことが刻まれている。
辻に素直に自分が大杉と会えないことを残念がっていることを話そうと思った。
自分に嘘をつけない。
深夜の櫻はそう考えたのだった。
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