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第十六章 最終学年

74、その夜

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家に帰って、父と夕食をとった櫻は辻の作品を読んだ。

その中で気になったのは「自分だけの世界」と言う物だった。

哲学的なその文章は読むのに一苦労した。
しかし、思想は奪えないと言うことは女学生の櫻でもわかった。

「先生、こんな難しい文章を書いて。。。筆を折るなんて勿体無い。。」

一方で、わかりやすい文章にしていないことを辻らしいと感じつつも女子供は共感を得られにくいのではないかと思った。
誰にでもわかりやすい言葉で演説していた大杉と違う。

私は何を探しているのだろう。でも、先生の自由というものに触れられた。。。




場所は変わって新橋の場末の飲み屋である。

辻と大杉は向かい合って話をしていた。

「まさか、車でお迎えが来るなんて、思ってませんでした。」
「いや、坂本も車のほうがいいと。」
「そうですね。辻財閥のことを考えると。僕みたいな人物との交流はお父上が好まないだろうし。」
「いや、君の父上を弁護士においていることを考えると、そこまで拒否はしていないだろうと。」
「しかし、僕たちは奇妙な縁がありますね。」
「え?」
「佐藤支店長のお嬢さんを介してまた会う日が来るなんてね。」
「ああ、そのことで今日話に来たんだ。」
「そうですよね。実を言うとね、気になって、職場にも行ってしまったんですよ。」
「聞きました。」
「怒ります?」
「いや、怒ると言うより、出し抜かれた、というか。」
「そうですね。僕は根っから女性というものの魅力にハマってしまっていましてね。」
「大杉くんは僕とはタイプが違っている。」
「それは謙遜?それとも?」
「いやいや、たとえば、この焼酎、僕は好んで毎日飲まない。でも、大杉くんは毎日でも構わない人だ。」
「え?そんなことないですよ。僕だってウイスキーの日もビールの日も。」
「僕がしていた色々酒を嗜んだのと君は違うんだ。」
「難しい例えだな。」
「ん?」
「辻さん、あんたね、こねくり回した文章を出して、さも帝国大ですっているけど、それを好むのは銀上だからですよ。」
「どういうことだ?」
「人に伝わらないと意味がないってこと。」
「え?」
「あんたのパートナーにも注意しとかなきゃいけない。確認と連絡。」
「いや、しているけど。」
「女学生だからって、彼女はもう大人だよ。」
「いや、まだ少女だ。」
「そうやって囲ってると、紫の上みたいになるよ。」
「え?」
「他の女を恨む。」
「君の周りの女性は違うのか?」
「確認してるからね。」
「え?」
「お互いフリーパートナー契約してるんだ。」
「フリーパートナー?」
「そう。だから、櫻さんが求めるなら、辻さんと付き合っても僕と同時に付き合ってもいいよ。。」


辻は頭から血が上りそうになった。
しかし、それは一瞬で我に帰った。
もう一度、焼酎を口に含んだ。
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