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第十六章 最終学年

59、辻の来訪

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週末になって辻は佐藤邸にやってきた。
外はまだ蒸し暑い。
しかし、櫻は底知れぬヒンヤリとした汗をかいていた。

「佐藤支店長、ちょっと櫻君と話があるので部屋に行ってもいいですか?」
「坊ちゃんのお好きに。櫻、大丈夫だよね?」

父は何も知らない。
櫻は笑顔で頷いた。


2階の自室に案内した時、辻は軽い冗談を言ったりして、なんだか拍子抜けした。
しかし、部屋の端のスツールに座ると、櫻を勉強机の椅子に座るように促した。

「まあ、時間も有限だしね。そろそろ話そうか。」
「はい。」
「本当に聞くよ。大杉君のことをどう思う?」
「はい。尊敬と同時に憧れとそばに行ってみたい気持ちがあります。」
「そうかあ。」

辻は上を向いて少し考えていた。

「いや、君が素直に話してくれる想定をしていなかったかも知れない。」
「どうして?」
「この間、そうだったからさ。」
「私、思ったままを言ったまでです。」
「僕のことはどう思う?」
「できれば、一緒になりたいです。」
「うーん、そうなのかあ。」
「何か、変ですか?」
「ううん。君が素直すぎるからさ。」
「どうして?」
「大杉君、僕は好きなんだ。」
「聞いてます。」
「僕と話すまでいろんな人と話したんだね。」
「そうですね。」
「でも、君がおしゃべりじゃないことは知ってる。」
「よくお分かりで。」
「いろんな人は僕にしろって色々言っただろ。」
「その通りです。」
「僕は大杉君と比べてとても秀でている人間でもないし、すごく劣っている人間でもない。」
「どう言う意味ですか?」
「だからさ、好みの問題であって、ね。」
「私は今現在、先生といたいです。」
「でも、大杉君の魅力を知ってしまったんだね。」
「そうでもあります。」
「僕は、僕のために君のパートナーという権力を使おうとしている。」
「そうでしょうか?」
「君が、大杉君と会うと、惹かれ合うことを想像する。」
「大杉さんが私を気にいるかなんて分かりませんよ。」
「逆を言うと、彼は好意を寄せる女性に優しいよ。」
「でも。」
「うん、自分でもおかしいんだ。変な話だけどさ、今度大杉君に僕と二人で会いに行かないか?」
「え?」
「変だと思うかい?」
「はい。」
「僕は、きちんと大杉君に僕のパートナーとして君を認識したいと同時に、誰のいい部分を君に吸収して欲しいんだ。」
「先生もだいぶ拗らせてますね。」
「今日は、櫻君はいやに落ち着いているね。」
「はい。」
「どうして?」
「自分の素直に生きることを思い出したんです。」
「そうかあ。ますます、君は魅力的になるね。」
「本当?」
「今度、大杉君に連絡を取ってみる。食事でもしてみよう。」


櫻は辻からそんな提案があるとは思っていなかった。
恋愛とは嫉妬に駆られるとおかしくなると聞いたが、辻はどうにか前進してるように感じた。
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