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第十六章 最終学年

56、坂本の続き、父の話

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穏やかな坂道を走っている。車は緩やかに進む。

「諦めた恋、というのはここまで人を変えるのかと思いました。」
「諦めた恋?」
「そう、私が異国の女性と恋に落ちたことです。」
「今でも?」
「そうですね。それからいろんな方とお付き合いしましたが比較してしまうのです。」
「どうして?」
「自分でもずっとわからずじまいでした。しかし、なんとなくわかるようになってきたのです。」
「何をですか?」
「心にしまった恋は今ある恋よりも輝いて見えてしまうのです。」

櫻は返答に困った。
そもそも大杉との関係自体、まだ何も始まっていない。

「でも、私恋は先生と。。。」
「そうですね。でも、二人の魅力を見てしまうこともあるんですよ。」
「え?」
「残念ながら、私はその判断を誤りました。日本人の彼女もとてもいいパートナーになると判断したんです。」
「なら。。」
「人は道に迷います。今週末、また坊っちゃまをお連れしますから、その時は大杉さんに惹かれていることをきちんとお話しされうことをお勧めします。」
「私、まだそんな認識も。。」
「周りの方々からもう気がつかれているというのは、本人の自由になっていないということなんです。」

坂本は少し強い口調で言った。
「さて、佐藤邸に到着です。」

櫻は丁重にお礼をし、家に帰った。

先に父が帰っていた。
「やあ、お帰り。」
「お父さん、すみません、遅くなりました。」
「いいよ、仕事だったんだろ。でも、坂本さんの車だったね。」
「ちょっと辻先生に会いに。」
「坊ちゃんも忙しい方だからね。」

櫻は荷物を置きに、軽く礼をして自室に行くことを告げた。

部屋に入ると、どっと疲れが出てきた。
「ああ、どうしてこんな。」

口から出てしまった。


私が何をしたんだろう。大杉さんと会っただけじゃないか。
なのになんでみんな騒ぎ立てて、自分を揺さぶるんだろう。


心を引き締めて、ダイニングに入った。
夕飯が用意され、父もすでに座っていた。


「働き疲れて腹ペコかい?」
「ああ。いえ、ちょっと疲れていて。」
「櫻は働き者だからかね。」

父に素直に、今日の出来事を話すことができなかった。

「どうしたの?」
「いえ、でも、ちょっと。。。」
「ん?」
「櫻に関しては歯切れが悪いね。」
「お父さんに聞くのも変かもしれないし、答えたくなかったら。」
「なんだい?」
「お父さんは亡くなられたお母さんとどう出逢われたんですか?」
「先代の社長から見合いでね。私は仕事人間だったから、結婚に関しては興味があまりなかったのだけど。」
「それを変える人だったんですか?」
「いや、結婚してもしばらく私は仕事ばかりでね。」
「どこで変わったんですか?」
「子供が生まれてね、グレー色だった世界が色付いたんだよ。その時妻の魅力に気がついた。」
「そういうタイミングもあるんですね。」
「なぜ、急に?」
「いえ、興味があって。」

父は変な勘ぐりもなく笑った。
それを櫻はどこか後ろめたかった。
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