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第十六章 最終学年

55、坂本の所感

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車は帝国大から御殿山に向けて走り出した。

「少し、遅いお帰りになってしまいましたね。」
「いえ、父は七時を回ると言っていたので、大丈夫です。」

坂本は櫻に謝った。

「坂本さん、あれで大丈夫だったんでしょうか?」
「私の意見を言っていいんですか?」
「今更じゃないですか?」

櫻は何故か強めの口調で言ってしまった。
「そうですね。何に対しても正解はない問題です。でも、ある一部分では不正解はあったかもしれません。」
「不正解?」
「櫻さんは本当の意味で素直になっていないことは坊っちゃまもお見通しだと思いますよ。」
「え?」
「本当は大杉さんを男性として見はじめてるんじゃないですか?」
「。。。。」
「心の表面では気がつかないふりをしてるようにお見受けします。」
「私、先生との将来をおかしくしたくないんです。」
「そうですよね。櫻さんのいうとおり、それはそうです。」
「でしたら?」
「坊っちゃまには素直に惹かれる自分もいることを認めるべきだと坂本は思いました。」
「でも、それは不誠実です。」
「坊っちゃまは本当の気持ちを聞いて、それを受け止める技量はあります。」
「え?」
「櫻さんが違うと言ったでしょう?それを坊っちゃまは残念に思ったかもしれません。」
「私、逆に先生が他の人に惹かれてるって話を聞いたら傷つきます。」
「そうですね。でも、坊っちゃまはそれ以上に櫻さんの本音を聞く覚悟はあるんです。」
「でも。。」

車は街中を走っている。櫻はどうしようもない不安に苛まれた。

「坂本が言っていることが、女学生の櫻さんには難しいことは重々承知です。」
「ならどうして?」
「坊っちゃまが本当のパートナーを見つけたことにサポートをしたいのです。」
「私もそのつもりです。」
「でも、心は縛り付けられない。それを隠しているとどういうことになるかわかりますか?」
「正直、わかりません。」
「坂本は留学していた時、異国の女性と恋に落ちました。こんな雑談聞かされても困ると思いますが、ちょっと、お耳を貸してください。その時、私はまだ20歳で恋がこんなに嬉しくて楽しいものだということを感動しました。一方で、同じ日本から来た留学仲間の女性から好意を伝えられていました。」
「どうなったんですか?」
「私は、異国の女性と幸せになることを断念しました。というよりも勇気がなかったのです。彼女とイギリスで住む未来も彼女を日本に連れてくることも。それで、同じ留学仲間の女性と付き合うことになりました。彼女とはそれなりに気も合いましたし、楽でした。しかし、私は恋を知ってしまっていた。もう、恋を諦めた自分には付き合っている女性にも不誠実だと思い、別れました。」
「別れる必要があったんですか?」
「心は切り離せないんです。」
「切り離せない?」
「まあ、まだあと10分程度車は時間がありますから、続きを話しましょう。」

坂本の横顔をチラリと見た櫻はその真剣な眼差しを忘れることができなかった。
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