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第十六章 最終学年

42、幻ーまぼろし

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海水浴から別荘に帰った二人は夕焼けを見て楽しんだ。

「ねえ、櫻さん。」
「ん?どうしたの?」
「明日が花火大会だから浴衣を着ましょうよ。」
「あら、ごめんなさい。私寝巻きの浴衣しか持っていないわ。」
「それも大丈夫。私いくつか持ってきているから。」
「色々気を使わせてごめんなさい。私こういうこと初めてで。」
「いいの。私世話を焼くのがいいから。」

そういうと、二階の部屋に和枝は浴衣を取りに行った。


なかなか戻らないので、コップに入っていた麦茶は無くなっていた。


ふと、櫻は後ろから声をかけられた。
「サクじゃない?」
「え?」


よく見ると、それは秩父時代に一緒に奉公をしていたモモのようだった。
しかし、再会するのも5年以上ぶりだからモモなのか確信が取れなかった。

「え?モモ?」
「うん。」
「ここで働いてるの?」
「うーん、そうとも言えるかな。」
「え?どういう意味?」
「だからね、私ちょっと入り組んでて。」
「入り組んでる?」
「まあ、この家に今はいるわ。」
「じゃあ、和枝さんのことも?」
「うん。でもあちらは知らないと思う。」
「どういう意味なの?」
「私はモモ。ただ、それだけのことよ。」
「じゃあ、モモもどちらかに貰われたの?」
「うーん、それを言いにきたのかもしれない。」
「え?」
「櫻ばっかりいい思いじゃ浮かばれないじゃない。」
「浮かばれる?」
「私だって、血反吐を吐きながらあの秩父にいたのに。」
「でも。」
「あなたは家を出て女学校。」
「うん。」
「私、その話聞いた時、真似したかったわ。」
「どうしたの?」
「私ね、逃げたの。」
「どこから?」
「嫁ぎ先から。」
「え?」
「そしたらね、」
「うん。」
「主人がナタで」
「え?」
「まあ、そういうことよ。」
「え?どういうことなのかわからない、モモ。」
「あなたの幸せな時に会いたかったの。」
「でも、今あなたいるじゃない。」
「いるけど、いない。」
「え?」
「今はどんな季節かわかる?」
「あ。。。」


盆であることを櫻は思い出した。
気がついた瞬間、モモはもういなかった。


「櫻さん待たせてごめん!」
急いだ和枝が戻ってきた。

「どうしたの?」
「え?」
「なんだか幽霊にでも見た顔してる。」
「ああ、お盆だからかしら。」
「うち、ちゃんと盆飾りしてあるからね。気になる人がいたらお祈りしてね。」


櫻はその後、じっくりとモモへの感謝を心に唱えた。
一緒に働いたあの時のことは絶対忘れないと。。。
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