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第十六章 最終学年

39、館山へ

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館山へは上野和枝が車で迎えにきた。

「櫻さん、お邪魔していい?」
「うん、でも用意できてるわよ。」
「あなたのお部屋みてみたい。」

櫻はサキを呼んで、人を入れていいか聞いた。
サキは了承した。

「どうぞ。そっけない部屋だけど。」
2階に2人で移動し、櫻の部屋へ和枝を案内した。
「わー、可愛い壁紙。素敵ね。」
「父が選んでくれたの。」
「さすがね。乙女心がわかる方だわ。」
「そうかしら?」
「櫻さんは辻百貨店のオシャレさをまだご存知ないのね。」
「うーん、どうかな。」
「今度、私を連れて行って。」
「え!」
「だって、お父様の会社でしょ?」
「うん、でも行きにくいよ。」
「お父様に頼んで。」

軽く会釈をして受け流した。
でも、館山に泊まらせてもらうのだからそれくらいは、と言う思いもあった。

「櫻さんのお部屋に来れてよかったわ。じゃあ、車に行きましょうか。」
和枝は一通り見たら満足したようだった。
辻から借りている本もあったので、よく見られらまずいと思ったのだが、徒労だった。

「じゃあ、サキさん、留守にします。よろしくお願いします。」
「はい。お嬢様もお気をつけて。」

そして、和枝の家の車の後部座席に2人で座った。

「櫻さんは千葉は初めてなのよね?」
「うん、埼玉と東京しかなくて。でも、今度父と横浜に。」
「横浜、いいわよ。私も大好き。モボも多いし。」
「モボ?」
「モダンボーイよ。モガは知ってるでしょ?」
「モダンガールね。」
「男性のことになると櫻さん疎いのね。」
「うーん、そうかしら?」
「今のうちに、恋愛小説でも読んだら?」
「え?師範の勉強の本が終わったらね。」
「もう、今回の旅行は勉強は禁止だからね。」
「わかったわ。でも、本は読ませて。」
「なんの本?」
「新婦人社の女性の生き方って言う本。」
「あら、面白そう!」
「和枝さんもそう思う?」
「だって、職業婦人になりたいんだもの。」
「そうね。私は師範に行ったらちょっと遠回りしてしまうけど。」
「何だか、櫻さんはサクッと結婚しそう。」
「え?」
「なんだかね、私のように妄想して勉強してっていう人より、あっさりお嫁にいきそうな。」
「そんなことないわよ。」
「えー。じゃあ、気になる男性がいたら、今夜布団で話しましょ。」
「いないいない。」
「いいの。團十郎でも。好みを知りたいのよ。」

そんな他愛もない話をしている間に車は館山についた。
海風が吹いている。
初めての体験であった。
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