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第十四章 望月家からの旅立ち

7、辻と望月

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辻はその日、授業が午前中だけだったので、学校を抜け出して、望月と会っていた。
望月は出版社に行くと、置き屋に行っているとのことだった。

坂本の運転する車で浅草橋まで向かった。

「ごめんください。」
「あら、辻さん。どうしたの?」
「望月に会いに来たんです。」
「ああ、ご存知なのね。じゃあ、奥の部屋にいるからご案内するわ。」

女将は嫌な顔せず、辻を通してくれた。

「望月」
「なんだ、辻くんか」
「え?」
「ちょっとした待ち合わせでね。」
「女性か?」
「ノーとは言わないけどね。恋人ではないよ。」
「僕は君の自由に関しては否定しないよ。」
「じゃあ、何をしに?」
「友人に会いに来ちゃいけないのかい?」

ハハハと望月は笑った。
「さあ、こちらに座りたまえよ。」
望月は座布団を出して、襖を閉めた。

「今日は櫻くんの件で感謝を言おうとね。」
「まだ始まってないよ。」
「いや、預かってくれたことも含めて。」
「それだって、全部アグリがしたことさ。」
「今のアグリくんを作ったのは君さ。」
「そうかね。」

いつになくアンニュイだった。
「どうした、望月?」
「あのさ、母さんが女将のこと知ってたんだよ。」
「ここの?」
「そう。それで、ここへ来ようと思い立ってね。」
「女将にそのこと話したのかい?」
「いや、話してない。話す必要はないからね。でも、ここも僕の家なんだ。」
「そうだね。君は少し、櫻くんと似ているね。」
「そう言われればそうだね。でも、僕は彼女の人生を小説にしたいよ。」
「え?」
「あ、辻くん、本当は自分が書きたいって思ってた?」

辻はペンネームで実は書いていることを明かしていなかった。

「辻くん、本当は書いてるでしょ。」
「どうして?」
「わかったよ、あの文章。嬉しかったよ。また筆を折らないか心配だけど。」
「じゃあどうして。」
「彼女はいろんな小説家に書かれて光る人材だよ。だからそれを知っておかなきゃだよ。」
「って言っても」
「まあ、君が色々思っても物事が思い通りになったり、ならなかったりするしさ。」
「望月は俺をどうしたいんだ?」
「友人として、祝福してるだけさ。」
「棘があるね。」
「辻くんもだけど、僕も愛のない両親のもとで育っただろ。でも、父さんは女将と本当の夫婦のように仲が良かった。そういうところに生まれたかったと思ったよ。今、2人目がアグリのお腹にいるだろ。自然な形で愛のある親になりたい。」
「意外だな。」
「何が?」
「お互い、プレイボーイだったのにさ。」
「実はさ、僕の中では別なんだ。女性と家族は。」
「望月は脳が二つあるのかもしれないな。」
「うん、そう思うことがある。」
「だからこそ、小説が光るんだな。君に小説を勧めてよかった。」
「いやー、それほどでも。」

二人で笑った。そして、辻は櫻の別れの会のことを望月に再度お願いした。
えっへんと言って、望月は微笑んだ。
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