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第十二章 新学期

20、アグリの恋愛話

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櫻は望月家に帰って、夕食後、テラスでアグリと談話した。

「寒い冬に、この西洋の飲み物、美味しいですね。」
「ココアっていうのよ。」
先生は私にココアを出してくれました。

「季節を感じられる生活を送れるようになるなんて思いませんでした。」
「そうなの?」
「奉公や手伝いで忙しかったので。」
「私ね、行き着く暇もない時に、二つのものに恋をして、それで生きてこられた。」
「二つのものですか?」
「そう。一つは、ヨウスケさん。もう一つは洋服作り。」
「お仕事にも恋をしたんですか?」
「そう。初めて山岡先生のワンピースを見た時はドキドキが止まらなくてね。」
「私も、感動する随筆を読んだりすると心がときめくことがあります。」
「どうして恋っていう言葉を人以外に使っちゃいけないのかしらね。」
「うーん。でも、ものに恋するって素敵ですよ。」
「恋をすると人生が動くと思うの。」
「人生が?」
「最初に動いたのはヨウスケさんと結婚したこと、二つ目は山岡先生のところに弟子に入ったこと。」
「そうすると、私は今恋の真っ最中ですね。」
「そう、あなたは大切なパートナーと出会って人生が動いてる。そして、仕事というものもね。」
「周りに恵まれました。」
「私もそうよ。ああ見えてね、ヨウスケさん、輝いている人を作るのが上手いのよ。」
「どういうことですか?」
「私みたいな田舎娘が銀座にお店を持つようになるなんて、夢物語見たいでしょ。でも、あの人はそれを馬鹿げたことだとは言わなかった。最初は戸惑ったけどね。あとは、彼と関わった女性たちはみんな第一線を走っているわ。」「それって。」
「うん。浮気は知ってるの。でも、ヨウスケさんが書くために女性と関わりたい気持ちもわかるのよ。」
「許せるんですか?」
「許すとか許さないとかじゃなくて、家族は私だからね。」

その発言にアグリの余裕を感じた。

「私も、先生みたいに、余裕を持ちたいです。」
「辻さん?」
「はい。すごくモテるし、私はまだまだだし。」
「私はすごくお似合いだと思うわよ。私、辻さんにも助けられたわ。ヨウスケさんが知り合わせてくれなかったら、今頃、違う人生だったかも。」
「どういう意味ですか?」
「山岡先生のお店の常連だったのよ。それで連れて行ってくれた。」
「辻先生が?」
「そう。だから、恩人かな?」

辻はそういうことをスマートにしてしまう。だから時々不安になるのだが、こうやって、幸せな人を増やしていると思うと、それもいいのかと思った。

「次は櫻さんは何に恋をするかしらね?」

実は、ある分野で櫻は大恋愛をするのだがこの時はまだ知らなかった。
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