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第十一章 櫻の冬休み

14、後ろめたい気持ち

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櫻は次の休みにキヨと御徒町に来た。
大杉の演説を聞きに来たのだ。

でも、旅行中とはいえ、辻に後ろめたい気持ちがあった。
大杉のことは反対していたのだ。
男性としてなのか、活動家としてなのかは確認できてはいない。

しかし、キヨに引っ張られたと言われても御徒町まで来る時にドキドキしたのはいうまでもない。

「あ、そこのお姉さん、この間の。」
ビラ配りの男性は、この間、名刺をくれた男性だった。
「は、はい。」
「また来てくれたってことは今日は集会に参加してくれるのかな?」
「ああ、あの演説を聞いてみたいって、友人と。」
「そっかあ。でも大杉さんの演説聞いたら話してみたくなるよ。」
「え、でも、」
「まあ、あと10分で始まるから、そこの柱の辺りで立って待っててね。」

10分間の間、櫻は緊張した。
「ねえ、櫻さん。」
「はい」
「なんかガチガチね。」
「え?」
「すっごく緊張して見える。」
「緊張して見えるんですか?」
「そりゃそうよ。だって、黙りこくって。」
「ああ、活動家の演説最初から聞くの初めてで。」
「うーん、それにしては。。。」
「何か変ですか?」
「心が揺れてるっていうか。。」
「ああ、はい。」
「櫻さん、認めたね。」
「?」
キヨはわかっているのだ。大杉に対する心が。

「じゃあ、演説を楽しみましょ!」
キヨはこの状況を楽しんでいる。櫻は決して楽しめない。

少しすると、大杉の演説が始まった。
「お集まりの諸君、苦しんでいる人に心を痛めている諸君、よく来てくれた。私たちは全人類が平等だと考える社会主義同盟である。誰か苦しむ人がいるのならそれを無くしたい。この世が幸せで平和になるように、叶えたいのだ。それにはそれに賛同する人を募っている。どうか、わたしたちと共に世の中を戦おうという同志はいないだろうか?」

それを聞いた時、いや、この間も聞いたが、胸が急に熱くなった。
そして知らぬ間に、涙を流していた。

「え、櫻さん、どうしたの?」
「はい?」
「あなた、泣いてるわよ。」
「泣いてる?」
「気が付いてないの?」

櫻はこの時、心を持って行かれていた。ハッとした。
このままこの場にいると、心が大杉に満たされてしまう。

「キヨさん、ちょっと上野まで移動しましょう。」
「どうしたの?」
「私ちょっと、動転してしまって。」
「動転?」
「自分がわからなくなって。」
「うん、じゃあ、上野に行こう。」

優しいキヨに連れられ上野に移動した。
あのまま、御徒町にいたら、集会に行って直接大杉と話したかも知れない。
しかし、それは自分が1番してはいけないことだ。
大杉にあったら、自分の保証はない。辻との約束を本当の意味で破ることになる。

その時、櫻はあの時下した決断を未来に考えても良かったと思う。
しかし、運命は動き出していたのであった。
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