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第十一章 櫻の冬休み

9、自分にできること

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冬休みは櫻自身が自分でできることを探しながら、それに向かっていた。

本を読むことはもちろん、関われる人と関わること。

秩父にいた時、女学校に入った時、上野の家にいた時、それは意味がないと思っていた。
誰かと関係を気づくことがこの世の中で重要なんて思っても見なかったのだ。

それもこれも教えてくれたのは辻である。

それまでは1人で勉強さえすれば、嫁に行かず、職業婦人になれると思っていた。

もし、辻と出会わなかったら、私は意固地になって上野の家で勉強ばかりしていただろう。そして女中暴行していただろうと。

素敵な人との出会いが、今の自分を作っている。だからこそ、その人たちを裏切りたくない。
もっと努力しなければと思っていた。

しかし、仕事や勉強以外何を頑張ったらいいのか、それを教えてくれたのは辻で、人間関係ということだった。

トントン。
櫻の部屋がノックされた。
「はい、櫻です。」
「ああ、櫻さん、アグリだけど。」
「あ、先生、さっきもでしたがどうしました?」
ドアを開けた。

「あのね、まだちょっとお話ししたいかなと思って、きちゃった。」
こういう先生は可愛い。
「はい、どうそお入りください。」
櫻の部屋にアグリを招き入れた。
「先生、どうされましたか?」
「うん、今、主人と辻さんが旅行に行ってるでしょ。」
「はい、南の方に行くっておっしゃてました。」
「私ね、ちょっと不安があるの。」
「どういうことですか?」
「お腹に子供がいなかったときは全然平気だったのに、ヨウスケさんに浮気相手がいたらってね。そんなの結婚してからずっとだったんだけど。」
「望月さんも妊婦さんがいて浮気はないんじゃないですか?」
「櫻さんから言われるとちょっと安心するわ。」
「どうしてですか?」
「だって、お母様に言っても、多分浮気してるだろっていうしね。」

現実はどうかわからない。しかし、望月も辻も信じるしかない。
「私、望月さんて不思議な人だと思ってます。」
「不思議って?」
「誰の心にも入っていける力が。」
「うん。そう。そうなの。私結婚した時、絶対離婚んしてやるって思ってたのに、すぐ好きになっちゃった。」
「アグリ先生もそうだったんですか?」
「全然、誠実じゃないのよ。でも、あの人、人として魅力があるのね。」
「先生、私お二人の良さが、淳之介くんにあると思うのです。」
「そう思うの?」
「はい。だから、次の赤ちゃんも素敵な人になると思います。」
「たとえば?」
「うーん。芸術家とか。」
「最後はヨウスケさんの遺伝子かしらね?」
「アグリ先生だって、芸術ですよ。あのお洋服は。」
「ありがとう。」

こういうやりとりが本当に櫻は素敵だと思う。この時間や人間関係をくれた辻にまた感謝するのであった。

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