夢は職業婦人〜カラクリ御曹司と偽お嬢様の恋

第十章 冬休み 旅行に出る

4、犬山城と温泉と

電車にトコトコ揺られ、犬山についた。
今回は短い旅になるから、着いてすぐに宿を手配することにした。

「ねえ、辻くん、この辺りは旅館街じゃないから、一軒いい宿があるらしいよ。」
「紹介所から行った方がいずれにしても安心だな。」
「そうだね。じゃあ、さっきの人にお願いしてくるよ。」

1泊二食付き。まあまあ値段はしたが、温泉といえばいいだろう。
聞けば、かの信長ゆかりの茶室もあるらしい。

「辻くんてさ、社会の先生？」
「ああ、尋常小学校に行けば、なんでもやるし、旧制中学なら社会、うーん日本史もあるかもしれんな。」
「ならさ、信長好き？」

なぜこんなところで、武将のことを聞いてくるのかよくわからないが、それの望月の可愛いところだった。
「信長がなぜ天下統一できなかったと思う？」
「それは明智光秀に暗殺されたからでしょ？」
「歴史というのは常に勝者が上書きしてくる。そうじゃないかい？」
「ああ、そうだったね。ていうことは、信長と光秀は逆だった可能性もあるってこと？」
「そうだ。豊臣が上書きしてね。これから先の未来もどんどん勝者が上書きするだろう。」
「じゃあ、僕は勝者側にいればいいってことだね。」

そう、その通りである。
辻は、櫻の経歴を上書きしようとしている。それはまがいもない本当だ。
佐藤支店長とあれから何度も話をした。
彼女をいかにして、養女にするかに着いてだ。

煮詰まることもあったが、佐藤支店長が柔軟に考えてくれていることがありがたかった。
実は、日本に佐藤という名前がたくさんあれど、櫻の婚約者も実は佐藤で、そのルーツを調べてみると、佐藤支店長のハトコに婚約者の父が当たるということが分かった。
探りを入れたところ、やはり早く、嫁が欲しいということは真実だった。
しかし、絶対櫻じゃなくてはいけない訳でもないようだった。
要は金である。

後は渡し方さえ間違えなければ、櫻を佐藤支店長の養女にできる。

と、ふと犬山の空を見て思い出していた辻である。

「ねえ、どうしたの？黙りこくって？」
「ああ、望月すまない。考え事してたよ。」
「どうせ、櫻くんのことでしょ？」
「ああ、君にはお見通しだね。」
「そりゃあね。僕は櫻くんに本当に幸せになってほしいよ。」
「うん、ありがとう。」

2人は、犬山城に行き、天守閣に登った。
「意外に小さいね。」
「しかし、城にすむとは本当に大変だな。」

その後、旅館について、温泉三昧となった。
「ああ、本当に温泉にある国に生まれてよかった。」
「東京にだって、意外に温泉はあるんだよ。」
「知ってるよ。銭湯に温泉ありって書いてあるところ行ったことあるし。」
「あ、あのガールフレンドの時か。」
「アグリには内緒だよ。」
浮気者の望月は常にガールフレンドが必要だった。もちろん、最近の自分も。

「2人目の子供が生まれて君が変わるかな？」
「どうかな。でも、書くことも増えたし、楽しみだ！」

夕食は鵜飼いを見るらしい。2人は初めての体験に胸をワクワクさせた。