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第九章 成長に合わせて

7、望月家でのお正月

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年末は本当に忙しかった。冬休みに入って、望月洋装店が思いのほか繁盛して、午前中は洋装店、午後は新婦人社に行くという毎日だった。昼休憩も取れないくらいだったので、辻からお弁当を受け取って、出版社で食べながら仕事をするなんていうことも多かった。

大晦日の日に、出版社に辻がやってきた。
「富田編集長、江藤さんをちょっと借りるよ。」

新婦人社も大忙しだったので、富田編集長はちょっとだけね、といって他の社員も気にしなかった。

「これ、今年のお疲れ様祝い。」
それは押し花がついたしおりだった。

「先生、とっても素敵です。」
「うん、君は何冊も本を読むだろう。と思って3つも持ってきてしまった。」

どの花も可愛くて綺麗だった。
「大晦日、もっと一緒にいたかったけど、それは未来にとっておくよ。望月家でいいお正月を。良いお年を」
「先生、いつになくまともなこと言いますね。」
「私は教師だよ。人の模範にならなくてわ。」
ハハハと2人で笑った。

そんな大晦日を経て、お正月はやってきた。三が日は仕事がどちらも休みなので、気を抜いていた。
あ、誰がおせちを用意するなんて考えてもなかったと櫻は帰り道におもった。

帰ったら、姑の望月トモヨがとてつもない量のおせちを用意していた。
「今年は、アグリもいたからね。買わないでほとんど作れたよ。」
アグリの顔を見ると、顔色はいいが、苦笑していた。

お正月になり、他の弟子たちと近くの神社にお参りした後、望月家でののんびりとしたお正月がやってきた。
弟子たちも仕事がないということで、リラックスしていた。

「おーい。君たちは能無しで大変よろしい。」
ふと、背後からヨウスケが現れた。
「あら、あなた、ちょっとお酒飲み過ぎじゃありませんの?」
アグリが嗜める。
「僕はね、よぱらててはいまーせんよー」
「もう、あなたお部屋に帰って。」
「君たちはいいね。お休みがあって。僕は穀潰しの上に、一年中原稿に追われてるんですよー」
「もう、お部屋に行きましょ。」
「おいおい、僕やね、アグリの穀潰しじゃないんでしゅよー」
「あなた、わかってるから。」
「僕はね、自由なのに、原稿が書けないんだよ。もう、辞めたい。」

それを聞いた櫻はびっくりした。原稿が書けないという事態に。
自分もそれに憧れていたから、そうなった状態を想像していなかった。
 

しんとしたリビングにアグリがトモヨとヨウスケを追い出した。
望月の苦悩を誰がわかってあげられるのだろう。
文筆で戦うというのは簡単ではない。
その、夢と現実を垣間見た元旦であった。
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