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第八章 遭遇
1、大久保からの誘い
しおりを挟む櫻は久しぶりに望月洋装店に出社していた。木金と出版社、月曜は家庭教師だったからだ。
「江藤さん、ごめんね。すごく一人だけで事務仕事でもう大変で!」
大久保キヨが大変だったのがわかる、帳簿が何冊も平積みされている。
「もう、土日頼もうかと思ったんだけど、アグリ先生から土日は江藤さんの勉強の日にしてって言われたからね。」
俄然、助けたいと思った。
「私が力になるのなら、がんばります。溜まったぶん、やっつけちゃいましょう。」
平積みになったところから書類を取る。計算もあれば、顧客リストの整理など多岐に渡る。
「大久保さん、私が計算を全部しますから、顧客リストの方をやっていただけますか?」
「助かる!ではこちらの方、持っていくね。」
顧客リストの整理といっても、速書きされたところを書き直したり、メモ書きを但し書きしたりそれも大変だ。
計算は一人一人の売り上げと、その日の売り上げを帳簿につけていき、処理していく。
幼い頃から帳簿付けを教えられた櫻はそれを得意としていた。
得意としているというのは、それはそれで適性があるのではないかと、自分も思うことがあった。
(これで職業婦人を目指すというのもいいかもしれない。。。)
そろばんを弾きながら帳簿に書き込んでいく。
「江藤さん、本当に計算が早いね。もう、私なんてその速度ではできなくてよ。」
「いえいえ。大久保さんの顧客の覚えに関しては私は素晴らしいと思っています。」
本当のところ、大久保は顧客リストに載っているお客のことをほとんど頭に入れているようだった。
アグリに言われると、すぐに出して、気をつける点などをいつも伝言していた。
「今日も、お昼は出版社にくの?」
「はい、本当にいい修行になるので。」
(大久保さんには悪いけれど、辻先生と食事を食べるなんて、背徳的な行動だわ)
でも、本当のところ、木金は出版社で修行させてもらって、自分が文章に関わることが本当に楽しいと感じた。
自分が書けるようになったらどんなにいいかとも、思ってきた。
「近いうちに、ランチお休みもらって、一緒に銀座で食べない?」
「出版社とアグリ先生が大丈夫であれば、大丈夫です。大久保さん、何かありました?」
「私ね、江藤さんと楽しく職業婦人のランチを食べてみたいのよ。」
「では、今晩、先生にも聞いてみますね。」
「早く行きたいわ。資生堂もいいしね。お給金が出たでしょ。だから、めかしていきたいの。」
さすが銀座。女性の心を程よく向上させてくれる。
その資生堂パーラーで不意に起きる出来事を櫻はまだ知らない。
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