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第六章 愛を確かめ合う関係
9、同僚の夢
しおりを挟む洋装店の事務室に戻った櫻は大久保キヨと事務作業に追われていた。
「ねえ、出版社ってどんなところなの?」
キヨが櫻に尋ねてきた。
「おしゃれなビルディングの中に入ってます。でも、いろんな取材道具とか書き物があって、編集室はあまり整理されてません。」
「あなた本当に正直に言う人ね。ふふ。そこが私も気に入ってるんだけど。女編集長って怖くない?」
「アグリ先生のご学友ですから、まだ若くてすごく優しいです。」
「今は洋装店で修行してるけど、江藤さんは編集者になりたいの?」
聞かれてもう一度考えてみた。洋装店での仕事も好きだ。でも編集者の仕事も興味がある。
「まだ、わからないって言うのが本当のところです。」
「でも、あなた女学校か通ってるってことはご実家は大きなところなんでしょ?いいところにお嫁に行けるだろうに。。」
「私、職業婦人に憧れてるんです。銀座をいつか闊歩して歩きたいです。」
「なあんだ。私と同じじゃない。私はね、詳しくは話してこなかったけど、少女雑誌見て、洋装に惚れちゃったのよ。それで、母に頼んで上京させてもらったの。私もアグリ先生と同じ群馬なのよ。」
「でも、洋装店を開きたいってきちんとした夢が大久保さんにはあるんですね。」
「そう。でも、私は洋装だけじゃなくて、お化粧とか髪結とか全部が一緒にできるそんなサロンを開きたいなって思ってるの。」
「わあ、それはすばらしいお店ですね。」
「早いところ、洋装の修行もきちんと初めて髪結のところにも修行に出てみたいわ。」
大久保がすごいと思った。もう、自分の道を決めている。
「本当に素晴らしいですね。私はそこまできちんと決めてなくて。」
「迷うのも夢の素晴らしいところだわ。私だって、どんどん増えていくの。時代がどんどん進むのと同じね。」
「早く、店頭で修行できるといいですね。」
「まだ、裏方もまだまだだからね。江藤さんは事務仕事が早いから本当に羨ましいわ。」
「私なんてまだまだ。。。」
ガチャと扉が開いてアグリが入ってきた。
「あらあ。お仕事中におしゃべり?」
「先生、すみません。。」
「いいのいいの。活気がある方が仕事にはいいのよ。お店の雰囲気がいいとお客様もきてくれるしね。」
アグリはすごい。いろんなことがあってもいいように乗り越えていく。
「ちょっと、疲れたから、椅子に座って休ませてもらうわ」
アグリは腰掛けた。朝食の時みたが、あまり食べていなかった。多分悪阻だろう。
もう少ししたらみんなに言うのだろうか。深くは聞けなかった。
でも、その赤ん坊が元気に育ってくれることを祈りつつ、櫻は仕事に邁進するのであった。
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