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第五章 新たなる世界へ
15、櫻の夢 弍
しおりを挟む櫻は夢を見ていた。
「お父さん、そんなにゴロゴロしていて、フランスに来た意味と役目を果たしてないんじゃないの?」
「おい、息子よ。父をそう言うふうに言うな。僕は頭の中で色々しているんだ。」
「でも、新聞社の記者の駐在できてるんだから、少しは記事にしなきゃだよ。」
「それは君に託したよ。君も物書きになるなんて思わなかったね。」
「僕はまだ父さんと違って学生の身だよ。まだ物書きになるなんて決めてないよ。」
「父さんはね、母さんが存在しなくなって書く気持ちがどんどん少なくなってしまったんだよ。」
ふうん、と青年は相槌をうつ。
「僕は、母さん、好きじゃないな。自由すぎるよ。」
「君の母さんに自由を教えたのは父さんなんだ。悪く言うなよ。母さんが最後どんな気持ちでいたか、心が絞られたよ。」
「本当に愛していたんだね。」
「後にも先にも、あんな人はいないよ。僕の息子が魅力的なのも母さんが魅力的だからだ。」
「こんなにいい人がいたのに、あんなことをした母さんを僕は許せない。でも、僕はだからこそ温かい家庭を持てる気がしないよ。」
背景にはエッフェル塔が見える。辻なのだろうか。
しかし、その青年は辻よりも癖っ毛で違って見える。
どちらかというと初老の男性が辻の面影があるように見える。
「息子よ、忘れてはいけないよ。君の母親は戦士だったんだ。世の中と戦った。残念ながら僕はその戦いを放棄してしまったがね。」
「父さんだってその後、再婚すればよかったのに。」
「おじいちゃんに似ちゃったのかもしれないね。最初の女性を忘れられないと言うのは。」
どう言うことだろう。この初老の男性は離婚したと言うのだろうか。
「息子よ、もう一度言うよ。忘れちゃいけない。彼女は君を愛していた。君と離れて暮らしても何度もうちに来て遊んだからね。」
「僕はあのおばさん誰って感じだったよ。女中のしのの方が僕のお母さんになって欲しかった。」
「息子らしい答えだね。でも、あの人は愛の人だった。それだけは忘れないでほしい。」
「じゃあ、僕も父さんに記事を真面目に書いて欲しいと忘れないで欲しいよ。」
「ノン!君の記事の方が好評だよ。東京に帰ったら、雑誌を作るといいよ。」
「もう、無責任なんだから。」
初老の男性は、軽薄だが、その裏に真面目さがある。
櫻は辻だと思った。
ではこの夢はなんだろう。
私がいない。いや、私はいなくなったと言っていた。
私は先生とずっといたい。どんな運命になったとしても。
夢うつつの中で櫻はそう考えていた。
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