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第五章 新たなる世界へ
14、アグリの憂鬱
しおりを挟むアグリはため息をついていた。
ここ最近、疲れやすく、熱を測ってみると微熱があったのだ。
働きすぎだ、だからすぐに良くなるはずと1ヶ月放ってしまった。また熱を測るとまだ微熱があった。
アグリは父をスペイン風で亡くしていたので、自分の体を軽んじてしまったことに後悔し、すぐに病院に行った。
大病だったらどうしよう。こう言う時になんでヨウスケさんがいないのかしらなんて思っていた。
しかし、まさに、どうしてヨウスケさんいないのかしら!と言う事態になったのだ。
「望月さん、おめでとうございます。ご懐妊ですよ。」
医者が行った言葉を理解できなかった。
淳之介ができたときは、体調が悪いと女中に言ったらすぐに家にかかりつけ医がやってきて義理父が万歳する事態までなったのだった。
誰に言えばいいのだろう。そもそも、淳之介が10歳になったので、もう子供はいいと思っていた。
洋装店が繁盛すればするほど、子供をもう一度産んで育てることなんてできないだろうなとも思っていた。
ふと、一人で家の事務室で夜考えていたら、涙が溢れた。
この命を誰にも言わずに、ひっそりと天国へ行かせる方がみんなが幸せなのだろうか。
そもそもヨウスケさんに相談したところでなんて言うんだろう。
机に伏せて考えていた。
ドアがノックされた。
「先生よろしいですか?」
アグリは涙を拭うと
「いいわよ、どうぞ」
と弟子を部屋に入れた。
「先生、ご主人様から手紙が届いていたのを私忘れていて、この時間になってしまいました。失礼しました。」
「いいのよ。今日は忙しかったし。ありがとう。」
アグリは手紙を受け取ると、弟子が部屋を出たタイミングで封を開けた。
「アグリへ
君はどうしてるかい?辻くんは熱心に櫻君に手紙やら電報やら送っているから人って変わるんだなって横で見ているよ。
僕が君に手紙を書くなんて珍しいだろう。今まで旅行に行ったところで君に手紙を書いたことなんてなかったしね。
僕にとっての君への手紙は公開手紙、作品として発表してきた。
でも、どうしてその気分が変わったかというと、辻くんが変なことを言ったから君に伝えたくてね。
あのキチガイ恋愛教師が心の中の櫻くんと話したらしいんだけどね、僕とアグリのところに天使がやってくると言ったそうだよ。
天使っていうのは僕は女の子じゃないかなって思ったんだ。いや、男の子でもいいけどね。
僕は、今編集者もしてるし、文士として文壇にもちょっとずつ有名になりつつあるから、お金のことは気にしなくていいよ。
アグリのことだから、子供ができていようが、できていなようが、僕には秘密にするかもしれないからね。
僕は、勇蔵と兄弟だったことで本当に幸せだ。淳之介がたとえ一人っ子だったとしてもそれはそれで幸せだと思う。
でも、今度もし子供ができたとしたら、芸術家になるような気がするんだよ。君の芸術のセンスが継がれるだろうね。
だからもし、今後、子供ができたとしたら、僕はぜひ欲しい。できなかったらそれは縁がなかったと思うけど、今度の子供は赤ん坊用の風呂に入れてもみたいしね。
辻くんの影響かな。僕も家族への想いがどんどん深くなってしまったんだよ。これも作品にできたらいいな。
まだ旅行中だから帰れないけど、僕の想いを伝えたくてね。
じきに帰るよ。
ヨウスケ」
なんてことだ!とアグリは思った。辻さんがそんなことを言うなんて。
そして、読み終わって思ったのは、これからお店をやっていくために、このお腹の子供を守るために生きていこうと思ったことだ。
櫻は特殊な子なのかもしれない。でも、とても感謝した。
じきに帰るヨウスケに子供ができたことを知らせることを幸せに感じた。
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