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第四章 夢を見つけた
12、気になる話
しおりを挟む望月家の夕食の時、櫻は気になる会話があった。
「今日、いらしていたの、あの大杉さんの奥様でしょ?話題の人よね?」
「そうそう、この間、講演会ですごく人を集めて日本を変えようなんておっしゃっていたんだって。」
「左翼運動家なんて儲かるのかしら?」
「思想家の後ろ盾なんてどこにもいるわよ。自由な国になったわね。」
みんなが思い思いに話していると
パンパンとアグリが手を叩いた。
「皆さん、お客様のことをとやかくいうのは無粋というものよ。大杉様も奥様も良くしてくださってるの。大事にしましょう。」
櫻は昼間、あの新聞で見た大杉の奥方が望月洋装店のお客様ということが驚いた。
ある程度の身分であれば、それは普通のことかもしれない。
でも、あの身分の低いものを守ろうとしている大杉とおしゃれに身を包む奥方の組み合わせはなんだがチグハグな気がした。
正直いうと、辻という恋人がいるのに、ただ誌面で見た大杉に興味を持っていることに自分ながら驚いている。
これは、恋愛感情ではない。しかし、彼の思想にとても惹かれることがあった。
それを辻に伝えては、とてもひどく傷つける気がして大丈夫なふりをしたのだ。
「それは、と。ああ江藤さん今日の居残り大丈夫だった?」
アグリが聞く。
「はい。私が英語の授業にちょっと質問がありまして、それを見てくださいました。」
「それは良かったわね。うちのお客様でも英国人の方がいるから、江藤さんが話せるようになってくれると助かるわ。」
それを聞いた淳之介が口をはんさんだ。
「お母さん!僕にはもっと勉強しろっていうけど、僕へのいいかたと江藤さんへの言い方違うよ。僕に御三家行けなんて。でも、コナンドイル、本当に面白いよ。僕、江藤さんから英語教えてもらいたい。」
「そうねえ、江藤さんは学校と仕事と忙しいしね。でも、毎週月曜日だけ仕事は無しにして淳之介の勉強を見てくれるとありがたいわ。学校もゆっくり帰ってきていいわよ。」
「私がお教えすることなんてあるでしょうか?」
「学校の宿題を見てくれるだけでいいわ。勉強が楽しいってことがわかればいいのよ。麻布か武蔵に入れたいんだけどね。。。」
「僕、江藤さんがいい!お母さん、ありがとう!」
ということで、月曜日限定で淳之介の家庭教師になることになった。
櫻は人に教えるのはまだと思っていたので、少し気が引けたが、ゆっくり帰ってきていいという、魅力的な提示をされて、辻ともう少し過ごせるのではないかという邪険な思いから受けてしまった。
最近、自分はわがままな自分だな、と反省しつつも、それを抑えられない自分が生まれつつあったのだ。
単なる紙面でも心惹かれたことに、辻へに対してちょっぴり悪かったなと思った櫻だった。
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