上 下
57 / 419
第四章 夢を見つけた

8、隅田川

しおりを挟む


「っていうのが私の生い立ちかな」
鈴音はすっきりとした顔で言った。
「そんなに気がきくと、置き屋に来てもいろいろ褒められたでしょう?」
辻が聞く。
「辻さん、褒めても何も出ないわよ。でもね、正直そうなの。置き屋に来るお客さん、一回で覚えちゃうからお得意先の料亭の女将さんからも可愛がられてね。もちろん、その頃は子供だったからお座敷には出られないけど、お稽古の手配とか皆さんよくしてくださったの。」
「鈴音さんの特技がこの職業で生きたんだね。」
辻先生の言葉の響きには感心した感情がこもっていた。それを櫻は誇らしく思った。

「さてさて、これからおかみにも話を聞きたいけど、ここから先は記事で楽しんでもらうってことで、辻くんと櫻くんは先に帰ってくれるかな?」
突然のことで櫻は驚いた。
「ガッテン承知の助だね。江藤くん、僕たちはお暇しよう。」
「え。。はい。」
そう言って、辻と櫻は部屋から出て、玄関にいた女将に挨拶をして置き屋を失礼した。


「どうでした?」
「とても興味深くてもっと聞いていたかったです。」
「僕もそれは気が付いてましたよ。」
「じゃあどうして?」
「それはあなたが将来そういう職業に就くかもしれかないからです。」
「どういう意味で?」
「人から意見を聞いてそれを文章にして、世間と戦っていく。それが文士であり編集者なのです。あなたはきっとそうなる。」
「私、まだあんなにスイスイとお話しできません。」
「でもきちんと聞いていたじゃないですか。坂本はちょっと待たせて、隅田川沿いを散歩しませんか?」
スタスタと前を歩いて行ってしまう辻。櫻は追って行った。
「先生、待って!」
「さあ、急がないと僕が消えてしまいますよ。」
櫻が走ると、急に止まった辻に抱きしめられた。
「ほら、不用心」
「先生ずるい。」
「さ、、この川を眺めながら、しばらく抱き合っていましょう。川の音を聞いているだけで僕たちには素晴らしい音楽に聞こえますよ。」
二人は川沿いの椅子に腰掛けながらしばらくの間、抱き合っていた。誰の邪魔もされずに。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

処理中です...