56 / 419
第四章 夢を見つけた
7、鈴音の生い立ち
しおりを挟む「ねえ、もっと私に聞きたいことないの?」
「僕はね、普通の編集者じゃないんだ。だから、どんな修行してるかとかそういうんじゃなくて、スズメの根っこを掘り下げたい。」
「それって。。」
「そう、どうしてここの置き屋に来ることになったってことさ。ちょっと聞いたことはあるけどね。言いたくなかったらもちろん僕は記事にしない。」
望月はいつになく真剣な顔で鈴音に話しかける。
「それで、具体的に何が知りたいの?」
「生まれてから置き屋に来るまでの経緯さ。」
「こんなこと記事にして、みんな面白いかしら。いいわよ。私は恥じる人生じゃないしね。私は両国のちっちゃな料理屋の4番目でね。美味しいけど、母さんが病弱で、父さん一人で店をしてるからいつも貧乏だった。兄さんや姉さんと年子だったから奉公にも出られず、ずっと小さな世界で空見てた。」
鈴音の目が遠くを見ている。
「ある日ね、6歳くらいかしら。店にここの置き屋のお母さんが来たの。あ、お母さんてさっきあったと思うんだけど、ここの主人ね。それで、お店で手伝っている私を見て、10歳になったら、うちに来ないかっていうの。父さんは反対したわ。うちは貧乏だけど、子供を身売りに出すほどの落ちぶれちゃ、いないって言ってね。」
櫻は少なからず、鈴音の生い立ちに自分の生い立ちを重ねていた。ここにも私と同じような人がいる。。。
鈴音は続ける。
「でね、置き屋のお母さん、こう言ったの。芸妓は誇りある職業です。だから、うちに来てもらうときお金はつつみますが、それは身売りのお金ではなく、あなたのお嬢さんのお預かり金だってね。父さん、どうしてうちの娘なんか欲しいんだってまた怒って。そしたら、私の配膳を見て決めたって置き屋の母さんがいうの。常連客に一味置いたり、時には七味置いたり、全部聞かずにやってるってね。そういう気を回せる子が、芸妓に1番向いてるからって。」
子供は学ぶ。それは櫻も昔の奉公先で経験したことだった。
「私、父さんに懇願したわ。芸妓になりたいって。じゃあ、断るついでに浅草橋まで行ってみるかってね。そしたら、この家でしょ。ちゃんとしてる。遊郭じゃなくてちゃんとした置き屋だってね。もう一度父さんが話して、10歳からこの家に来ることになったの。」
望月が話す。
「スズメの気の利くところに、スカウトしたってことだね。スバらしい。まあ、あの時のお前も今のお前もやんちゃだけどな。」
「ヤンチャとか言わないで!チャキチャキの江戸っ子なの。だから許せないことは許さないし、私の考えは曲げない!」
「それだから半玉なんだなんて言われたらどうするんだい。でも、僕はなんでも謙らないスズメが素晴らしいと思うよ。」
望月はうまい。女性の心を知っていると櫻は思った。
そして、この鈴音の半生を共感して感動していた。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる