52 / 419
第四章 夢を見つけた
3、編集者ってどんな仕事?
しおりを挟む学校が終わり、車中で辻との時間を味わっていた。
「もう直ぐ夏休みですが、洋装店でがむしゃらに働くのですか?
ふと辻が聞いてきた。
「もちろんです。家にも住まわせていただいて、みなさんの仕事ぶりも勉強になります。」
「そうだねえ。君にとっては唯一の職業夫人の世界だからね。でも、他の世界も見て見たくはないですか?」
「え?」
「君にね、ぜひ見てほしい職場があるのですよ。これからどうでしょう?」
「突然にお休みはできません。お店の方々に迷惑がかかります。」
「そう言うと思って、朝のうちに坂本からアグリさんに今日は休ませてもらうように話をつけておいたんですよ。」
「先生、そんな勝手して。私はまだ新米なんですよ。そんなことしたら。」
「周りの皆さんもわかってくださいますよ。あなたは女学生でもありますからね。」
「でも、先生、どこに行こうって言うのですか?」
「ハハハ。気になりますか?」
「はい、大いに気になります。」
「実はね、望月が最近編集者になりましてね。出版社に勤務してるんですよ。」
「あの自由人の望月さんが、サラリーに?」
「まあ、会ってみたらわかるけど、彼の見掛けは何も変わってないですよ。彼らしい編集者として採用されたからね。坂本、望月の出版社まで車を。」
「はい、坊っちゃま承知しました。」
車は銀座を離れ、新橋方面へと向かう。
「先生、どこまでいくんですか?」
「望月の勤めてイル出版社、新婦人社と言うんだけどね、新橋の端にあるのだけどとてもいい雰囲気ですよ。」
車は止まり、辻に促され車を降りる。
「さて、4階まで登りましょう。」
ビルの4階に上がると、「新婦人社」と看板がある。
トントン
ノックをすると、辻は社内に入る。
「望月に会いにきた、辻です。失礼をば」
「あら、辻さん。ようこそ。そちらのお嬢さんは?」
「ああ、アグリくんの所の助手見習い君でね。望月の新しい仕事を見せたくて。江藤くん、こちらは編集長の富田さん。アグリくんの女学校時代の同期で新聞社を辞めてこちらの雑誌を創刊しすごい人物だよ。」
「初めまして、江藤です。今回お邪魔します。」
「あら、本当に可愛い。辻さんたらいけずなのね。」
「まあ、じゃあ望月のところに行かせてもらうよ。」
「どうぞどうぞ。」
スタスタと辻が奥の席に座る望月に話かける。
「やあ、やってきたよ。望月くん、」
「なんだ、辻じゃあないか。あれ、江藤女史もご一緒で?」
「君の仕事を見せたくてね。」
「今日はこれから浅草橋に行くんだよ、取材でね。」
「ほお、そう言うことは」
「奥屋の半玉の芸妓の取材さ。」
「櫻さん、今の意味わかったかな?」
辻は桜に聞く。
「先生、すみません、わからなかったです。」
「浅草橋は料亭街でね。芸者遊びの場所なんだけど、料亭が芸者を持っているわけじゃないくて、芸者は稽古や生活をする奥屋と言うのがあるんだ。夜のお座敷の前には三味線や踊りの稽古をして過ごすんだよ。で、半玉っていうのは君と同じ。半人前って意味の新人てことさ。」
望月はすかさず櫻に話しかける。
「江藤さん、僕はね、これまで第一線の女ばかりとやりとりしてたから、半玉も興味を持ったんだよ。いつか小説にも書きたい。ってなことで、辻と君がきたからこれから、一緒に浅草橋にいこう!坂本さんの車に乗せてくれよ。」
「相変わらず君はなんでも上手いね。ではぜひ連れて行ってもらおう。」
トントンと話は決まり、浅草橋に行くことが決まってしまった。櫻は編集者というものがどんな仕事をするのか、置き屋とはどんなところか、ワクワクが止まらなかった。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる