上 下
41 / 419
第三章 愛の確認

8、ウェルカム 新しい家

しおりを挟む

食事が始まった。
どうやらあぐりの家族と弟子たち全員がテーブルに席があり、櫻にも用意されていた。
「今日もみなさん、お疲れ様。いつも夕食を用意してくれる皆さんも、お店で残業してくれていた皆さんもありがたいわ。冷めてしまう前にご飯と行きたいところだけど、今日から弟子入りする江藤さんを紹介するわ。江藤さん、自己紹介して頂戴。」
「は、はい。江藤櫻です。まだ女学校3年ですが、あぐり先生とご縁があり、弟子入りさせていただくことになりました。なんでもいたしますので、どうぞよろしくお願いします。」
「そう、なんでもして欲しいところだけど、夏休みまでは学校があるから、朝の食事と学校後の仕事と夕食の用意をお願いね。」
「はい、承知いたしました。」
「あ、後、ちょっとお話ししたいから、夕食後に私の書斎まで来ていただけるかしら?」
「わかりました。でも、書斎の場所は。。?」
「あ、この食堂の奥にサンルームがあるでしょ。その奥。」
「では、夕飯の片付けが終わりましたら向かいます。」

その後、歓談しながら夕飯は始まった。櫻がこの間のお客様だったことも皆覚えており、辻のことを聞いてくるものもいた。しかし、辻から関係を疑われてはいけないと言われていたので、櫻は辻は先生で自分の職業見学に付き合ってくれただけと言っておいた。
意地悪な弟子がいたらどうしようと不安だったが、アグリの弟子は皆素直で、裏表がない闊達な集団なのであった。
そう言うことも、櫻には新鮮だった。ここの弟子たちのキラキラした羨んだりしない気持ちは、自分たちは銀座の選ばれた職業夫人なんだという自信から来ていると桜は思った。それを証拠に、辻のことを聞いてきた他は、あまり櫻の過去や学校のことを聞いてこなかった。他人の噂話より、自分がどう成長するかが興味があるようだった。

夕食は滞りなく終わり、櫻も夕飯の片付けを手伝うと、あぐりの書斎へ向かった。

「今日一日お疲れ様でした。緊張したでしょう?」
アグリから優しい言葉をかけられた。
「忙しかったですが、こちらの家に来て、本当に良かったです。皆さん優しくて、ますます修行に励みたくなりました。」
「まあ、本格的な修行も夏休みからってことで。あなたにはこれからの仕事内容と辻さんから預かった手紙を渡したいからお呼びたてしたのよ。本当は接客のところも手伝って欲しいところだけど、うちのお客様には銀上女学校の生徒も多いの。もしあなたが働いているのを見たら騒ぎになるでしょう?だから申し訳ないのだけれど、事務所で経理と雑務をやってほしいの。」
「経理はこの間、百貨店でもさせていただいていました。書類仕事はもっとやって見たいと思っていたところです。」
「そう言っていただけると助かるわ。まあ、他の子もいきなり表には出さないんだけどね。あなたの部屋を案内してくれた大久保さん、あの人にも今は書類仕事してもらってるの。まず弟子に入ったら、この家のことと、お店のシステムがどうなってるかを知って欲しくてね。ああ、話が長くなってしまったわ。辻さんからのお手紙わたすわね。」
アグリから手紙を受け取った。
「こちらで読んだほうがいいですか?」
「そんな無粋なことしないでいいわよ。私は自由恋愛には賛成よ。でも、あなたたちは公表できる関係じゃないから、この家に来てより気をつけなきゃいけないわね。」
「アグリ先生、ありがとうございます。私、少しでも力になれるように頑張ります。」
「ここを我が家だと思っていいわよ。私は弟子もみんな家族だと思ってるの。改めて、我が家へようこそ。」
「本当にありがとうございます。私、本当に嬉しくて、、、、」
櫻は泣いてしまった。感動の涙だ。
「そこまで嬉しがってくれるとは本当にありがたいわ。でも、辻さんとのこと、注意しなきゃね。」
「私、全部この手から離したくないんです。今この幸せを、、、。」
「明日から、もっと忙しくなるわよ。でも、私は味方だから。忘れないでいて。」

辻からの手紙を手に、あぐりの書斎を後にした。そして櫻は自室へと嬉しい気持ちで向かった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

処理中です...