37 / 419
第三章 愛の確認
4、こんにちわ、マイセルフ
しおりを挟む
「君を呼び出したのはね、早々に、田中の家から出る手筈がとってあるので、そのことを端的に話そうと思ってね。」
休み時間に、教材を運ぶからと、辻は櫻を呼び出したのだ。
二人の関係が怪しまれてはならないと、櫻はなるべく接触しないでいた。なのに、呼び出しということは余程のことだと思った。
「でもどうやって?」
「今日、君は百貨店をさることになる。それは辻の人間に伝えてあるから、それなりに送別されることだろう。君が辞めることを知らないで百貨店言ったら、実におかしな話になるだろう?だから、そればっかりは早く話しておかなくてはと思ってね。」
「でも、百貨店を辞めたらどうするんですか?」
「僕のスケジュールはこの通り!君が学校から百貨店に行く。仕事をしたら、仕事納めをして皆さんにさよならをする。そのあとは、いったん田中家によって、今ある荷物をまとめて、望月家に行くという流れさ。」
「え。。。本当に急ですね。」
「でも、昨日、望月の家に行くことはもう言ってあるだろう。」
「そんな突然で、望月の方々ご迷惑ではありませんか?」
「迷惑がるところにあなたをやるもんですか。まあ、望月はいなかったから、アグリくんに了承を得たけどね。それで、明日からはアグリくんの洋装店で君は丁稚してもらうということに決まったよ。前は呉服屋に丁稚していたんだろう。洋装の店も新鮮だと思うよ。」
こういう時、先生はずるいと思う。私の職業欲というものをよくわかっている。
「先生、私、昨日の夜に大体の物はまとめておきました。でも、ほとんど物も持っていないし、風呂敷、3個くらいで済みます。ただ、お借りしている「青踏」がまだ手元にあって、それも借りたまま、望月の家に持っていてよろしいでしょうか?」
「オフコース。それはユアセルフですよ。」
「ユアセルフ?」
「ご自身で決めてどうぞということです。自分のことでいう場合はマイセルフと言うますがね。あなたは、これからマイセルフの中で生きていく。なんでも自由なのです。僕とのことは秘密ですが、自由恋愛ですから、お互いペースを守っていけば滞りないでしょう。」
「マイセルフ、ユアセルフ。素敵な言葉ですね。私、マイセルフの精神で、これから頑張っていきます。」
「学業や仕事に精を出すのはいいですが、僕との時間も忘れずに。」
「もう!先生!」
先生は、冗談めいてなんでも言う。そこが悔しいのだ。
「櫻さん、そこの帝都の地図を持って、教室に戻ってください。表向きは教材の運び屋さんですからね。」
「はい。でも、先生、帝都の地図を使って何をなさるんですか?」
「それは授業までのお楽しみ。そして、今日は百貨店から田中家に行く時、あまり話せないかもしれませんからね。僕の授業で僕を堪能してください。」
本当に冗談がすぎる人だ。でも、辻の授業を楽しみに思う。他の女学生も最近は目を爛々として聞いていることがある。
まあ、それは8割は辻への恋心、嫁に行きたいという野心を持った学生の集まりだが。
辻が教えた絡繰の世の中は本当に魅力的である。もっといりたいと思う。
「さ、早く行かないと他の生徒に勘繰られますよ。」
「は、はい。すぐに。」
そう言うと、櫻はフランス語準備室から出て教室へ向かった。
そして、今日から始まる新たな世界への扉を開けることにワクワクしていた。
休み時間に、教材を運ぶからと、辻は櫻を呼び出したのだ。
二人の関係が怪しまれてはならないと、櫻はなるべく接触しないでいた。なのに、呼び出しということは余程のことだと思った。
「でもどうやって?」
「今日、君は百貨店をさることになる。それは辻の人間に伝えてあるから、それなりに送別されることだろう。君が辞めることを知らないで百貨店言ったら、実におかしな話になるだろう?だから、そればっかりは早く話しておかなくてはと思ってね。」
「でも、百貨店を辞めたらどうするんですか?」
「僕のスケジュールはこの通り!君が学校から百貨店に行く。仕事をしたら、仕事納めをして皆さんにさよならをする。そのあとは、いったん田中家によって、今ある荷物をまとめて、望月家に行くという流れさ。」
「え。。。本当に急ですね。」
「でも、昨日、望月の家に行くことはもう言ってあるだろう。」
「そんな突然で、望月の方々ご迷惑ではありませんか?」
「迷惑がるところにあなたをやるもんですか。まあ、望月はいなかったから、アグリくんに了承を得たけどね。それで、明日からはアグリくんの洋装店で君は丁稚してもらうということに決まったよ。前は呉服屋に丁稚していたんだろう。洋装の店も新鮮だと思うよ。」
こういう時、先生はずるいと思う。私の職業欲というものをよくわかっている。
「先生、私、昨日の夜に大体の物はまとめておきました。でも、ほとんど物も持っていないし、風呂敷、3個くらいで済みます。ただ、お借りしている「青踏」がまだ手元にあって、それも借りたまま、望月の家に持っていてよろしいでしょうか?」
「オフコース。それはユアセルフですよ。」
「ユアセルフ?」
「ご自身で決めてどうぞということです。自分のことでいう場合はマイセルフと言うますがね。あなたは、これからマイセルフの中で生きていく。なんでも自由なのです。僕とのことは秘密ですが、自由恋愛ですから、お互いペースを守っていけば滞りないでしょう。」
「マイセルフ、ユアセルフ。素敵な言葉ですね。私、マイセルフの精神で、これから頑張っていきます。」
「学業や仕事に精を出すのはいいですが、僕との時間も忘れずに。」
「もう!先生!」
先生は、冗談めいてなんでも言う。そこが悔しいのだ。
「櫻さん、そこの帝都の地図を持って、教室に戻ってください。表向きは教材の運び屋さんですからね。」
「はい。でも、先生、帝都の地図を使って何をなさるんですか?」
「それは授業までのお楽しみ。そして、今日は百貨店から田中家に行く時、あまり話せないかもしれませんからね。僕の授業で僕を堪能してください。」
本当に冗談がすぎる人だ。でも、辻の授業を楽しみに思う。他の女学生も最近は目を爛々として聞いていることがある。
まあ、それは8割は辻への恋心、嫁に行きたいという野心を持った学生の集まりだが。
辻が教えた絡繰の世の中は本当に魅力的である。もっといりたいと思う。
「さ、早く行かないと他の生徒に勘繰られますよ。」
「は、はい。すぐに。」
そう言うと、櫻はフランス語準備室から出て教室へ向かった。
そして、今日から始まる新たな世界への扉を開けることにワクワクしていた。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる