36 / 419
第三章 愛の確認
3、望月家の優しさ
しおりを挟む
「あら辻さん、こんなお時間に御用で?」
先ほど、櫻を田中家に送った辻は帰り道に望月家に寄った。夜7時はまわっている。
「早くお話ししたい用事でね。望月はいるかい?」
「ごめんなさい。あいにくあの人、今日は弟の勇蔵さんと飲みに行くっておりませんの。」
「ああ、勇蔵くんは東工大の学生だったね。実家の土建屋のために設計を学ぶ予定が違う夢ができたとか。」
「そうなの。でも、こうやって私が東京に出てきてしまっているから、困ったなあって言いながら、ヨウスケさん、どうにかなるよなんてね。」
「それは同意だよ。世襲制なんて旧態依然な法律だよ。親のエゴだね。そう、立ち話もなんだから家に入れてくれないか?」
「私ですむお話しですの?」
「オフコース。もちろんですよ。では失敬。」
さっとズカズカ上がり込むのは辻の常套であるが、アグリはまたこの人はと急いで
「しずかさん、来客室に辻さんが来ているので、お茶をお願い。」
と弟子に指示をした。
辻とアグリで来客室で話をし始めた。
「さてさて、今日は君にちょいとお願いがありましてね。」
「私わかりますよ。櫻さんのことでしょう?」
「ご名答!流石はアグリ嬢!少し困ったことがおきましてね。夏休みに櫻さんを奪われそうなんですよ、実家に。」
「ご実家に帰るだけならいいんじゃないですの?」
「いやはや、櫻くんはねある男の許嫁なんだよ。もう結納もすませてある。だから帰ってしまったらもう、結婚する運命なんだ。」
「私のようね。」
「君は望月くんという自由な風船と出会えたから良かったじゃないか。」
「自由な風船ね。そうね。そのおかげでは私も自由だし。でも、結婚してしまったら、あなた方の自由恋愛が終わってしまうわね。」
「そこでお願いがあるんだ。近日中にでも学校が夏休みに入る前、なるべく早く、君の家に櫻くんを置いて欲しいんだ。」
「まあ、突然だこと!もう、櫻さんにはいってあるの?」
「アグリくんがノウとは言わないのはわかっているからね。」
「私も辻さんには借りがあるからしょうがないわ。でも、うちでおくだけで良いの?」
「田中家の手前、僕は理由を付けて櫻くんを連れてこなければならない。だから、百貨店の修行から洋装店の助手に手伝うことになったと伝えるよ。もちろん、百貨店の人間からね。君の2号店は辻百貨店の群馬店で盛況じゃないか。だから、百貨店からということと、その給金を田中家に入れることを条件にアグリくんの家に丁稚奉公すること、学校に通うことを認めてもらおうと思ってね。」
「辻さんて本当悪知恵が働くのね。では、本当に仕事を覚えてもらうことを前提に櫻さんにはうちに住んでもらうわよ。」
「ああ、ありがとう。ただし、銀上女学校の生徒ということは伏せてもらいたいんだ。」
「ここの弟子はみんな口が硬いの。安心なさって。でも、女学校の生徒ってだけみんなには伝えるわ。」
「いやあ、本当にありがたい。君がいて良かったよ。」
「私、辻さんのそういう無茶なところ、みてみたかったのよ。だから、逆に新鮮だわ。」
「僕もね、実際のところ、こんなに混乱してる自分がわからないよ。」
「年下の私がみても可愛く見えるんだから、恋人の櫻さんからしたら、辻さんにベタなのかもしれませんね。」
「おちょくらないでくれ。。。ハハハハハハハハハ。いやはや、本当に助かった。いつから連れてきていい?」
「うちはいつでも大丈夫ですよ。」
「ではアグリくん、二、三日うちに。」
「了解いたしました。」
二人はニコッと笑った。
そして、ひらりと辻は帰って行った。
アグリの弟子たちも辻を見て、騒いでいたが、そんな辻の心の中は櫻でいっぱいなのであった。
先ほど、櫻を田中家に送った辻は帰り道に望月家に寄った。夜7時はまわっている。
「早くお話ししたい用事でね。望月はいるかい?」
「ごめんなさい。あいにくあの人、今日は弟の勇蔵さんと飲みに行くっておりませんの。」
「ああ、勇蔵くんは東工大の学生だったね。実家の土建屋のために設計を学ぶ予定が違う夢ができたとか。」
「そうなの。でも、こうやって私が東京に出てきてしまっているから、困ったなあって言いながら、ヨウスケさん、どうにかなるよなんてね。」
「それは同意だよ。世襲制なんて旧態依然な法律だよ。親のエゴだね。そう、立ち話もなんだから家に入れてくれないか?」
「私ですむお話しですの?」
「オフコース。もちろんですよ。では失敬。」
さっとズカズカ上がり込むのは辻の常套であるが、アグリはまたこの人はと急いで
「しずかさん、来客室に辻さんが来ているので、お茶をお願い。」
と弟子に指示をした。
辻とアグリで来客室で話をし始めた。
「さてさて、今日は君にちょいとお願いがありましてね。」
「私わかりますよ。櫻さんのことでしょう?」
「ご名答!流石はアグリ嬢!少し困ったことがおきましてね。夏休みに櫻さんを奪われそうなんですよ、実家に。」
「ご実家に帰るだけならいいんじゃないですの?」
「いやはや、櫻くんはねある男の許嫁なんだよ。もう結納もすませてある。だから帰ってしまったらもう、結婚する運命なんだ。」
「私のようね。」
「君は望月くんという自由な風船と出会えたから良かったじゃないか。」
「自由な風船ね。そうね。そのおかげでは私も自由だし。でも、結婚してしまったら、あなた方の自由恋愛が終わってしまうわね。」
「そこでお願いがあるんだ。近日中にでも学校が夏休みに入る前、なるべく早く、君の家に櫻くんを置いて欲しいんだ。」
「まあ、突然だこと!もう、櫻さんにはいってあるの?」
「アグリくんがノウとは言わないのはわかっているからね。」
「私も辻さんには借りがあるからしょうがないわ。でも、うちでおくだけで良いの?」
「田中家の手前、僕は理由を付けて櫻くんを連れてこなければならない。だから、百貨店の修行から洋装店の助手に手伝うことになったと伝えるよ。もちろん、百貨店の人間からね。君の2号店は辻百貨店の群馬店で盛況じゃないか。だから、百貨店からということと、その給金を田中家に入れることを条件にアグリくんの家に丁稚奉公すること、学校に通うことを認めてもらおうと思ってね。」
「辻さんて本当悪知恵が働くのね。では、本当に仕事を覚えてもらうことを前提に櫻さんにはうちに住んでもらうわよ。」
「ああ、ありがとう。ただし、銀上女学校の生徒ということは伏せてもらいたいんだ。」
「ここの弟子はみんな口が硬いの。安心なさって。でも、女学校の生徒ってだけみんなには伝えるわ。」
「いやあ、本当にありがたい。君がいて良かったよ。」
「私、辻さんのそういう無茶なところ、みてみたかったのよ。だから、逆に新鮮だわ。」
「僕もね、実際のところ、こんなに混乱してる自分がわからないよ。」
「年下の私がみても可愛く見えるんだから、恋人の櫻さんからしたら、辻さんにベタなのかもしれませんね。」
「おちょくらないでくれ。。。ハハハハハハハハハ。いやはや、本当に助かった。いつから連れてきていい?」
「うちはいつでも大丈夫ですよ。」
「ではアグリくん、二、三日うちに。」
「了解いたしました。」
二人はニコッと笑った。
そして、ひらりと辻は帰って行った。
アグリの弟子たちも辻を見て、騒いでいたが、そんな辻の心の中は櫻でいっぱいなのであった。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる