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第二章 職業婦人見習い

12、夢のコース

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「あなたと絡繰の世の中に着いて話ができて、私も嬉しいですよ。」
櫻は出てきた魚の料理にちょっと戸惑っていた。
「いやはや、僕のペースに持って行きすぎた。」
辻は魚を食べやすい大きさに切り分けると、
「櫻さん、お皿を交換してください。」
「え?どのお皿ですか?」
「この魚料理が乗っているお皿ですよ。」
「でも、、、」
そうするとヒョイと櫻のお皿を持ち上げ、自分お皿を櫻の前に置いた。
「先生、こういうことってマナー違反じゃ?」
「食べやすいようにしてそれを介助してマナー違反にはなりませんよ。あと、左手でフォークを使うのも疲れたでしょう。右手で持って魚を召し上がってください。」
「でも、そんなことしたら、先生もはずかしくないですか?」
「マナーは食べやすく、見栄えも良くするものであって、それが難しいのであれば合わせる必要なんてないんですよ。」
そうは言っても、躊躇してしまう。

「さあ、僕も右手でフォークを持ちますよ。これであなただけではありませんよ。」
美味しそうに右手のフォークで魚を食べる辻。それをみて、恐る恐る櫻も辻と同じように、食べてみる。
「先生、こちらも本当に美味しいです。」
「素直に表現できるのは素晴らしい。蘊蓄をこねくり回す必要なんて必要ないんですよね。うまいものはうまい。」

もぐもぐと食べる辻。
「ああ、先ほどの話が途中でしたね。櫻さんは絡繰の世の中がやってきたら、してみたいことはありますか?
「女性も男性と同じように働いて、家事も分担して、家事の一部は絡繰が行ってくれて、、でも育児も女中任せじゃなくて、世の中全体が育児を、教育を受けられるような世の中になって欲しいと思います。」
「そうですね。欧米では今階級の上の女性が多いですが、徐々にそうなりつつあるんですよ。カレッジに進む方もいるしね。」
「カレッジって?」
「ああ、日本で言うと大学ですね。今じゃ日本は男性にしか中学はなくて、女性は女学校に進むでしょう。もちろん、女学校に通える方も少しだ。だから、皆が平等に教育を受けられるようになったら、もっと日本は飛躍すると思うんですがね。」

ああ、先生は私と同じことを思っていた。その発言に感動した。
知らず知らずのうちに櫻は涙を流していた。


「おや、悲しませてしまいましたか?」
「いえ、先生が私と同じお考えだって言うことにうれしかったです。本心から。」
「では、これからは僕たち、自由恋愛の恋人でもあり、近代思想の同志でもありますね。」
「え?恋人!」
「随分前からそうだったじゃあありませんか。」
「私は、てっきり先生のおあそびの相手かと。」
「レッツスマイル。さあ、笑って。僕はあなたと出会って他の女性とはもうデエトすることもなくなりましたよ。」

櫻が安心したのか笑った。いや、微笑んだと言ってもいいかもしれない。
この人は、私をとても振り回す。でも、これも本当の幸せなのかもしれないと心底思う、メインディッシュであった。
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