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第一章 先生との出会い

14、望月とダダイズムと僕

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時は日中に遡る。

「辻くん、君、彼女をネタにダダを書いて見るのはどうかい?」
応接室で望月が聞いた。
「そうだねえ。彼女はダダイズムの最たるところに属する女性かもしれないね。」
しかし、少し辻の表情は解せない。
「でもねえ、望月くん、僕のダダイズムは自由の上にあって、作品に落とし込むことによって不自由になることが怖いんだね」

はてな?という表情で望月は辻を見つめる。今まで、プレイボーイできた辻がなぜ女学生に慎重になっているのか。

「まあ、僕も18で結婚させられて、嫁さんも上京して職業婦人になってしまったからね。彼女も女学生だった。」
そう、望月自身は親の言いつけで家に縛られるために嫁を取らされた。しかし、大学に行く、研究室にはいるなどと言って故郷の家族を後回しにしていた。結婚直後に生まれた我が子もあまり実感はない。
嫁のアグリは子供を置いて、東京に上京してきた。最初は望月自身を故郷に戻すために短期できた。
しかし、彼女は東京の街を出歩いている間に、職業婦人と交流を持ち、なんと自分の店を持つ洋服店の店主になってしまった。
女性の体を採寸して、ドレスや洋服を作る専門店。

若干、抜かれた、と思った。
しかし、僕は彼女の中にダダイズムを感じて、それを作品に落として発表した。

作品の評価は上上だった。女性を主人公にした自由な作風とも文壇で書かれた。
だからこそ、辻の教師に収まっている現状に自分と似たものを感じている。

「辻くん、君は江藤さんで、色々と成長するのだろうね。」
「望月くん、僕は、そんな高尚なこと考えてないよ。今は今を楽しむだけ。ダダになるかなんて、付属品のようなものだ」

望月がちょっと拗ねた顔をした。
「あと一ヶ月くらいで学校も夏休みになる。そうしたら、北へ行こうじゃないか。望月くんと文無し旅をするのが僕のライフワークかもしれないからね。」
「金で溢れてる辻財閥が呆れるね。坊ちゃんの趣味がルンペンなんてね。」
「だからこそ、今は教師という帽子をかぶっているじゃないか。この世で1番大事なのは自由だからね。」


「本当にいつも上をいかされるね。僕はのんびり旅館で女中と過ごす方が旅らしくて好きだよ。」
「望月くん、君はアグリくんに頭が上がらないから、他の女に目が行くんだよ。アグリくんが平凡な女性だったら、そんなに女性にこだわったかね?」

そう言われればそうだ。と望月は思った。辻は何もかも見抜いている。でも自分も自分の人生を謳歌したい。
「チェックメイト。もう君の手の中に僕はあるんだね、辻くん」
「いやいや、僕だって一人の人間だよ。現に江藤くんに夢中だ。今までになく、生きてる実感があるんだよ。」
「君たちにはもってこいの自由恋愛ときたもんたね」
「まだ彼女の本当の確認はとっていないけど、僕は彼女と新しい自由恋愛を築くつもりだよ。」

望月は大きく拍手をした。
「僕は傍観させていただこう。辻くんの新たな運命に」
「望月くんの新たな人生に」

二人は握手を交わした。単なる友情ではない。人生というライバルの宣言だ。
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