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第一章 先生との出会い

13、初めてのデエト

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その夜、女中仕事が終わった後、ランプをつけながら「青踏」を読みながら、櫻は集中できないでいた。
ぼんやりと思う。女性として生まれた喜びを仕事をしながら得られることができるのだろうかと。

あのまま秩父にいたら、辻のような人物と出会うこともなかっただろう。
(私は先生と自由恋愛したいのだろうか。。。。)

抱擁も接吻も何度もしてしまった。
でも、気持ち悪いという感情はなかった。

嬉しいという感情の世界の扉を開くのが怖いのだ。
先生は遊びをしたいだけかもしれない。でも、私にとってはこの女学校にいることは一生を決めること。
気軽に思っては欲しくない。

「ニャーオ、ニャーオ」

外の勝手口から猫の鳴き声がする。従姉妹の野枝は猫嫌いなのでこういう時はすぐに追い払わなくてはいけない。
女中部屋の他の女中に、猫を遠ざけることを告げ、羽織を羽織って外へでた。

勝手口を開けると、手を引かれた。
「え!」
「シ、静かに、、、」

目の前にいるのは辻である。


「先生、びっくりさせないでください。大変驚きました。なぜ、こちらにこんな危ない接触をするなんて」
「僕はね、いろんなところに忍び込むのが面白いのですよ。しかし、小さな声で話さないと田中家のみなさんを驚かせてしまうかもしれない。」
先生は私がこの家の女中扱いということも、学校の名簿で調べたのだろう。
「僕はね、逢引きという言葉が古臭くて嫌いでね。と言っても、密会でもない。数分ですが、デエトいたしませんか?」
「先生、私は女中なんです。どこかへ出かけるなんて無理です。」
「もちろん存じてますよ、僕だってバカじゃない。。っハハ。真剣に怒らないでください。」

辻といると全部辻のペースに持っていかれてしまう。
「この家の裏に誰も通らない道を見つけたんですよ。そちらへいきましょう」
櫻は右手を辻にひかれると小走りで、家の裏につく。
「これで邪魔がなくなった。あなたの時間を少々いただきますよ」
「先生、私イエスなんてまだ言ってません」
「ノウとも言っていないじゃないですか。それはイエスと同じです」
また、抱きしめたれた。今回の抱擁は優しく、赤子を抱きしめるように。
背の高い辻は屈む様に櫻を優しく体で包む。

心の底でこの時が続くことと無意識に祈っていた自分がいた。櫻はこの心地の良い時間を慈しんでいた。
「おや、もう抵抗することはないのですね。僕も嬉しいですよ」
小声で辻が囁くと、
「今までした接吻はフレンチキスというもので、フランスでは挨拶の一種です。僕は君と挨拶したいんじゃない。恋愛ですよ。恋愛の接吻をしてみましょう。」

辻の顔が桜に降りてくる。唇が触れるともっと濃厚な接触が始まった。
「センセ、う、だめ」
しかし、辻はその行動を止める事はない。

「あなたの唇は熟したさくらんぼのようですね。幼い時に母と行った山梨を思い出す。」

唇が話されると、辻は
「ではこれにて失礼。ご馳走様でした!」


(あれは、、、、口吸い、、、)

羽織をクルリと翻し、小走りに去った。
取り残され櫻は辻への気持ちが高まっていくことに抗えず、そこでしばらく佇んでいた。
触れられていた右手を唇に持っていく。とても熱かった。

女中部屋に帰ると遅かったことを咎められたが、櫻の耳には入ってこなかった。







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