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第一章 先生との出会い

11、肩に触れたその手

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学校へ行くのは、少し遅めで行こうと櫻は思った。
辻と一緒に登校でもしたら、それこそ平常心ではいられない自分が他の女学生に色目を使っていると判断されそうだったからだ。

銀座の街を2往復した。徐々に白んでいた空も晴れ晴れとして、シャッターを開ける店などもあった。店先を掃除する女性も何人も見かけた。

私はどんな職業がこの日本で女性にあるのかわからない。だからこそ、この銀座で色々知って学びたいと思った。
実際のところ、櫻は女中仕事が朝と夕方にあり、放課後に街を闊歩する事などできない。
今日だって、女中頭に全ての朝食を作ってあるので、出すことだけお願いしても、嫌味を言われた。

自分ひとりでやっていきたい。そう思っていた。
そこに現れた、教師である辻。

私は辻にどうして欲しいと言えるのだろうか。
いや、辻がどう言うつもりで自由恋愛などと言ってきたのか。
全くわからない事だらけで、でも、心の何処かで自分とは特別な存在であると誰かから認められたいと思っていた事に再度思わされた。

辻への想い。
まだ自分では判断できない。
でも、あの忌まわしい婚約者とは正反対だと思った。
結納の日、あちらの家の蔵に呼ばれた。相手はガキ大将気質なチビで体格のずんぐりした男だった。奉公先で時間さえあれば本を読んでいた櫻は男性の理想図をほんの中に求めていた。英国の本を読むと、紳士が事件を解決したり、スマートな大将が戦うこともあった。しかし、櫻の婚約者はそのいずれにも当てはまらなかった。
蔵の中に入ると、蝋燭の明かりが真ん中にポツンとあるだけで、相手の宗太郎1人が待っていた。
「もう、結納は終わったはずです。これ以上今日することはないでしょう」
櫻は暗闇の中で怖いながらも声を振り絞って言った。
「オメエ、なんか勘違いしてねえか?オメエみたいな小作の家から嫁にもらってくれることをもっとありがたく思え。ウチは早く子供が欲しいんだよ。オメエみたいな学校も通ってない奴が、本だ、外国語だなんて言うから、親父がその気になって、学のある嫁見つけてきたって張り切ってるんだよ。もう結納したんだから、今日は手始めに子作りすっか!」

宗太郎が近づく。櫻はサッと、蝋燭を倒した。
「オメエ、火事になるぞ!何すっと!」

宗太郎が羽織で火を消している間に櫻は外に出て逃げた。
すぐに母屋にいる母に体調不良を訴え、家に帰った。
その時、もう櫻は上京することに決めたのだ。野蛮な男とはもう関わらないと。。。


でも、辻は違う。
アプローチは強引であったが、自分がまるで英国小説の主人公になったかのような錯覚に陥った。

そう考えていたら、学校についていた。
今日は辻が入り口の挨拶当番らしく、女学生は色めき立っていた。

横切った時に小さく「おはようございます」と櫻はつぶやいた。
そうすると辻はすかさず桜の方を触り、立ちどまらせた。
「っ先生。。」
「江藤さん、肩に葉っぱがついておりましたので」
辻の右手の中には確かに葉っぱがある。緑色した新鮮な葉だ。

(どうして、、、)
小さい声で「ありがとうございます」と櫻は言うと、教室へ向かった。
触れられた肩がなぜかドキドキとして熱かった.
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