6 / 15
分岐点
しおりを挟む
「そうだよ。私もモモちゃんも1人暮らし。ちなみにモモちゃんは私の隣の部屋に住んでるんだよ」
そう話した二階堂は、今の桜木の表情が見えていない。ジトッとした目、笑顔だが口角をピクピクと動かしているその表情、不満や呆れが顔から駄々漏れていた。
「愛莉ぃー。あんまり人の個人情報をペラペラと話しちゃダメでしょぉ?」
赤ん坊を優しく諭すような物言いだが、どことなく圧を感じる。その言葉を聞いた二階堂も、桜木の真意に気がついたようだ。
先程までの笑顔は消え、口を半開きにしながら、その口を手で塞いだ。今更手で口を塞いだところで、放った言葉が戻ってくる事などあり得ない。二階堂にちょっと残念味を感じてくる。
「ご、ごめんね。つ、つい......」
「そうやってペラペラ喋っちゃうから、私は心配なんだよ」
「うぅ、返す言葉もありません」
「村瀬にVtuberしてる事がバレたからって、なんか安心してない?」
「隣にモモちゃんもいるし、村瀬君にはバレちゃってるし、気が緩んでました......」
二階堂は見た目に反して気が弱いのか全く反論せず、平謝りを繰り返しながら桜木の話を聞いている。そんな彼女は少し涙目だ。色々とお世話になっているのだろうか、二階堂は桜木に頭が上がらない様子だが、流石に二階堂が可哀想に見えてくる。
確かに人の個人情報を他人にペラペラと喋るのは良くない。相手が異性であれば尚更だろう。だが二階堂には何度も助け舟を出してもらった恩がある。彼女の援護射撃がなければ、俺は今頃桜木に脳天を撃ち抜かれ、そのまま死体蹴りの如くオーバーキルされていたに違いないのだ。
「あのー、桜木も二階堂も飲み物持ってこようか?さっきまでずっと探し物してたし、結構疲れただろ?お菓子とか甘いものもあるけど、どうする?」
2人の会話の途中で、無理やりに横槍を入れたせいか、桜木は目を細めながら不満そうにこちらを向いた。そして顎に手を当て何か考えている。その直後には、やれやれという雰囲気で腕を組み、俺と二階堂を見ながら言葉を発した。
「まぁ、言い過ぎたわ、ごめんね愛莉。そうね、喉渇いたし、何か飲み物欲しいわね。愛莉も喉渇いたでしょ?」
「う、うん、ありがとう」
「よし、じゃぁ今すぐ持ってくるから待っててな」
俺はそう言って部屋を出てリビングに向かった。自分の部屋に女子2人を残すのは何かソワソワむず痒く感じるが仕方がない。桜木の怒りも治ったようだし良かった良かった。
俺は家宅捜索という苦難を乗り越え、無事二階堂の叱責を軽く済ませられた事で気分が軽くなる。それにプラスして、どういう形であれ、自分の部屋に同級生の、それも異性を連れて来たことで多少ルンルン気分でいた。
「お兄ちゃん、なんかいつもと違って気持ち悪い」
そんな俺を妹の美憂は、呆れたようなジト目で眺めていた。
「おぉ? そんな事ないぞぉ。いつも通り、いつも通り」
俺はそう返しながら、飲み物を用意し、しょっぱい系のお菓子と、甘い系のアイスをお盆に乗せ自室に戻る。しょっぱい物と甘い物、どちらも用意するとは、家に友達を誘った事の少ない俺からしたら、結構レベルが高いだろう。気が利くと褒めてくれても良いんだぜ。
「ふーん、ポテチとアイスね。村瀬って中々気が利くのね。ありがとう、丁度暑かったからアイス食べたかったのよね」
桜木はそう言って持ってきたお盆からアイスを手に取り、美味しそうに食べ始めた。ま、まさか、桜木に褒められるなんて。桜木の裏の顔というか、本性を知った後だったから、まさかこいつに褒めてもらえるなんて思っていなかった。
桜木め、中々やりおる。飴と鞭を上手く使い分けてきやがる。何故か褒められて無茶苦茶嬉しかったぞ。クソォ、飼い慣らされてしまいそうだ。
「村瀬くん、アイスもらうね。ありがとう」
二階堂も家宅捜索で暑かったのか、火照った体を冷やすように、ペロペロと可愛らしくアイスを食べ始めたのだ。子ウサギのようで可愛らしい。
その後はアイスやお菓子をつまみながら、ゆったりとした時間が流れる。
「まさか村瀬くんにVtuberやってる事がバレちゃうなんて思っていなかったよ」
二階堂はまだアイスをゆったりと食べている。長い黒髪を耳にかけ、舐めるようにしてアイスを食べる様はかなり艶めかしい。しかし、ペロペロとアイスを食べる様は、子供のような可愛らしさも備えている。見た目は凛々しく品があって、美しいという言葉が似合う二階堂にしたら、かなりギャップのある食べ方だ。
「誰かに言いふらしでもしたら、承知しないからね」
そして桜木に釘を刺される。もし言いふらしたら、釘どころか、もっと恐ろしいもので刺される気しかしない。そんな彼女はとっくにアイスは食べ終わり、ポテチを摘んでいる。見た目はおっとりとしているのに、かなり食い意地が張っているなと思ったのは内緒である。
「当たり前だ。絶対に言わないよ」
言葉の通り、誰かに言いふらす気などさらさらない。ある訳がない。それは桜木の反感を買うのが恐ろしいという理由もある。だが大きな理由としては、単純にバラされたら二階堂が可哀想だろうという理由だ。
「なら良いんだけどね。てかそういえば、さっき本棚見た時に、動画編集とか、イラスト作成の参考書見つけたんだけど、結構得意なの?」
桜木はポテチをパリパリと食べ、油のついた指で本棚の方を指差した。その本棚には桜木の言うように、動画編集や、ソフトを使ったイラスト作成のための参考書が何冊か保管されている。
「得意という訳じゃないよ。昔勉強してたからそれなりには作れるけど」
中学の時、いわゆるmetuberに憧れていた俺は、動画編集やサムネ作りのための技術を少しだけ勉強した。そのお陰かそれなりの動画やイラストを作れるようにはなった。そして何本か動画を投稿したよ。総再生回数は8回。正直に言います、挫折しました。
「ふーん、そうなんだ。ならさ、基礎だけでも良いから教えて欲しいんだけど」
「あっと、あの、私も、教えて欲しいです」
桜木が教えて欲しいと話せば、二階堂は可愛らしくピョコンと右手を上げ、自分も混ぜて欲しいと言い出した。基礎だけであれば教える事もできるだろうが、いきなりの展開ですぐに答えが出ない。
「結構困ってるのよね。村瀬、頼む」
「お願いします」
桜木はそう言って手をパンッと合わせてお願いしてくる。二階堂は軽くペコリとお辞儀をして、同じようにお願いしてくる。別に断る理由はない。それに困っているのなら助けてあげたい。
「良いけど、あんまり期待するなよ」
俺の言葉に、2人は顔を合わせて喜んでいる。
こうして俺は、高校生活を左右する大きな選択を、こんなにも簡単に決定してしまったのであった。
そう話した二階堂は、今の桜木の表情が見えていない。ジトッとした目、笑顔だが口角をピクピクと動かしているその表情、不満や呆れが顔から駄々漏れていた。
「愛莉ぃー。あんまり人の個人情報をペラペラと話しちゃダメでしょぉ?」
赤ん坊を優しく諭すような物言いだが、どことなく圧を感じる。その言葉を聞いた二階堂も、桜木の真意に気がついたようだ。
先程までの笑顔は消え、口を半開きにしながら、その口を手で塞いだ。今更手で口を塞いだところで、放った言葉が戻ってくる事などあり得ない。二階堂にちょっと残念味を感じてくる。
「ご、ごめんね。つ、つい......」
「そうやってペラペラ喋っちゃうから、私は心配なんだよ」
「うぅ、返す言葉もありません」
「村瀬にVtuberしてる事がバレたからって、なんか安心してない?」
「隣にモモちゃんもいるし、村瀬君にはバレちゃってるし、気が緩んでました......」
二階堂は見た目に反して気が弱いのか全く反論せず、平謝りを繰り返しながら桜木の話を聞いている。そんな彼女は少し涙目だ。色々とお世話になっているのだろうか、二階堂は桜木に頭が上がらない様子だが、流石に二階堂が可哀想に見えてくる。
確かに人の個人情報を他人にペラペラと喋るのは良くない。相手が異性であれば尚更だろう。だが二階堂には何度も助け舟を出してもらった恩がある。彼女の援護射撃がなければ、俺は今頃桜木に脳天を撃ち抜かれ、そのまま死体蹴りの如くオーバーキルされていたに違いないのだ。
「あのー、桜木も二階堂も飲み物持ってこようか?さっきまでずっと探し物してたし、結構疲れただろ?お菓子とか甘いものもあるけど、どうする?」
2人の会話の途中で、無理やりに横槍を入れたせいか、桜木は目を細めながら不満そうにこちらを向いた。そして顎に手を当て何か考えている。その直後には、やれやれという雰囲気で腕を組み、俺と二階堂を見ながら言葉を発した。
「まぁ、言い過ぎたわ、ごめんね愛莉。そうね、喉渇いたし、何か飲み物欲しいわね。愛莉も喉渇いたでしょ?」
「う、うん、ありがとう」
「よし、じゃぁ今すぐ持ってくるから待っててな」
俺はそう言って部屋を出てリビングに向かった。自分の部屋に女子2人を残すのは何かソワソワむず痒く感じるが仕方がない。桜木の怒りも治ったようだし良かった良かった。
俺は家宅捜索という苦難を乗り越え、無事二階堂の叱責を軽く済ませられた事で気分が軽くなる。それにプラスして、どういう形であれ、自分の部屋に同級生の、それも異性を連れて来たことで多少ルンルン気分でいた。
「お兄ちゃん、なんかいつもと違って気持ち悪い」
そんな俺を妹の美憂は、呆れたようなジト目で眺めていた。
「おぉ? そんな事ないぞぉ。いつも通り、いつも通り」
俺はそう返しながら、飲み物を用意し、しょっぱい系のお菓子と、甘い系のアイスをお盆に乗せ自室に戻る。しょっぱい物と甘い物、どちらも用意するとは、家に友達を誘った事の少ない俺からしたら、結構レベルが高いだろう。気が利くと褒めてくれても良いんだぜ。
「ふーん、ポテチとアイスね。村瀬って中々気が利くのね。ありがとう、丁度暑かったからアイス食べたかったのよね」
桜木はそう言って持ってきたお盆からアイスを手に取り、美味しそうに食べ始めた。ま、まさか、桜木に褒められるなんて。桜木の裏の顔というか、本性を知った後だったから、まさかこいつに褒めてもらえるなんて思っていなかった。
桜木め、中々やりおる。飴と鞭を上手く使い分けてきやがる。何故か褒められて無茶苦茶嬉しかったぞ。クソォ、飼い慣らされてしまいそうだ。
「村瀬くん、アイスもらうね。ありがとう」
二階堂も家宅捜索で暑かったのか、火照った体を冷やすように、ペロペロと可愛らしくアイスを食べ始めたのだ。子ウサギのようで可愛らしい。
その後はアイスやお菓子をつまみながら、ゆったりとした時間が流れる。
「まさか村瀬くんにVtuberやってる事がバレちゃうなんて思っていなかったよ」
二階堂はまだアイスをゆったりと食べている。長い黒髪を耳にかけ、舐めるようにしてアイスを食べる様はかなり艶めかしい。しかし、ペロペロとアイスを食べる様は、子供のような可愛らしさも備えている。見た目は凛々しく品があって、美しいという言葉が似合う二階堂にしたら、かなりギャップのある食べ方だ。
「誰かに言いふらしでもしたら、承知しないからね」
そして桜木に釘を刺される。もし言いふらしたら、釘どころか、もっと恐ろしいもので刺される気しかしない。そんな彼女はとっくにアイスは食べ終わり、ポテチを摘んでいる。見た目はおっとりとしているのに、かなり食い意地が張っているなと思ったのは内緒である。
「当たり前だ。絶対に言わないよ」
言葉の通り、誰かに言いふらす気などさらさらない。ある訳がない。それは桜木の反感を買うのが恐ろしいという理由もある。だが大きな理由としては、単純にバラされたら二階堂が可哀想だろうという理由だ。
「なら良いんだけどね。てかそういえば、さっき本棚見た時に、動画編集とか、イラスト作成の参考書見つけたんだけど、結構得意なの?」
桜木はポテチをパリパリと食べ、油のついた指で本棚の方を指差した。その本棚には桜木の言うように、動画編集や、ソフトを使ったイラスト作成のための参考書が何冊か保管されている。
「得意という訳じゃないよ。昔勉強してたからそれなりには作れるけど」
中学の時、いわゆるmetuberに憧れていた俺は、動画編集やサムネ作りのための技術を少しだけ勉強した。そのお陰かそれなりの動画やイラストを作れるようにはなった。そして何本か動画を投稿したよ。総再生回数は8回。正直に言います、挫折しました。
「ふーん、そうなんだ。ならさ、基礎だけでも良いから教えて欲しいんだけど」
「あっと、あの、私も、教えて欲しいです」
桜木が教えて欲しいと話せば、二階堂は可愛らしくピョコンと右手を上げ、自分も混ぜて欲しいと言い出した。基礎だけであれば教える事もできるだろうが、いきなりの展開ですぐに答えが出ない。
「結構困ってるのよね。村瀬、頼む」
「お願いします」
桜木はそう言って手をパンッと合わせてお願いしてくる。二階堂は軽くペコリとお辞儀をして、同じようにお願いしてくる。別に断る理由はない。それに困っているのなら助けてあげたい。
「良いけど、あんまり期待するなよ」
俺の言葉に、2人は顔を合わせて喜んでいる。
こうして俺は、高校生活を左右する大きな選択を、こんなにも簡単に決定してしまったのであった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。
猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。
『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』
一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
好きだった幼馴染に出会ったらイケメンドクターだった!?
すず。
恋愛
体調を崩してしまった私
社会人 26歳 佐藤鈴音(すずね)
診察室にいた医師は2つ年上の
幼馴染だった!?
診察室に居た医師(鈴音と幼馴染)
内科医 28歳 桐生慶太(けいた)
※お話に出てくるものは全て空想です
現実世界とは何も関係ないです
※治療法、病気知識ほぼなく書かせて頂きます
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる