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隣人トラブル
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隣人間の騒音問題、これは死活問題だ。
一回その音を気になってしまうと、どうしても集中力がそちらに逸れてしまう。
俺は今、小説を真剣に読んでいるのだ。小説といってもラノベだが、今は大切なシーン。旅行回でヒロインと主人公が間違って混浴風呂に入ってしまうという、最高の名シーンなのだ。妄想しながら小説を楽しみたいというのに、騒音のせいで集中力が途切れてしまう。
確かに俺は敏感になりすぎてると思う。一緒の家に住む家族や、同じ二階に部屋を持つ妹は聞こえてすらこないらしいのだ。確かに音自体は小さい。それでも一回気になって、うるさいと感じてしまうと、どうしても意識がそちらに逸れてしまうのだ。
騒音の正体は女性の話し声。誰と喋っているのだろうか、1人の声しか聞こえてこない事から、通話でもしているのだろう。
この微かな女性の声は、隣に建つアパートから聞こえてくる。聞こえ始めたのは約2か月前。最初は今よりも静かで、女性の声だったから、少しだけワクワクしたものだ。それでも徐々に音量は増し、流石にイライラの方が勝ってきた。
いつもは微かに聞こえてくるだけなので、話の内容までは聞き取れなかった。しかし、今日は特にうるさい。普通にベットで横になっているだけなのに、なんとなく話の内容まで聞こえてくる。
「うわああ─────この敵────負けた──ありがとう────」
敵?負けた?何かゲームでもしているのだろうか。
内容まで聞こえてくるとなると、気になってしまうのが人の性。他人の話し声、それも相手は女性だ。聞き耳を立てるなんて失礼かもしれないが、うるさいのだから仕方ない。俺は罪悪感を感じながらも音のする壁側に耳を当て、耳を済ませる。すると微かにだが、話の内容がしっかりと聞こえてきた。
「あっ、ミートスパゲッティさん、500円のスーパーチャットありがとう。ノア嬉しいよー。いつもありがとねー」
ミートスパゲッティさん?、どこの国の人だよ。
俺はイタリア料理が名前の人物に思わず吹き出しそうになりながらも、静かに声を聞き続ける。
「うわ、織田信長さんも1000円のスーパーチャットありがとう。今日もウサギモアちゃんは可愛いなーって、そんな褒められると、モア恥ずかしいよー」
織田信長さん?、戦国武将まで現れちゃったよ。
てか、スーパーチャットって知ってるぞ。大手配信サイトの「metube」の、いわゆるスパチャって呼ばれる機能の事だ。配信者に視聴者が、投げ銭するやつ。
という事はもしかして、隣人は配信者という奴なのだろう。
それにウサギノア?キラキラネームどころの話じゃない。もちろん知人でそんな名前の人物はいない。だが、どこかで聞いた事のあるような響きだ。
俺は脳みその奥の奥にある記憶を引っ張り出そうと唸ってみるが、いまいち思い出せない。流石にスマホで調べてみても出てこないだろうと思いながらも、metubeで名前を検索してみる。
そうすることで聞き覚えのあった理由を思いだしたのだ。それはオタク仲間の中谷という友達が、最近ハマっていると言っていた配信者の名前だった。その配信者は「Vtuber」と呼ばれており、アニメのキャラクターのような見た目をしているのだ。
「兎木ノア?って、登録者数4万!?結構人気じゃんか」
俺はスマホに表示された彼女のチャンネルを見て驚愕する。登録者数なんてどうせ30人くらいだろうと思っていたのに、まさかこんなに多いとは。それにオタク友達の中にもファンがいるくらいには有名だなんて、現実味がまるでない。
俺の心臓は興奮したようにドキドキと高鳴る。先程まで読んでいた小説も、今はベットの端に放置されている。
普通に通話か何かしてるだけだったのなら、インターホンを鳴らして注意しに行く事もできただろう。しかし、相手が配信者となれば、注意しに行くのに少し躊躇いがでる。
俺はこの騒音に悩ませられ続けるべきなのか、それとも一回だけでも注意しておくべきなのかと、苦しい二択を迫られる。
どうしたものかと、悩ましげにベットに横になる。すると俺は目覚まし時計を下敷きにしてしまったようで、背中に鋭い痛みが走った。どこまでもついていないなと、ため息を吐きながら目覚まし時計を取り出した。
「あっ、やべ」
俺はどこまでも運が無いようだ。今の時間は深夜の1時。小説に夢中になり時間をすっかり忘れていた。このままでは明日の高校に遅刻する可能性がある。
今度は違う意味で高鳴る心臓に急かされながら、小説を本棚に戻し、目覚まし時計を設定する。そのまま流れるように布団を被り、就寝の態勢に入る。
「やった────勝ったぁ────みんなスーパーチャット────嬉しぃ──」
微かに聞こえる隣人の声。
早く寝なければと焦る俺には大きすぎる騒音だ。俺は布団を強く抱き寄せ、片耳を枕に押し付ける。少しでも音を遮断しようと躍起になるが、あまり意味を為さない。
「ありがとぉ────ミートスパゲッティーさん──」
ミートスパゲッティさんって誰なんだよ。俺のイライラは段々と強くなる。気になれば気になる程に気になってしまう。辛すぎる悪循環。
それでも俺は必死に眠ろうと目を瞑る。いつもなら気づいたら朝になっているというのに、こういう時に限って目が冴える。
そんな焦りと怒りの中、かなりの時間が経った。俺は苛立たしげに強めに目覚まし時計のボタンを叩いた。時計に明かりがつけば、時刻はもう3時になろうとしていた。
「うお──つよぉい────」
頼むから黙ってくれ。会話の節々が微かに聞こえてくるのが、逆にうるさい。
俺は我慢の限界だった。布団を蹴飛ばし、深夜だというのにドタドタと足音を立てながら家を飛び出した。隣の奴が配信者だか何だか知らんし関係ない。流石にうるさすぎる。
寝癖やパジャマ姿の事など気にもとめず、隣のアパートの前に立つ。俺の部屋の真横にあたる、二階の端の部屋、あれが犯人の部屋だろう。今もあの部屋だけが、薄らと灯りがついている。
俺はターゲットを見定め、アパートの二階に上がる。そのままの勢いで廊下を早足で進み、犯人の部屋の前に立った。
不思議とここに来ると女性の声は聞こえない。それでも一言だけでも言ってやろうとインターホンを鳴らした。
だが反応はない。無視してるのは分かりきっているので再度インターホンを鳴らす。
すると流石に諦めたようで、ドアの向こうから足音が聞こえてきた。そして、先程まで隣から聞こえていたようなキャピキャピ声とはうって代わり、落ち着いたような女性の声が聞こえてきた。
「あの、こんな時間に何でしょうか?」
流石に深夜に男性が部屋の前にいるのだから怖いのだろう。ドアは開けず、どこか不安そうにそう尋ねられた。
「隣の家の村瀬ですが。こんな深夜に流石にうるさすぎます。もう少し静かにしてもらえますか」
彼女の不安そうな声色で、少し怒りが落ち着いた俺は、冷静に静かな声でそう言った。すると、彼女も心当たりがあったのか、謝罪の言葉とともにドアを開いたのだ。
「す、すいませんでした。以後気を付けます」
ドアのチェーンはしっかりとかけられているが、まさかドアが開けられると思っていなかった。ドアの隙間からは女性の顔が見える。綺麗な黒い長髪は腰程まで長く、青みがかった黒い瞳は宝石のように綺麗で、一瞬目が合っただけでもドキッと胸が波打つ。
先程までの怒りなど消え失せ、その美貌と、見た事のある容姿に動揺し、思わず口から言葉が出る。
「あれ、もしかして二階堂さん?」
俺が思わず口に出してしまった名前、それは俺の学校で1、2を争う人気を誇る、マドンナ的な女子生徒の名前。
「えっと、そうですけど」
俺は隣人が二階堂だったなんて露ほども知らず、驚きで言葉が詰まる。彼女は俺の事を知らなかったようで、不思議そうな顔をしているが、俺は驚愕で言葉が出ない。こんなの学校の生徒なら誰もが羨むシュチュエーションだろう。
だが今の俺はパジャマ姿で、髪はボサボサ。自分の姿を思い出し、無性に恥ずかしくなる。すぐにでもこの場から立ち去りたいが、上手く言葉が繋がらない。
それでも俺は頭を真っ白くさせながらも、必死に言葉を発した。
「と、とりあえず兎木さん、深夜は流石に声を抑えて下さい。そっ、それじゃ」
「え!? あの!? ちょっと!!」
深夜だというのに、二階堂は驚いた声色で俺を静止させようと声をかけてくる。しかし俺は恥ずかしさもあり、聞こえないフリをして逃げるようにその場から立ち去った。
そんな俺は、隣人の二階堂の事を、兎木と呼び間違えてしまった事など、気づいてすらいなかったのである。
一回その音を気になってしまうと、どうしても集中力がそちらに逸れてしまう。
俺は今、小説を真剣に読んでいるのだ。小説といってもラノベだが、今は大切なシーン。旅行回でヒロインと主人公が間違って混浴風呂に入ってしまうという、最高の名シーンなのだ。妄想しながら小説を楽しみたいというのに、騒音のせいで集中力が途切れてしまう。
確かに俺は敏感になりすぎてると思う。一緒の家に住む家族や、同じ二階に部屋を持つ妹は聞こえてすらこないらしいのだ。確かに音自体は小さい。それでも一回気になって、うるさいと感じてしまうと、どうしても意識がそちらに逸れてしまうのだ。
騒音の正体は女性の話し声。誰と喋っているのだろうか、1人の声しか聞こえてこない事から、通話でもしているのだろう。
この微かな女性の声は、隣に建つアパートから聞こえてくる。聞こえ始めたのは約2か月前。最初は今よりも静かで、女性の声だったから、少しだけワクワクしたものだ。それでも徐々に音量は増し、流石にイライラの方が勝ってきた。
いつもは微かに聞こえてくるだけなので、話の内容までは聞き取れなかった。しかし、今日は特にうるさい。普通にベットで横になっているだけなのに、なんとなく話の内容まで聞こえてくる。
「うわああ─────この敵────負けた──ありがとう────」
敵?負けた?何かゲームでもしているのだろうか。
内容まで聞こえてくるとなると、気になってしまうのが人の性。他人の話し声、それも相手は女性だ。聞き耳を立てるなんて失礼かもしれないが、うるさいのだから仕方ない。俺は罪悪感を感じながらも音のする壁側に耳を当て、耳を済ませる。すると微かにだが、話の内容がしっかりと聞こえてきた。
「あっ、ミートスパゲッティさん、500円のスーパーチャットありがとう。ノア嬉しいよー。いつもありがとねー」
ミートスパゲッティさん?、どこの国の人だよ。
俺はイタリア料理が名前の人物に思わず吹き出しそうになりながらも、静かに声を聞き続ける。
「うわ、織田信長さんも1000円のスーパーチャットありがとう。今日もウサギモアちゃんは可愛いなーって、そんな褒められると、モア恥ずかしいよー」
織田信長さん?、戦国武将まで現れちゃったよ。
てか、スーパーチャットって知ってるぞ。大手配信サイトの「metube」の、いわゆるスパチャって呼ばれる機能の事だ。配信者に視聴者が、投げ銭するやつ。
という事はもしかして、隣人は配信者という奴なのだろう。
それにウサギノア?キラキラネームどころの話じゃない。もちろん知人でそんな名前の人物はいない。だが、どこかで聞いた事のあるような響きだ。
俺は脳みその奥の奥にある記憶を引っ張り出そうと唸ってみるが、いまいち思い出せない。流石にスマホで調べてみても出てこないだろうと思いながらも、metubeで名前を検索してみる。
そうすることで聞き覚えのあった理由を思いだしたのだ。それはオタク仲間の中谷という友達が、最近ハマっていると言っていた配信者の名前だった。その配信者は「Vtuber」と呼ばれており、アニメのキャラクターのような見た目をしているのだ。
「兎木ノア?って、登録者数4万!?結構人気じゃんか」
俺はスマホに表示された彼女のチャンネルを見て驚愕する。登録者数なんてどうせ30人くらいだろうと思っていたのに、まさかこんなに多いとは。それにオタク友達の中にもファンがいるくらいには有名だなんて、現実味がまるでない。
俺の心臓は興奮したようにドキドキと高鳴る。先程まで読んでいた小説も、今はベットの端に放置されている。
普通に通話か何かしてるだけだったのなら、インターホンを鳴らして注意しに行く事もできただろう。しかし、相手が配信者となれば、注意しに行くのに少し躊躇いがでる。
俺はこの騒音に悩ませられ続けるべきなのか、それとも一回だけでも注意しておくべきなのかと、苦しい二択を迫られる。
どうしたものかと、悩ましげにベットに横になる。すると俺は目覚まし時計を下敷きにしてしまったようで、背中に鋭い痛みが走った。どこまでもついていないなと、ため息を吐きながら目覚まし時計を取り出した。
「あっ、やべ」
俺はどこまでも運が無いようだ。今の時間は深夜の1時。小説に夢中になり時間をすっかり忘れていた。このままでは明日の高校に遅刻する可能性がある。
今度は違う意味で高鳴る心臓に急かされながら、小説を本棚に戻し、目覚まし時計を設定する。そのまま流れるように布団を被り、就寝の態勢に入る。
「やった────勝ったぁ────みんなスーパーチャット────嬉しぃ──」
微かに聞こえる隣人の声。
早く寝なければと焦る俺には大きすぎる騒音だ。俺は布団を強く抱き寄せ、片耳を枕に押し付ける。少しでも音を遮断しようと躍起になるが、あまり意味を為さない。
「ありがとぉ────ミートスパゲッティーさん──」
ミートスパゲッティさんって誰なんだよ。俺のイライラは段々と強くなる。気になれば気になる程に気になってしまう。辛すぎる悪循環。
それでも俺は必死に眠ろうと目を瞑る。いつもなら気づいたら朝になっているというのに、こういう時に限って目が冴える。
そんな焦りと怒りの中、かなりの時間が経った。俺は苛立たしげに強めに目覚まし時計のボタンを叩いた。時計に明かりがつけば、時刻はもう3時になろうとしていた。
「うお──つよぉい────」
頼むから黙ってくれ。会話の節々が微かに聞こえてくるのが、逆にうるさい。
俺は我慢の限界だった。布団を蹴飛ばし、深夜だというのにドタドタと足音を立てながら家を飛び出した。隣の奴が配信者だか何だか知らんし関係ない。流石にうるさすぎる。
寝癖やパジャマ姿の事など気にもとめず、隣のアパートの前に立つ。俺の部屋の真横にあたる、二階の端の部屋、あれが犯人の部屋だろう。今もあの部屋だけが、薄らと灯りがついている。
俺はターゲットを見定め、アパートの二階に上がる。そのままの勢いで廊下を早足で進み、犯人の部屋の前に立った。
不思議とここに来ると女性の声は聞こえない。それでも一言だけでも言ってやろうとインターホンを鳴らした。
だが反応はない。無視してるのは分かりきっているので再度インターホンを鳴らす。
すると流石に諦めたようで、ドアの向こうから足音が聞こえてきた。そして、先程まで隣から聞こえていたようなキャピキャピ声とはうって代わり、落ち着いたような女性の声が聞こえてきた。
「あの、こんな時間に何でしょうか?」
流石に深夜に男性が部屋の前にいるのだから怖いのだろう。ドアは開けず、どこか不安そうにそう尋ねられた。
「隣の家の村瀬ですが。こんな深夜に流石にうるさすぎます。もう少し静かにしてもらえますか」
彼女の不安そうな声色で、少し怒りが落ち着いた俺は、冷静に静かな声でそう言った。すると、彼女も心当たりがあったのか、謝罪の言葉とともにドアを開いたのだ。
「す、すいませんでした。以後気を付けます」
ドアのチェーンはしっかりとかけられているが、まさかドアが開けられると思っていなかった。ドアの隙間からは女性の顔が見える。綺麗な黒い長髪は腰程まで長く、青みがかった黒い瞳は宝石のように綺麗で、一瞬目が合っただけでもドキッと胸が波打つ。
先程までの怒りなど消え失せ、その美貌と、見た事のある容姿に動揺し、思わず口から言葉が出る。
「あれ、もしかして二階堂さん?」
俺が思わず口に出してしまった名前、それは俺の学校で1、2を争う人気を誇る、マドンナ的な女子生徒の名前。
「えっと、そうですけど」
俺は隣人が二階堂だったなんて露ほども知らず、驚きで言葉が詰まる。彼女は俺の事を知らなかったようで、不思議そうな顔をしているが、俺は驚愕で言葉が出ない。こんなの学校の生徒なら誰もが羨むシュチュエーションだろう。
だが今の俺はパジャマ姿で、髪はボサボサ。自分の姿を思い出し、無性に恥ずかしくなる。すぐにでもこの場から立ち去りたいが、上手く言葉が繋がらない。
それでも俺は頭を真っ白くさせながらも、必死に言葉を発した。
「と、とりあえず兎木さん、深夜は流石に声を抑えて下さい。そっ、それじゃ」
「え!? あの!? ちょっと!!」
深夜だというのに、二階堂は驚いた声色で俺を静止させようと声をかけてくる。しかし俺は恥ずかしさもあり、聞こえないフリをして逃げるようにその場から立ち去った。
そんな俺は、隣人の二階堂の事を、兎木と呼び間違えてしまった事など、気づいてすらいなかったのである。
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