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第3話

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俺達はレイリアがお小遣いとして貰った小銭を持って受付へと向かった。

受付のお姉さんで、初めレイリアの怒りを買ってしまったマリアさんという女性の所へ再び向かう。

「すいません、改めて冒険者登録しようと思うんですけど、大丈夫ですか?」

「もちろん大丈夫ですよ。先程も申し上げました通り、お2人分で2000エリュオとなりますが、よろしいですか?」

営業スマイルでそう言ったマリアさんだが、やはり俺達の事を覚えてくれていたようだ。

まぁ、後ろにいる駄女神のせいで第一印象が悪いのは決まりきっている事だが、覚えてもらえた事は嬉しい。

「もちろん大丈夫ですよ。よいしょっと、2000エリュオですね。えっと、、、」

俺は小銭だらけで嵩張る皮袋を開き、中から小さい銅貨を取り出しトレーの上に乗せていく。

1枚、2枚、3枚、4枚、、、、、、

うん、これ絶対店員からしたらウザいやつだ。

俺もバイトの経験があるので分かる。

今の俺の姿は、3000円くらいのお会計を100円玉とか10円玉だけ済まそうとする面倒な客のそれだ。幾らあるのか数えるのが面倒いは、時間はかかるは、ダメとは言えないだけに非常にダルいあれなのだ。

だいたいだが、この世界の2000エリュオは日本でいう2000円くらいなものだ。

その2000エリュオを、100エリュオ銅貨や10エリュオ小銅貨で払うなんて、俺は絶対面倒な客に違いない。

「おい慶斗、何をぐずぐずしておるのじゃ。こやつも面倒くさそうな目でお主を見ておるぞ。」

俺はその一言にハッと顔を上げるが、そこにいたのは和かな笑顔を見せるマリアさんだった。

俺は少し安心したものの、確実に営業スマイルである事は間違いないだろう。

そう思って下を向き直し、また袋から小銭を取り出していく、、、、と見せかけてハッと前を向く。

ん、今ちょっとマリアさんの目が死んだ魚のような、いやどこか俺を見下すような目をしていたのは気のせいだろうか。

「ふふふ、大丈夫ですよ。小銭が多いからって面倒だなんて思ってませんよ。もし混んでいる時だったらぶん殴ってやるところだったよ、なんて思ってませんからね。」

本音と建前が逆になっておりませんかね、マリアさん。

それこそ聖母様のような笑顔なのに、目がどこか笑っていない気がしますよ。

俺は垣間見えたマリアさんの本性に、若干の焦りを感じながらようやく小銭を出し終えた。

そうして小銭で山盛りになったトレーを持ったマリアさんは、「少女お待ち下さい」という一言とともに裏へ下がっていった。

「お主、なぜあんな小銭ばかりで払ったのじゃ?」

レイリアはそう言いながらお土産としてもらった串焼きを美味しそうに食べている。

袋の中に小銭しか入っていなかったのは、確実にレイリアの容姿のせいだろう。こんな小学生みたいな子供からお金が欲しいだなんて言われても、駄菓子かおもちゃを買うくらいにしか思わなかっただろうからだ。

俺も昔、田舎の祖父母の家に遊びに行った時、祖父母から親戚まで、はたまた近所の人にまで、「ほら、おばちゃんが50円あげるからお菓子でも買っておいで。」やら「ほれ、100円で駄菓子でも買ってきな。」など、1日、2日でお小遣いとして合計1000円近く貰った事があった。

さっきの冒険者からすれば、そんな親戚の子供を可愛がる感じで、みんながみんなお小遣いだってレイリアに小銅貨や銅貨をあげていったのだろう。

まぁ、レイリアのおかげで無事に冒険者になれるのだし、この事は黙っておいてやろう。というか、あいつが昨日節約すればこんな事にはなってなかったのだがな。

「ま、まぁ、良いじゃないか払えたんだし。てか、レイリアばかり飯食ってずるいぞ。俺だってどこかの誰かのせいで朝飯食べれなかったんだから、後でその串焼き食わせてくれよ。1本くらい良いだろ?」

「えーー、まぁ、これからクエストを受ける事じゃし、1本くらいならば恵んでやっても良いか。」

俺は今すぐにでも串焼きにかぶりつきたいが、とりあえず冒険者登録を済ませてしまわないといけない。

そんな話をしていると、2枚の金属製の、名刺サイズの薄い板が乗ったトレーを持って、マリアさんが戻ってきた。

「こちらが冒険者カードになります。こちらに登録していただくと、お2人それぞれのレベルやスキル、能力を確認できるようになります。また、クエストの報酬は手渡しか、こちらの冒険者カードに送金する事もできますので、無くさずにお待ち下さいね。」

中々に便利なカードのようだ。

レベルやスキルが見れて、かつお金も貯めて持ち歩けるとか、それこそスイカみたいな電子カードみたいだ。

「ではお2人とも、こちらのカードにそれぞれ触れていただいてよろしいですか?触れる事で登録完了となります。」

おぉ、これに登録する事で俺の能力やスキルを見れるのか。まさか、ここまでゲーム的というか、絵に書いたような異世界って感じにワクワクがとまらない。

レベルは1とかそこら辺だろうが、俺は勇者だ。

魔王を倒す倒さない関係なく、やはり勇者特有のユニークで特別なスキルがあるのではと期待せずにはいられない。

俺はそんな興奮をしみじみと感じていたのだが、レイリアは特に興味もなさそうに、ポンッと軽くカードに触れた。

「はははは、我は女神じゃぞ。まぁ、こちらの世界に来るにあたって、多少なり力は抑制されてはおるが、我の力は健在じゃ、って、ありゃ?」

レイリアは無事に冒険者登録を完了したようで、レイリアがカードに触れた時、カードは明るく光りを放った。

そしてレイリアは、満足そうな笑みを浮かべながら、先程のセリフを偉そうに話したのだが、カードを見た瞬間に何故か腑抜けた声を出した。

「おい、これ、間違ってはおらぬのか?」

レイリアは焦ったようにカードをマリアに見せつけた。

だが、マリアは驚いたような表情を浮かべながら言葉を返した。

「カードから光が出たので15歳以上だとは思いましたが、まさか22歳だとは、とてもお若いのですね。」

レイリアは力は抑制されていると言っていたし、年齢もこちらに来るにあたって偽っているようだ。

流石に2000歳を超えてるなんて言われたら騒ぎになりかねないし仕方がないだろう。

「そ、そこじゃない!!我の能力、スキルじゃ!!流石にここまで低いわけがなかろう!!」

レイリアは必死にそう訴えると、マリアはふむふむと考えるようにカードを見つめ、感心したような顔をレイリアに向けた。

「ゴホン、すいません、思わず年齢に目がいってしまいました。それに能力を見てみましたが、冒険者になったばかりなのに、もうレベルが11ですので大変優れていると思いますよ。そしてレイリアさんは魔法に適性があるようです。光と風の魔法に関しては、中級冒険者に匹敵する程ですよ。」

聞く限り冒険者になったばかりという事を考慮すると、かなり凄い能力を持っているらしいが、レイリアには不満が残るらしい。

「うううう、この我が中級冒険者とは、、、」などと嘆いているが、俺的には十分だと思う。
だが、こいつは俺の中で残念駄女神として扱っている、もしかしたら他の女神はもっと強いのかもしれない。

「おい、慶斗、何をニヤついておるのじゃ?お主も早く登録しろ。」

レイリアの能力が思ったより低くて安心しているなんて口が裂けても言えない。俺のハードルが下がった事でニヤついているなんて気付かれてはレイリアの逆鱗に触れるだろう。

俺は口にキュッと力を入れ、真剣な顔でカードに手をかざす。

その瞬間、無事に登録されたようで、カードから光が放たれた。

俺の心臓はバクバクと激しく音を鳴らしている。

かざした手をそのままに、ちらちらと指の間から覗きこむようにステータスを確認する。

うぅ、1やら2やら、何か不穏な数字が見える。

俺は不安から流石に辛抱堪らず、かざした手で勢いよくカードを掴み、内容を恐る恐る確認する。

ふーむ、レベルは、、、、1。

いや、まあ良い。レベル1で逆に良い。成長の伸び代が大きいんだから良い事に違いない。てか、レベル99とかだった方が怖いし、レベルはまぁこれで良い。

そして能力値を確認する。

攻撃力や防御力、素早さに魔力など色々あるが、どれもこれもが10以下。

攻撃力は13と比較的高いが、これらの数値が明らかに小さい事が分かる。

だが、だがまだだ。スキル、スキルに最強で最恐のとんでもスキルがあるに違いない。

経験値10倍とか、能力値50倍とか、そんな壊れスキルがあるに違いない。

俺は薄目でゆっくりとスキル欄に目を向ける。

「剣術ーレベル1」、、、、、、。

だけ?

俺は一気に目を大きく開けて、マジマジと冒険者カードを見つめる。だが、その剣術以外にスキル名は何もない。

いや、待て、まだ希望はある。

『「剣術」なんて平凡な名前がついているが、実は剣聖しか持つ事のできない凄いスキルなんですよ』、とかいうパターン。

はたまた、『ハズレスキルだと思っていたら、実は最強のスキルだった』とかいうパターンだ。

なぁ、マリアさん、そうだと言ってくれ。
このスキル実は凄いんですとか言ってくれ。

俺は必死にそう願いながらマリアさんにスキルカードを見せ、内容を確認した。

「剣術スキルがあるなら剣士がおすすめですね。能力値は、全体的に少し低いですが、攻撃力は平均ほどですので、無理のないクエストであれば十分に活躍できると思いますよ。」

「あのー、剣術スキルって剣聖にしか持つ事が許されない最強スキルだったりします?」

「しませんね。」

「剣士って隠れ最強職業とかだったりします?」

「しませんね。」

俺の震えた声で細々と投げ掛けられた質問を、マリアさんはバッサバッサと切り捨てていく。

俺はまだクエストにすら行っていないというのに、もうHPは0に近い。

「ま、まぁ、これからクエストでもやって強くなれば良いじゃろう。そう落ち込むでない。」

まさかレイリアに励まされるなんて思いもしなかった。どうせ茶化されるのだろうと身構えていたが杞憂であった。

というか、なんかこいつに哀れみの目を向けられるなんて少しムカッとくる。

てか、こいつ、少しニヤついていないか?

俺がお前以上に能力が低くて安心しているのだろう。自分の事を棚に上げるようで申し訳ないが、こいつ良い性格してやがる。

「クエストでしたら、あちらの掲示板にありますので、お二人のレベルに見合ったものを選んでこちらに再度持ってきてくださいませ。」

あぁ、そうだな。

俺だってレベルを上げて、他の奴らに負けないくらいには強くなってやる。

ていうか、そんなレベル上げとかスキルとか関係なく、早くクエストを進めないと、今日はお金が無くて野宿になる。下手したら夕飯抜きという未来も見える。

俺は自分の能力の低さと、所持金の少なさに板挟みになりながら、急いで掲示板へと向かった。







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