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プロローグ

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こ、こんな事があってたまるか!?

実は、俺はさっき、トラックにはねられて死んでしまったのだ。

だが、死んだと思った次の瞬間には、この真っ黒い亜空間のような場所に立っていた。

そして目の前に現れたのは、女神様だとか名乗る頭のイカレタ連中どもで、そんな俺に異世界に転生してもらいたいなどと、厨二病全開で言ってきたのだ。

だが、今はもうそんな事はどうでも良い。
トラックに轢かれて死んで、異世界に転生する事になった事なんて、この際どうでも良い。

なんなんだ、この女神どもは、俺への扱いだけ酷すぎないか。

異世界転生の醍醐味といえば、ニートでゲームばっかやってるような引きこもりが、選ばれし勇者だとか言われるやつだろう。

そんでもって聖剣だか魔法やらを使って、魔物や魔王を倒すやつ。

そして冒険の途中で出会ったお姫様や女戦士と、はたまた女神様と、俺の中に潜む夜の魔王まで討伐してやろうなんていう、涙あり笑いあり、キャッキャッウフフな、そんなものだろうよ。

なのになんで俺は今、目の前の女神どもに暴言を吐きかけられなければいけないんだよ。

「うむ、こいつは一番ナイですね。」
「プププ、ださーい。」
「弱そうやな。これはダメや。」

そうやって罵詈雑言を浴びせ続けられているのだ。

ドMだったら、そりゃぁ狂喜乱舞するだろう光景だよ。でも俺はそんな性癖は持ち合わせていない。

泣くぞ、マジで泣くぞ。大人のギャン泣き見せてやろうか。

それにだ、なんで勇者がこんなにいっぱいいるんだよ。

選ばれしも何も、適当に選んでるだろこいつら。

なんたって、俺以外にも勇者として呼び出された奴らが計5人。俺も含めて合計で6人。

そして同じように、女神を自称する性悪ビッチ供も計6人。

俺の事を散々罵ってくれた奴、絶対に転生先で後悔させてやるからな。

というか、文句を言わせてくれ、文句を。

なんで俺以外の勇者はこんなにも若いんだよ。自己紹介を聞いてもみんな20歳以下、というか大体が高校生じゃねぇか。

なのに何でその中に1人、髭の剃り残しがある、むさ苦しい自称大学休学中の21歳フリーターが佇んでんだよ。罰ゲームか何かかよ。

ちっ、キラキラな笑顔作りやがってよ。

毎日ゲームに漫画、アニメのオタク3連コンボを決めている陰キャ男が、なんで1人だけ紛れ込んでんだよ。

みんなイケメンだし、スペックも高い。

やれ、サッカーの全国大会に行っただとか、全国模試で全国3位になっただとか。

だから俺は自己紹介で言ってやったよ。

高木慶斗たかぎけいとです。21歳大学生で、趣味は漫画を読む事で、特技はその、あー、寝る事です。」

特技は寝る事ですという渾身のギャグを披露してやった。バイト以外で人と喋る機会がないのによく頑張ったと褒めて欲しいくらいだ。

てか何で俺の時だけ、自己紹介が終わった後にまばらに拍手されてるんだよ。
やめろ、やめてくれ、気を遣わないでくれ。

あぁ、完全にスタートを間違えた。

そこからは女神供が俺達勇者を見定めるため、順繰りに観察されていく訳だが、最初は俺だってドキドキしたよ。

あんな黒髪長髪クールビューティー美女や、金髪縦ドリルお嬢様美女、体育会系褐色短髪美女が、俺の異世界のパートナーになるのかもって。

なんか合コンというか、お見合いというか、パリピが見てそうな恋愛レアリティーショーみたいな展開で、とてもテンションが上がっていたし、凄いキメ顔をしていたのに。

こいつらは、どいつもこいつも、俺に向かって罵詈雑言を吐き散らしやがる。

俺のHPはほぼ0だっていうのに、それでも鳩尾にクリーンヒットさせるように、「ふふ、寝る事ね。」と止めを刺してきやがるんだ。

女神どもはそんな感じだったが、ここに呼ばれた勇者仲間からは、哀れみというか同情というか、隣に立っている奴なんて、「大丈夫、気にする事ないですよ。」なんて優しく声をかけてきてくれるんだ。

イケメンは性格が良いなんて聞いたことあったけど、本当なんだな。今まで陽キャ、パリピって馬鹿にしてごめんなさい。

そんなこんなでどんどんとコンビが組まれていく。

女神どもには選ぶ順番が決まっているようで、多分強い女神というか、偉い女神から順番に、どんどんとパートナーにする勇者を選んでいっているようだ。

また1人、また1人とパートナーが決まり、俺は売れ残っていく。

何で死んでまでこんな生き地獄を味わわなければいけないんだと、遠くの空を眺めていると、とうとう俺が最後の1人になってしまった。

コンビを組んだ勇者と女神は、どんどんと我先に異世界に旅立っていく。

手なんか繋いで「頑張ろうね!」なーんて、羨まけしからん。

そうしてこの空間はすでに俺ともう1人だけ、多分一番下っ端であろう女神の2人しか残っていない。

「おい!おい!そこの、そ、こ、の、お、と、こ!何をボーッと突っ立ておる。我らも早く行くぞ。」

下の方からは偉そうというか、元気そうというか、公園ではしゃぐ小学生みたいな声が、俺の耳をつん裂こうと響いてくる。

俺は口をポカンと開けながら、まるで死人やゾンビのように、ゆっくりと顔を下げた。

するとそこには、俺の胸の高さほどしか身長のない、ランドセルを背負っていてもおかしくないような、明らかに小学生くらいの見た目の少女が立っていた。

その少女は、所々に金の装飾や刺繍を施した、純白のワンピースに近いドレスを身につけており、金の腕輪やブレスレットまで身につけている。

白金色の輝く髪を、肩甲骨くらいまで伸ばしたロングの髪型で、青を基調とした花や宝石のついた、金のティアラを身につけている。

小学生にしては、大人っぽい服装をしているとは思うが、頑張っている感が半端ない。頑張って頑張って背伸びしてる感じが逆に可愛らしいくらいだ。

少女は俺を見上げるように、胸を張り、腰に手を当てるようにして、こちらを見据えていた。

「はははは、神々しくて言葉も出ぬか?」

ない胸をこれでもかと前へと突き出しながらそう言ってきた。

てか、勘違いするなよ、俺はロリコンじゃない。決してロリコンじゃない。目の前の頭のおかしい小学生が、胸を名一杯突き出しているから、胸に目がいっただけで、別に小学生の胸が好きな訳では全くない。

「えっ?こども?」

俺が思わず口走ってしまったその一言に、少女は口をガクリと開き、一気に耳まで真っ赤にすると、蒸気機関車のように、勢いよく怒り始めた。

「こ、こどもじゃと!?我はこの世界の女神が一柱、、、になる予定の、レイリア・ビアン・ゴウデウスじゃぞ!!ふざけた事を言いおって!!この彼女いない歴史イコール年齢勇者!!童貞ニート勇者!!このナイスバディを見て、こどもだなんて、この熟女好きめが!!!」

「は、はあ!?どこからどう見ても小学生にしか見えないだろ!!てか、俺が熟女好きだと!?馬鹿にするな!!俺は確かに年上好きだが、年下だって普通に恋愛対象ですから。」

「くうぅぅぅ、やはりかこの変態ロリコン勇者め。そんないやらしい目で我の胸や尻ばかり見おって、こんな奴が我の勇者だとは、本当に最悪じゃ。それに、我はまだ女神候補という立ち位置じゃが、我も女神と同様、敬う姿勢を忘れるな。」

「はいはい敬いますよ。お子様プレート常連女神様、よろしくお願いしますね。」

互いに下らない言い合いを行なったが、俺の心の中にはなんとも言えない満足感があった。
なんたって、久しぶりに他人と、それもバイト以外の人と、そして女の子と喋ったのだ。自分で思っていて気持ちが悪いが、少しだけ気分が良いのは内緒である。

というか、彼女いない歴イコール年齢勇者だとか、童貞ニート勇者だとか。俺の心にクリティカルヒットする言葉ばかり使いやがって。

「彼女いない歴イコール年齢って言ったって、俺はまだ21歳だぞ、普通だよな。普通だよな??草食系男子が流行ってるし、これくらいが一般的に決まってる。それに、童貞は良いだろ。俺は純情なんだ。運命の出会いを待ってる一途な男なんだよ。」

俺はまくし立てるように、オタク特有の早口でそう話す。言ってはいけない言葉というのが世の中にはあるって事を勉強するんだな。

「こ、この、減らず口を叩きおって。ふふ、まぁ、我は器のひろーい女神だ、許してやろう。それよりもじゃ、もうすぐこの亜空間は消滅する。我らも否が応にも、異世界へ転移させられるのじゃ。ふふふ、せめて我の勇者として、野望を果たすべく、その勤めを果たしてくれよ。」

俺の早口によるまくし立てで、多少言い淀んでいるようだったが、曲がりなりにも女神様、上手く立て直し、偉そうにそう話した。

この亜空間に送り込まれてから聞いた情報をまとめると、俺はこれから異世界にこのお子ちゃま女神と一緒に転生する事になるそうだ。

そして、このガキンチョ女神と共に、魔物を倒し、最終的には魔王を倒し、訳の分からない女神ポイントとやらを獲得していくのが目的らしい。

そして最終的に、女神ポイントを一番多く獲得した女神候補が、正式な女神として認められ、天界で女神の業務を行う事ができるようになるらしい。

てか、こいつらはまだ正式には女神じゃなかったのか。目の前のまな板女神は、見栄張ってるみたいだけど、実際には女神候補生のようだ。

そして相棒の女神候補生が正式に女神になった暁には、そのパートナーである勇者は、神候補生になる資格を得られるらしい。

まぁ、失敗しても、ただ天国に送られるだけらしいので、個人的には面倒くさいし、異世界を満喫する以外では、努力する気はさらさらない。

てか、神候補生って何だよ。神とか女神とかを養成するアイドル事務所でもあるのかよ。

そんな事を考えている最中も、小学生女神は俺に向かって講釈を永遠と垂れている。

俺はそれに言い返すように、言葉を発した。

「それで、お子様ランチ女神様は、今おいくつなんですか?」

「お、の、れ。レイリアと呼んで良いと、この我が言っているというのに、そんな変な名前で呼びよって。ぐぬぬ、ま、まぁ良い。私か、私の年齢はな、今年で2213歳じゃ。恐れ多いだろう。さぁ、敬うが良い。」

「ロリババア、、、」

俺は思わずそう呟いてしまう。

アニメや漫画でよく見た、子供の見た目なのに、実は100歳を超えているような長寿のキャラクターを指す名称である。

だが、その言葉に不機嫌になったようで、ペチャパイ女神は、口を尖らせながら、不満を述べた。

「ロリ?ババア?じゃと!?私は女神の中でも長く生きている方なのじゃ。特に先程いた後輩供と比べれば、私は完全に先輩だぞ。ババアではなく、年長者として敬うべきじゃ。」

ほう、後輩供?こいつが先輩?

うんうん、なるほどなるほど。

何で完全に先輩であるこのロリ女神が、一番最後に勇者を選ぶハメになったのだろうか。

確か、強い順だか、偉い順だか、位が高い女神から順に勇者を選んでいくと聞いているぞ。

もしや、こいつ、後輩に負けちゃうような、残念な子なのだろうか。

「なんで先輩のババア女神様が、一番最後に勇者を選んでるんですかぁ?」

俺はしたり顔でそう尋ねる。

すると自称先輩女神様は、予想以上にキョロキョロと目を泳がせ始めた。

「い、いやぁ、そ、それは、あれじゃ。あれじゃよ。後輩に花を持たせてやろうとな。」

こんなにもキョどっている残念女神を見てしまうと、この先の異世界生活が不安でしかない。

てか、可哀想すぎるだろ。

良くドラマとかで見る関係のやつだろ。
昔は先輩と敬ってくれていた後輩は、今では上司になってしまいました的な。マジで心が痛む。

「おい、何だその目は?同情するな!憐むな!可哀想なものを見る目を向けるな!!」

自称先輩女神は、涙目になりながら、手足をブンブンと振り回している。

そんな残念女神を眺めていると、徐々に視界が真っ白く変化しているのに気がついた。

「くっ、まぁ良い。既にこの仮初の亜空間も消失し始めたようじゃな。よし、あと数秒で我らも異世界へ転移させられるじゃろう。ふふ、頑張ってのぉ、ゆ、う、しゃ、さ、ま。」

その小馬鹿にするような声が終わると、一気に視界が白く塗りつぶされた。

そして俺はこれから魔王のいる異世界に転生する。

しかし、目の前にいるのは紛れもない駄女神である。

俺自身の事を棚に上げて物を言うようで申し訳ないが、せめて、せめて言わせてくれ。

『のじゃロリ残念駄女神と一緒に、魔王なんて倒せると思うなよ!!』


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