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プロローグ

プロローグ1

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「良いよなぁ、俺も彼女欲しいわー。あんな可愛い彼女いるとか本当に優真が羨ましいわー。」

「だから、彼女じゃないって言ってるじゃん。」

既に100回以上は繰り返されたであろう同じ様なやり取りに辟易しながら、俺は友人と2人で帰路に着く。

何でが俺の彼女だってことになっているのかさっぱり理解できない。

確かに俺はから何度も告白された事はある。だが、その度にしっかりと断ってきた。

だからこそ、俺の彼女がだなんてあり得ないし、認めない。

ここだけ聴くと俺が薄情な奴に見えるかもしれない。しかし俺だけはの本性を知っているのだ。

皆んなだってあいつの本性を知れば、俺の言っている事が正しいって信じてくれるはずなのだ。
まぁ、それが難しいからこそ、この誤解が解けないのだが。

なんだって、先程みたく俺の彼女がだって勘違いしている奴等には、その度に否定し続けているのだ。

それなのに全く改善の兆しが見えてこない。

思春期と青春まっさかりの高校時代、確かに彼女がいればどれ程までに学生生活が豊かになるかは言うまでもない。

もし本当に彼女ができるのであれば、これ程までに嬉しい事はないだろう。

彼女がいない身からすれば、彼女がいる奴というのは嫉妬や羨望の対象なのは理解できる。

それに外見だけ見てしまえば、を彼女にできる男がどれ程までに恵まれている存在なのか分からなくもない。

でも、俺は違う。違うんだ。

だけは絶対に無理なんだ。

なんだって、俺だけはの裏の顔を知っているのだから。

「彼女じゃないって酷すぎだろ。あんな可愛いのに。」

そうなんだよ、厄介なことに外見だけ見れば確かに可愛いんだよ。でも騙されてはいけない、外見だけなのだから。

「誰から俺の彼女があいつだって聞いたんだよ。」

「誰って、、、皆んなそうやって言ってたぞ。」

またこのパターンだ。
この噂を誰が流していて、どうやって広まっているのかを確認しようとしても、出所が曖昧なのである。

まぁ、ここまでくれば犯人が誰なのか分かっているようなものなのだが、問い詰めるのも億劫だし、改善されるのを指を咥えて待つしかないのだろうか。

その後も、やれ手は繋いだのか、キスはしたのか、どこまでいったのかと、事細かに茶化されながら尋問される。

他人の恋愛事情ほど面白い話の種はないのだろうが、流石に勘弁してほしい。 

本当の彼女であるならば、まだ惚気ながらデートの話の1つや2つでもできようが、本当に彼女でも何でもない赤の他人なのだから、俺はただただ困り顔をするしかないのだ。

早くこの下らない話を終えたくて、歩くスピードが僅かに速くなる。

俺とが付き合い始めたなんて噂が流れ始めたのは、ざっと半年前の事だろう。

噂が流れ始めてからは、毎日のように恨み言や質問の嵐となった。

茶化すようにについてあれやかこれやと質問してくる男友達。
あーでもないこーでもないと、ひそひそ噂しあうクラスの女子達。

は彼女じゃないと否定するたびに、「恥ずかしがるなよ」とさらに煽られる。
最悪の場合、酷い事を言う最低男だと非難された事もあった。

当初は毎日のように胃がキリキリと痛んだものだけど、今はもう慣れてしまったせいか、はたまた胃が厚くなったお陰か、絡んでくる奴らも減って平穏な日々を過ごせている。

俺はこれ以上の話をしたくなくて、無理やりに話題を変えつつ歩くスピードを遅めた。

流石に察してくれたのだろうか、その後はについての話をする事もなく、取り留めもない話が続いた。

俺の家は高校から歩いて二十分程の位置にある。
一緒帰っている友人は俺の通学路の途中に住んでいる。そのような位置関係もあり、こうしてよく一緒に登下校する仲になったのだ。

そして高校を出てから十数分、友人宅に到着した。

また明日と別れの挨拶を交わし、俺は再び自宅へ向けて歩き出す。

そうして大通りに出て、あと数分で家に着くという所だった。

前方から明らかに法定速度を超え、猛スピードで走ってくる軽自動車が見えた。

俺は本能的に恐怖を感じ、少しでも身の安全を守るために歩道の端に寄った。

しかし、そんな俺のいる歩道へ向かって、軽自動車は突っ込んでくるように見える。

このまま進行方向を変えずに直進して来られてしまえば確実に衝突する。
俺は恐怖を感じ本能的に後ずさった。

それでもまるで追尾してくるかのように車はこちらへ向かってくる。

スピードを緩めるどころか、さらにスピードを出している気さえする。

鼓動が激しく、まるでゆっくりと時間が進むように感じる。
汗が頬をつたい、車を見つめているが上手く焦点が定まらない。

体全身が恐怖と緊張で鉛のように重く、そして硬くなっているような錯覚を感じていると、フロントガラス越しに運転手の顔が見えた。

こちらを睨みながら、それでも笑っているようにも見えるその顔。全く身に覚えのない人物だった。

俺は不気味に笑っている顔に、心の底から冷えるような恐怖を感じて思わず目を詰った。

その直後、体全体に強い衝撃が走る。しかし不思議と体に痛みは無かった。

俺は心の中で「死ぬっ!!」と叫び、体を強張らせた。

だがそれから何秒経った頃だろうか。意識が途切れる事もなく、特に何の変化も感じない体に、流石に違和感を感じた。

もし体全体に衝撃が走ったあの瞬間が、俺と軽自動車がぶつかる瞬間であったのならば、確実に俺は吹き飛ばされ、そして死んでいてもおかしくないだろう。

それなのに、今の自分の体勢は衝撃を受ける前のものと変わらない気がするのだ。

いや、普通に考えておかしいだろう。

音は何も聞こえてこないし、確かにどこかに立っている感触がある。
普通に地面の上に立っているような感触だ。

もし車に衝突されて突き飛ばされていたのなら、今頃は地面の上で横になっているであろうし、そのまま直立不動でいられる訳がない。

俺は熱く回転している頭を冷まし、激しい鼓動を収めるためにゆっくりと深呼吸をした。そして同時にうっすらと目蓋を開ける。

しかし視界に映る映像は何も変わらない。真っ黒なままだった。

目を開けているのか閉じているのかが曖昧で、その事に不気味さを感じつつ、警戒するように頭上や足元を確認する。

頭上は夜空を数倍黒く染めたような、吸い込まれてしまいそうな深い黒色をしている。

そして足元を確認する。こちらも同じように深い黒色をしているのだが、おかしい点が2つあった。

それは自分自身の足が見える事。

そして地面は見えないのに、床の感触がある事だった。

目蓋を開けても視界は真っ黒なままだったので、暗い場所にいるのではないかと思っていたものの、そうではないらしい。

光源が無いように見えるのだが、どうして俺の足は鮮明に見えるのだろうか。

それに地面が見えない事に不安になる。

足はしっかりと見えているせいで、まるで宙に浮いているように見えるのだ。

それなのにしっかりと床の感触があるものだから違和感しか感じない。

何がどうなっているのか1ミリも理解はできないが、例えるならば死後の世界か何かではないのかと理解できた。

あの状況の後にこの光景が広がっていたならば、そう考える他ないだろう。

ゆっくりと深呼吸を続けてはいるが、死んだという実感と、この不思議な世界に触れているせいか、胸はずっしりと重く息苦しいような不快感が増してくる。

私は眉をひそめ、斜め下を見つめるようにして今の状況を必死に飲みもうと努力する。

しかし、そんな努力を嘲笑うかのように、クスクスと女性の笑うような声が後ろから聞こえた。

不意の出来事で、ビクリと体を震わせながら体を翻す。

だが振り返った先にいたのは、そんな不安とは対照的な程に美しい人物であった。

その人物は柔らかい笑みを浮かべた見目麗しい女性で、年は自分より少し上の20過ぎくらいの印象を受ける。

サファイアのようにキラキラと輝く蒼い瞳。
まるで絹糸のように透き通る銀色の髪。

髪は非常に長く足元まで伸びており、まるで天の川のように周囲を明るく照らしている。
所謂平安時代の絵に登場する女性のような髪型で、流れるように髪を垂らしいる姿は非常に艶かしい。

俺は半ば見惚れるように彼女を見つめながら、あまりの出来事に放心してしまっていた。

そんな俺を知ってか知らずか、彼女は金や銀で煌びやかに装飾されている笏のようなもので口元を隠しながら、おっとりと目を細め俺に話しかけてきたのだ。

「あら、驚かせてしまいしまたね。ごめんなさい。初めまして、私はフュロートエリア、貴方にお願いがあって呼び出したのだけれど、少し私の話を聞いてくださらないかしら。」








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